職種その他2019.11.20

結婚・出産を経て30歳からライターに。子育てしながら個人事業主として起業を果たす

Vol.34 金沢
ライター てんとうむししゃ代表
Saori Kawaguchi
川口 沙織

加賀百万石の歴史に培われ、幅広い伝統工芸や多彩な食文化を今に伝える街、金沢。この地で子育てをしながらライターとして起業し、多くの人に地域の文化を伝えたいと意気込む女性がいます。高校卒業後、保険外交員や飲食店での接客業などの仕事を経て出産を経験した川口沙織(かわぐち さおり)さんはライターに転身。今年9月には小学生の長男が名付けた「てんとうむししゃ」の屋号で個人事業主として起業を果たしました。ものづくりや食文化に関わる専門知識を深め、ライターとしての活動の幅を広げていきたいと意欲を示します。

子育てブログ執筆を機に、ライターの求人に応募

高校卒業後、いくつかの仕事を経験してライターとなったのは何かきっかけがあったのでしょうか。

高校卒業後、就職先を探したのですが、思うような働き口もなく、友達のお母さんが保険会社の外交員をされていたので、その紹介で保険外交員の仕事に就きました。一年ほど経ったところで行き詰ってしまい、飲食店での接客の仕事に転向し、26歳の時に、同業者の男性と結婚し、二人の子どもに恵まれました。子育てに追われながらも、外とのつながりを求めて子育ての様子を日々ブログにアップするようになったところ、同じように子育てをするママさんたちがブログの読者となってくれました。そこで文章を書くことが楽しくなったんですね。ある時、求人誌を見ていると在宅でできるライターの求人募集が掲載されており、応募したことがきっかけでライターとなりました。

応募したライターの仕事はどのようなジャンルの業務ですか?

地域のビジネスや文化、イベントなどの情報を発信するウェブサイトに記事を書く仕事です。伝統工芸の作家さんや新しいものづくりに取り組むクリエイターさん、新規にオープンする飲食店などを取材・出稿するほか、地域で開催されるイベントの告知や当日の様子を紹介する記事を書くのが中心です。取材する際には、写真撮影も必要ですので、カメラの使い方も練習しました。

取材を通してふるさと金沢の魅力にひかれる

取材を通して新たな発見はありましたか?

私は金沢で生まれ育ったのですが、正直なところライターの仕事をするまで、それほど地域への思い入れもありませんでした。取材を通して、建ててから100年以上経った町家で新たに店舗をオープンするオーナーの建物へのこだわりや、平安時代から伝わる保存食に由来する食品を扱うお店の方の話などをうかがうにつれ、金沢が守り育ててきた文化や歴史に引き込まれるようになりました。

金沢で取材を重ねて、改めてその魅力を知ったのですね。

加賀百万石の歴史や文化の中で、伝統工芸や城下町も醸成されていったことを改めて学びました。その中で伝統を大事にしながら、古いものを守るだけでなく、新たなものづくりを生み出し、海外にも発信しようという試みにもひかれます。

取材した具体的な事例を挙げていただけますか?

金沢の伝統的工芸品の一つに「金沢仏壇」があります。真宗王国ともいわれる金沢では立派な仏壇を据える家庭も多く、私も仏壇といえば、金沢箔を用いたきらびやかで大ぶりな仏壇をイメージしていたのですが、近年はマンションのリビングにも設置できるミニ仏壇づくりに取り組む若手仏壇作家の方を取材しました。加賀友禅の技法を取り入れた「友禅スニーカー」という新たな取り組みも取材にうかがい、これまでの伝統工芸のイメージが覆されることに驚きを感じています。

知識をどんどん蓄えるフォアグラになる

取材で感じた驚きや感動を記事で伝えることは喜びである一方、苦しいこともあるのではないですか。

インターネットや協力してくれる方を通して取材先を探すのですが、「忙しいから」と取材を断られたり、本当の思いを聞き出そうとしても表面上の情報しか答えていただけなかったりすることもあります。「自分としてはこんなことを伝えたいのです」と何度もお願いしてようやく取材にこぎつけても、思いのずれや勘違いで先方に記事の内容を了解してもらえず書き直すこともたびたびあります。

地域情報以外の記事や他媒体の取材、執筆はありますか?

スマートフォンや通信回線を扱う企業が、インターネットに関わる情報や知識を発信するウェブサイトを開設しており、この中でインターネットサービスのお得な情報や豆知識といった記事を執筆しています。このほか取材やプライベートを通じて気になったことをまとめたコラムも執筆させていただいています。

ITに関する専門知識が求められそうですね。

最初にこのお話をいただいた時は、私に務まるかなと不安がありました。でもよく考えてみると、普通の主婦である私が分からないことは、恐らくほかのママさんたちも分からないに違いない。専門知識を持たない私が、まっさらな状態で読んで理解できるように調べて書けばいいのだと自分を納得させたうえで引き受けさせていただきました。自分自身がフォアグラになろうと決意しました。知識をどんどん吸収して、私の内部に蓄積するしかないと思ったんですね。

専門知識を深めるには苦労もされたのではないですか?

分からないことや専門用語は、とにかくインターネットで検索してひも解いていきます。それでもわからない部分やあいまいな部分はクライアントの担当者ともしっかりやり取りをして確認します。最初はITのことは分からないことばかりでしたが、ようやく知識がストックされてきました。

個人事業「てんとうむししゃ」立ち上げ。名付け親は長男。

子育てをしながらの取材、執筆は順調ですか?

朝は午前5時半に起きて主人と子どものお弁当を作り、8時には送り出します。下の子どもが帰ってくる午後3時までに、取材や執筆をこなすようにしています。記事は自宅で書いており、締め切りが迫ると子どもたちを寝かしつけた深夜、パソコンに向かい苦しみながら記事を書くこともあります。

ライターの仕事をするお母さんの姿を見て、子どもたちは何か言っていますか?

小学校5年生の長男が学校で「うちのお母さんは記者なんだ」と言ったらしく、先生に面談した際に「どちらの新聞社にお勤めですか」と尋ねられて驚きました。子どもたちも私が記事を書いたり、ネットで調べ物をしていることを知ってか、自分たちで文章を書いたり、落書き帳で手製の絵本を作るようになりました。

9月に個人事業主としての届け出をされ、起業されました。

ライターとしての業務が増え、税金や社会保険のことを考えて開業届を出すことにしました。本好きの長男が「将来は出版社を作るんだ」と言って、社名を「てんとうむししゃ」にすると教えてくれました。そこで「その名前を今はお母さんに使わせて」と頼んで、個人事業の屋号にしました。屋号の名付け親は長男なんです。

これからはどんなライターを目指しますか?

書き手としては作家の石田衣良さんの作品が好きなんです。普通の人々の日常の暮らしを描く作品の中に、登場人物の深い思いや心情が巧みに描かれています。小説と記事ではジャンルが異なりますが、例えばクリエイターが作品を生み出すまでの思いや飲食店が提供するメニューを作り上げるまでの苦労といったように、物事の表面だけでなく一歩踏み込んだ部分を描けるようになりたいと思っています。

取材日:2019年10月18日 ライター:加茂谷 慎治

プロフィール
ライター てんとうむししゃ代表
川口 沙織
1982年生まれ、金沢市出身。高校卒業後、大手生命保険会社の保険外交員や飲食店などで勤務する。育児に関するブログを立ち上げたのをきっかけにライターとして活躍し、「てんとうむししゃ」を開業。ウェブサイト上で地域情報に関わる記事やコラムなどを執筆する。10歳と8歳の2人の男児の母。

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