グラフィック2019.08.21

書体も満足に揃っていない社内デザイナーからスタート。タイポグラフィを武器に、文字の強さを存分に引き出すデザインに取り組む

名古屋
グラフィックデザイナー
Yusuke kanou
加納 祐輔
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フリーランスのグラフィックデザイナーとして名古屋を拠点に活躍している加納祐輔さん。自身のホームページには「つたわる、日本語デザイン」というキャッチコピーが掲げられている。その謳い文句通り、加納さんのデザインを見ると、どの作品も「文字」が瞬時に目に入ってくる。タイポグラフィのテクニックを駆使し、文字の魅力を打ち出したデザインが加納さんの真骨頂だ。食品会社の社内デザイナーからスタートした加納さんはいかにして現在のポジションを築くまでに至ったのか。成功への道筋をたどる。

書体の組み合わせ、文字組みなど細部にこだわって作り込む

書体の組み合わせ、文字組みなど細部にこだわって作り込む

グラフィックデザイナーとして最も重要視しているのは「文字」です。パンフレットであれば、手にされた方に文字がどう見えるか、どういう印象で伝われば読みたくなってくれるかということに一番心を砕いていますね。

視覚的に入り込みやすい文字デザイン。言葉で言うのは簡単ですが、実際のデザイン作業としては難しいですよね。

言葉に対して適切な「書体」と「文字組み」を選んでレイアウトしていく──タイポグラフィの効果を打ち出すことに精力を傾けています。見出しをデザインする場合でしたら、漢字の書体と「かな書体」を効果的に組み合わせたり、「っ」や「ょ」といった拗促音(ようそくおん)の大きさを変えたり、左右のバランスも微妙に調整して。細部にわたって文字デザインにこだわって作り込んでいます。

目にする側ではその計算を捉えて見ているわけではないので、自然と目を奪われる文字デザインになるんでしょうね。

タイポグラフィは文字の魅力を最大限に引き出してくれます。書体やサイズの調整がピタリと決まると、文字を組む作業を行っていて気持ちがいいですね(笑)

恵まれない制作環境を逆手に取って文字デザインに活路を見出す

グラフィックデザイナーの中にもさまざまなタイプの方がみえますが、加納さんはどうしてタイポグラフィを得意とするようになったんでしょうか?

専門学校時代から文字のデザインに興味があったわけではないんです。社内デザイナーとして仕事をしていた時期の職場環境によるものが大きいですね。

食品会社でデザインを担当していたんですよね。どのような環境だったんでしょう?

パンフレットやチラシを作ったり、企画書のデザインを仕上げたりが主な業務でしたが、とにかく予算が少なくて、写真やイラストに費用をかけさせてもらえなかったんです。そうなると、文字デザインにこだわるしかない。そうした環境もあって、タイポグラフィの勉強に取り組むようになりました。

どうやって勉強したんですか?

デザインの部署は自分ひとりだけで、教えてくれる先輩もいませんでした。それで、本を読んで勉強しようと思ったときに、2冊の本に出会いました。

どんな本ですか?

「デザイン解体新書」(ワークスコーポレーション)と「真性活字中毒者読本」(柏書房)の2冊です。「デザイン解体新書」では、書体の組み合わせや文字詰めといったタイポグラフィの技術によってデザインの完成度が大きく変わることを学びました。一方、「真性活字中毒者読本」は活字書体に関する薀蓄(うんちく)や事例に満ち溢れた本。この2冊で、文字というものに対する興味が大きく膨らみました。今でも僕にとってのデザインの“バイブル”になっています。

フリーランスとして不安な船出。セミナーで人脈作りに取り組む

社内デザイナー時代に独学でタイポグラフィの魅力を学び、5年目で独立。フリーランスとしてやっていけるという自信はありましたか?

全然なかったです(笑)。社内に先輩デザイナーがいない環境だったので比較対象もなく、“自分はほんとうに一人前のプロのデザイナーとして通用するのだろうか”という不安がありました。ただ、タイポグラフィの勉強はずっと続けてきたので、文字組みに関しては人に負けないだけの技術はあるだろうと思っていました。

デザイン事務所からの独立ではないですし、人脈はどのように作られたのですか?

デザイン関係の伝手(つて)がないので、当初は苦労しました。デザイン関係のセミナーに積極的に参加して、色々な方との繋がりを作っていくことから始めたんです。セミナーを受講した後の懇親会にも積極的に顔を出すようにしました。

そうした繋がりの中から、東京のデザイン会社と密接な関係を築いていくことになったんですね。

知り合いに紹介されたのが、「そうさす(総佐衆)」という会社でした。製作からブランディングまで力を入れて行こうとしていて、専属的に仕事ができるデザイナーを探していたんです。

愛知県に暮らしながら、デザイン会社の専属デザイナーとして仕事をしていけるんですか

今でも毎日のようにSkypeで「そうさす」の社長と打ち合わせをしています。「そうさす」はプロジェクトごとにチームを作って仕事を進めていく形を取っていて、デザイナーやカメラマン、ライターは外部スタッフで構成しているんです。

Skypeで打ち合わせをしながら、自分の仕事場でデザイン作業を進めていくという流れですか?

打ち合わせの際には直接、クライアントの元へ「そうさす」のスタッフと同行して伺います。東京の金属加工メーカーや大阪の中高一貫校の案件でも、現地まで足を運んでいます。

何気なく工場に置かれた金属製品の美しさからデザインイメージを発想

東京の金属加工メーカーの会社案内パンフレットを拝見しましたが、モノトーンのインパクトのあるデザインですね。

以前のものは中小の町工場的な会社案内でした。機械設備を丁寧に紹介しているんですが、強く訴えかけてくるものが感じられませんでした。工場見学に訪れた際に、金属のリールが無造作に置いてあるのを見て、“綺麗だな”と思ったんです。こんなに綺麗に感じるのは技術の高さの現れなんだと。

デザインのアイデアを掴んだんですね。

実際に作っている方たちは日々当たり前に目にしているので、自社の製品の魅力に意外と気づいていないことがあるんですよね。金属の美しさをライティングで際立たせて撮影すれば、インパクトのあるビジュアルで高い技術力を訴えられると思いました。

金属の美しさと「切る」「極める」というキャッチコピーがマッチしていますね。

言葉の持つ力を引き出せるように常に心がけています。切断面の美しさを表現したビジュアルのイメージに合わせてコピーが決まり、ビジュアルに負けない強さのある文字をデザインしました。

クライアントとの打ち合わせに臨む前に、業務内容などについてのリサーチは綿密に行っているんでしょうか?

多少のリサーチはしますが、大切なのは打ち合わせの場で相手の方のお話にしっかり耳を傾けることですね。だいたい2時間くらいはかけています。

クライアントがはっきりとしたイメージを持ち合わせていないこともありますよね。

具体的ではなくても、皆さん、今後どのような会社になっていきたいのかという想いは持っています。ブランディングまで手がける場合は、会社としての理念を一緒に考えていくというプロセスから始まりますね。

デザイン面だけでなく幅広く関わっていくんですね。

打ち合わせの中では、まずはクライアントの持つ強みを把握した上で、今後どの部分をアピールしていきたいのか、世の中にどのように見られたいのかといった点も一つひとつ確認しながら進めて行った方が、デザインの方向性に狂いが生じないですね。そこが詰めきれていないと、担当者の好き嫌いといった好みで判断されてしまうこともありますから。

名古屋でのクリエイター向けセミナーを精力的に開催

現在、デザイナーとしての仕事に加えて、セミナーの開催にも力を入れていますね。

日本グラフィックデザイナー協会・愛知の仲間と3人で、昨年からクリエイター向けのセミナーに取り組んでいます。

どのような経緯でセミナーを開催するようになったんでしょう。

1昨年に初めてタイポグラフィ初心者のためのミニセミナーを開催しました。フォントの選び方や文字組みについての基本的な考え方を解説する内容でしたが、実は名古屋ではタイポグラフィのセミナーはほとんど開催されていない状況だったんです。私自身、デザイン専門学校でタイポグラフィについて学ぶ機会はなかったですし。こういう状況を何とか変えていければという想いで取り組み始めました。

その後、テーマを広げていますね。

タイポグラフィだけでなく、クリエイター向けの講座自体が名古屋では少ないんです。東京や大阪まで足を運ばないと、専門的なセミナーを受講することができません。7月にはブランディングの専門家を招いたセミナーも企画しました。一流の講師の考え方に直接触れて学べる機会を名古屋で広げていければと思っています。

個人的には目標として思い描いていることはありますか?

やはり文字を組むことが好きなので、ブックデザインを手がけてみたいですね。装丁の仕事は東京中心で回っている世界で、一部の人を除いては高い報酬を得られにくいんですが、タイポグラフィのスキルを活かしてチャレンジする価値はあると思っています。

デザイナーとしての「武器」を身につければこの世界で生きていける

自分自身の経験を振り返って、若いデザイナーの人たちに伝えておきたいことはありますか?

デザイン専門学校では主にポスターデザインを学んでいたんですが、けっして優秀な学生とは言えませんでした。今だから言えるのは、学生時代の才能や技術不足を気に病む必要はないということですね。

才能が不足していると思っても、社会に出てからいくらでもカバーできると。

私自身、書体も満足に揃っていない環境からのスタートでしたが、ずっと勉強を続けてきたからこそ今の仕事があると思っています。1日1時間、それが難しければ10分でもいいので、毎日の生活の中に意識して勉強する時間を取ってもらえればいいですね。

加納さんの場合は、その勉強の対象がタイポグラフィだったんですね。

タイポグラフィには先人の方たちが作り上げてきたノウハウが蓄積されているので、それをしっかり勉強して身につければ、デザイナーとして一定のクオリティを身につけて自分の武器にすることができます。もちろん、タイポグラフィでなくてもいいので、自分がデザイン技術の中で「コレだ」と思ったものに精力を傾けていけば、きっと結果はついてくると思います。

ありがとうございました。

取材日:2019年7月1日 ライター:宮澤 裕司

プロフィール
グラフィックデザイナー
加納 祐輔
1976年生まれ。愛知県長久手市在住。2003年、日本デザイナー芸術学院ビジュアルデザイン科卒業後、食品会社のインハウスデザイナーとしてパッケージデザインや紙媒体のデザイン全般を担当。2008年独立。フリーランスのグラフィックデザイナーとして活動する一方、株式会社そうさすの専属デザイナーとして、同社のブランディング事業や紙媒体、Webページデザインなどの制作を担当。現在は名古屋でタイポグラフィやブランディングなどのセミナーの企画・運営にも力を入れている。

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