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アメリカのMTVでキャラクターデザインを担当!生き方、働き方を見直しN.Yからバーモント、福岡へ。

福岡
イラストレーター/アーティスト/デザインユニット「MOSS MOON」 葉村 ロング かおりさん
Profile
福岡市生まれ。上智短期大学英語科を卒業後に渡米し、ニューヨークのパーソンズ美術大学を卒業。アメリカの大手ケーブルテレビ局MTVに入社して、人気アニメ番組や映画のキャラクターデザインを手がける。その後、フリーランスとなる。2013年に帰国して福岡へ。夫とのユニット「MOSS MOON」としても活動。
アメリカで、テレビ局のキャラクターデザイナー、フリーランスのイラストレーター・デザイナーとして、活躍していた葉村ロングかおりさん。病気や出産、テロをきっかけに自身の生き方や働き方を見直し、ニューヨークからバーモントへ、そして、福岡へと拠点を移されてきました。アメリカのテレビ局で働くことになった驚きのエピソード、それぞれの地での経験、クリエイティブにおける日米の違いをざっくばらんに語っていただきました。

子どもの頃から憧れていたニューヨークへ

葉村さんは福岡市出身とのことですが、なぜアメリカに行かれたのでしょう?

私は小さな頃から絵が好きで、いつも絵を描いていました。叔父が絵本作家だったこともあり、将来は絵を描く人になりたいと憧れを抱いていました。父は建築家で、家族で海外に行く機会が多く、小学生のときに初めてニューヨークへ行きました。そこでキース・へリングなどの色鮮やかなグラフィックアートに強く魅かれて、いつかニューヨークで絵の勉強をしたいと思っていたんです。
福岡の高校を卒業して、東京にある上智短期大学の英語科へ進学し、その後ニューヨークのパーソンズ美術大学に編入して、イラストを専攻しました。在学中は学会奨学金を受賞して、海外就学生としてパリ校にも在籍しました。

卒業後はアメリカで働くつもりでしたか?

明確には決めていませんでした。日本に帰ることも視野に入れて、卒業前にボストンで行われた日本企業の就職エクスポに参加し、世界的な玩具メーカーから仕事のオファーをいただいていました。
学校の先生からTシャツデザインの仕事をすすめられて、面接に行ったときのこと。同じ建物に、MTV(アメリカの大手ケーブルテレビ局)が入っていました。隣にいた女性に「ここにMTVが入っているんですか?」と聞いてみると、「インタビューに来たの?ポートフォリオ持ってる?見せて」と言われて、持っていたポートフォリオを見せたところ「ボスに話してくるから待ってて」と言われました。しばらくして、社内に通され、キャラクターデザインの課題が出されたので、その場で描いたところ、2日後に「うちで働かないか」という連絡をもらい、MTVで働くことを決めました。

すごい強運ですね。

そうなんです、自分でも驚きの展開でした。

キャラクターデザインをはじめ、多様な仕事を経験

MTVではどんなお仕事をされていたのでしょうか?

アニメーション番組のキャラクターを作る仕事です。「Beavis & Butt-Head(ビーバス・アンド・バットヘッド)」という人気テレビ番組や映画などのキャラクターをデザインしたり、社内コンペでビデオミュージック賞のパッケージアニメを制作したりもしました。

キャラクターはどうやってデザインされるのですか?

アニメの脚本を読み、キャラクターの声を聞いたりしてイメージを膨らませて、自分なりにキャラクターを描きます。ニューヨークには実に多様な人たちがいるので、私は街中でいつも人を観察していました。学生のときもよく公園でスケッチをしていたので、私にぴったりな仕事だったと思います。自由な発想でさまざまなキャラクターを生み出すことができて、とてもやりがいがあり面白かったです。

まわりに日本人スタッフはいましたか?

日本人はゼロで、ほとんどアメリカやヨーロッパのスタッフでした。あとは韓国や中国、フィリピンの方がわずかにいました。

MTV専属で働いていらしたのでしょうか?

いえ、番組にはシーズンがあり、私は1年のうち9か月間働き、3か月はお休みという契約でした。オフの間は自分の作品づくりに集中して、ギャラリーで展示する作品を描いたりしていました。
実はMTVに勤務していたとき、過労で大きな病気になり、1か月ほど休養することがありました。そこから在宅勤務をさせてもらうようになり、フリーランスの仕事を増やしていきました。フリーランスとしては、さまざまな雑誌のイラストを担当したり、Anna SuiなどファッションブランドのTシャツをデザインしたり、大学の先生をしたこともあります。本当に多様な仕事を経験しました。自分で制作・監督したウェブアニメーションがソサエティ・オブ・イラストレーターズ・ロサンゼルス銀賞を受賞し、テレビ局で毎週放映されたこともあります。

大都会ニューヨークから田舎のバーモントへ移住

ニューヨークで仕事は順調だったのですね。

そうですね。仕事は軌道に乗っていましたが、大都会の消費文化の中でお金のためにガツガツ働く生活には正直疲れていました。病気の影響で、何度か手術も受けたし、2001年の9.11にテロが起きたとき、私は現場のすぐ近くに住んでいて、この環境でこれ以上は自分の好きな作品を描けない、外の世界に出ようと決めました。それで12年ほど暮らしたニューヨークを離れて、夫とともにアメリカ北東部のバーモントに引っ越しました。

バーモントではどんなお仕事を?

ニューヨーク時代のコネクションで、引き続きデザインやイラストなどの仕事をしていました。MTVで出会った夫もデザイナーだったので、ふたりで「MOSS MOON」というユニットを組んで活動しました。
バーモントはとても美しい田舎です。あとから知ったのですが、私たちは有名な絵本作家ターシャ・テューダーさん※1の家の近くに住んでいたようです。フリーの仕事をしながら、庭師のアルバイトなどもしました。ハリウッドの脚本家W・D・リクターさんの豪邸で、土にまみれて草むしりをしたり、花を育てたり。バイト料は決して高くありませんが、夢のように素敵な世界で、絵本のアイデアもどんどん湧いてきました。そこで知り合った環境アーティストとコラボしたり、さまざまな出会いに恵まれて、夫と数々のギャラリーや美術館で個展をするようになり、仕事にもつながっていきました。

※1 アメリカを代表する絵本作家。バーモント州の山奥の農家に移り住み、植物と動物をこよなく愛し、自然に寄り添った一人暮らしを続けた。ターシャが作り上げた天国のように美しい庭は、“アメリカのコテージガーデンの手本"と称えられ、彼女のドキュメンタリー映画が公開されるほど、“ライフスタイル"そのものが人々を魅了している。

バーモントにはどのくらい住んでいたのですか?

7年くらいです。東北で3.11が起きたあと、日本で苦しんでいる方々をテレビで見て心が痛み、同時に少しホームシックになりました。それで、1年くらいのつもりで、家族で福岡に引っ越してきたんです。その頃は夫とチームでやっているフリーの仕事が順調だったので、日本でもその仕事をすればいいと軽い気持ちで2013年に一時帰国しました。

福岡で心機一転、新しい仕事にもチャレンジ

日本でアメリカの仕事をされていたのですね。

はい、でも1年も経たないうちに、そのメインの仕事をもらっていた会社が倒産してしまい、夫婦で大きな収入源を失いました。それでひとまず福岡にとどまり、こちらには仕事のコネクションが全くなかったのですが、娘の幼稚園のママ友の紹介で、福岡と大阪のロフトで夫婦のコラボ個展を実現できたことで、少しずつつながりができてきました。

今はどんなお仕事をされているのですか?

アメリカからの仕事がメインで、イラストやアニメ、絵本などを手がけています。ただ、フリーの仕事は波があり、せっかく日本にいるのだから日本の仕事もしてみたいと思い、週3日はフェローズさん※2の紹介でデザイン会社に勤めています。

※2 クリエイター専門のエージェント会社。「クリエイターズステーション」の運営会社。

アーティストとしてお仕事をする上で、アメリカと日本でどんな違いがありますか?

まず、アメリカではオファーをいただいてたくさん個展を開催してきましたが、日本では個展をするために自分がお金を払わなければいけないというのが大きく違いますね。あと、子ども向けのアニメや絵本の制作に関しては日本のほうが自由です。アメリカでは紫や暗い色は使わないとか、悲しい話はダメとか、いろいろな厳しい規制があります。日本で流行っている「うんこの本」なんて、アメリカではありえない。日本の子どもマーケットは自由でワイルドだなと思います。

どんなときに仕事のやりがいを感じますか?

相手が喜んでくれたときや、アイデアが採用されたときはうれしいですね。ギャラリーで個展を開いたとき、何度か「大変感激した」と言われたことがあります。意外と暗い絵のほうがすぐに売れることもあり、私の作品に共感してくれる人がいると、やっててよかったなと心から思います。

日本とアメリカで絵本を出版していきたい

今後、やってみたいことなどを教えてください。

長年仕事をしてきて、独学でいろいろなことを学び、デザインも撮影もスタイリストもアプリ制作もできるようになりました。でも、一番得意なのはアイデアを形にすること。やりたいことは絵本づくりや個展というのはハッキリしています。
絵本に関しては自分でアプリも出していて、絵に音楽や声をつけた動画を作っています。自分で音楽を考え、家族みんなで声を担当しています。子ども向けの作品を作るときは、娘の声も参考にしています。

今は日本の出版社とやり取りをしたり、海外の新しいエージェントとも契約したばかりで、これから絵本の仕事を増やしていけたらと思っています。このまま日本に根付くかアメリカに引っ越すかは、家族の生活や仕事次第で考えていくつもりです。できれば、どちらも行き来できるようになれたらと思っています。

地元の福岡について、どんな印象をお持ちですか?

福岡はアニメやゲーム産業が盛んで、アメリカで福岡の盛り上がりを耳にしたこともあります。実際に有名な会社やクリエイターもいらっしゃいますし。福岡は住みやすく、スタートアップの会社も多いので、何かを始めるにはとてもいい環境だと思います。

最後に、クリエイターに向けてメッセージをお願いします。

食べていくためにはいろいろなことに挑戦しなければいけない。けれど、やりたいことが明確なら、貧乏してでも、それ1本でいくという道もあると思います。私も自分の得意なものを貫き、そのスキルを磨き続ける大切さを感じています。
一期一会と言うように、フリーランスにとって最も大切なものは人とのつながりだと思います。私はアメリカで育んだ人脈のおかげで今も仕事が続いています。福岡でも一人ひとりの出会いを大切にして過ごしていきたいと思っています。

取材日:2018年5月21日 ライター:佐々木恵美

葉村(はむら)ロング かおり
イラストレーター/アーティスト/デザインユニット「MOSS MOON」

福岡市生まれ。上智短期大学英語科を卒業後に渡米し、ニューヨークのパーソンズ美術大学を卒業。アメリカの大手ケーブルテレビ局MTVに入社して、人気アニメ番組や映画のキャラクターデザインを手がける。その後、フリーランスとなり、雑誌でイラストやアメリカ・ニューヨーク発の女性向けファッションブランドAnna Sui(アナスイ)のTシャツデザイン、鉄製品や陶器のデザイン、大学の教師など幅広く活躍。2013年に帰国して福岡へ。夫とのユニット「MOSS MOON」としても活動。

www.kaorihamura.com
www.mossmoon.com

絵本アプリ「Kappa Jizo」のリンク
https://itunes.apple.com/us/app/kappa-jizo/id1251813530?ls=1&mt=8
https://play.google.com/store/apps/details?id=com.mossmoon.kappajizo

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