感動させることができるなら 映画や映像にだってこだわらない

東京
有限会社スタジオ・バックホーン 代表取締役 鹿角剛司氏
 
VFXスーパーバイザーとして大活躍する鹿角(かづの)剛司さんが、2004年に設立したスタジオ・バックホーン。興味があるのはただひとつ――他人の心を動かすこと、感動をつくりだすこと。つまりはエンターテインメントを生み出す作業に、身も心も捧げた人物である鹿角さんが、映画を通して、映像づくりを通して「面白いこと」にたずさわるための本拠地的な存在です。選りすぐりのCGクリエイターをスタッフとして集め、今日も密かに驚きの映像をつくりつづけています。

脚本を読んだその場で、物語を感じ、泣いたり笑ったりするくらい 入り込めなければ、映像のイメージもわいてきません。

ストレートな質問です。VFXスーパーバイザーには、どうしたらなれますか。

難しい質問ですね。少なくとも、CGデザインを極めたからといって、なれるものでないのは確かです。この仕事には、撮影や照明の知識も、編集の知識も、衣装やメイクの知識も求められます。もちろん演出の知識も。つまりは、映像作品をつくりあげるためのすべての工程に造詣があり、トータルに意見を言える力がなければなりません。 VFXとは、たくさんの嘘をつく作業です。嘘をつくための素材のアイデアを出すための引き出しを、たくさん持っていなければなりません。

どうしてもVFXとCGをイコールで考えてしまいがちですが、CGの力だけでVFXができるわけではないのですね。

VFXとは視覚効果のことであり、CGはそのツールのうちのひとつです。時には造形物のつくりこみでめざす映像をつくった方がいいこともあるし、メイクで処理した方が迫力がでることもある。その辺をトータルに判断し、アイデアを出すのがVFXスーパーバイザーの仕事なのです。 言い方を変えると、注文されて映像や素材をつくるのではなく、映像のイメージを監督と一緒に考え、それを素材として分解する作業をするのがVFXスーパーバイザーです。 加えて、脚本の読解力も重要ですね。脚本を読んだその場で、物語を感じ、泣いたり笑ったりするくらい入り込めなければ、映像のイメージもわいてきません。

鹿角さんは、1989年にオプティカル合成で有名なデン・フィルム-エフェクトに入社して、この世界でのキャリアをスタートさせた。オプティカル合成の経験は、今の仕事に活かされていますか?

ものすごく活きていますよ。当時、特技監督たちと一緒にしたさまざまな特撮、特殊効果づくりの作業は、その後の自主映画の経験も含め、貴重なものでした。人を映像でだまして、感動させる作業の自力は、あの時代に培ったと言ってもいいほどです。

日本発で、世界市場を相手にする映像づくり。 今、それができつつある。

鹿角さんは、『片腕マシンガール』、『ロボゲイシャ』の井口昇監督や『東京残酷警察』の西村喜廣監督などの気鋭の映画作家たちからも厚い信頼を得ています。映画人として、今後取り組んでいきたいテーマなどはありますか?

親しくしていただいている映画の仲間たちとは、いつも「面白いことに関係していたいね」と話し合っています。 井口監督や西村監督の作品は、日本ではやっと認知されてきているところですが、海外ではとても多くのファンを持っていて、その評価を背景に逆輸入されていたりもします。僕は、この動きに大きな可能性を感じているんです。

どんな可能性ですか?

日本発で、世界市場を相手にする映画づくりですね。 日本の映画が海外でヒットしにくい理由は、わかりますか? 海外の映画際に参加させて貰って何となくわかってきたんです。それは、日本の観客が、世界で唯一と言っていいほどの独特の映画鑑賞をする点です。日本人は物語の登場人物を自分と同化させて感情移入しますが、海外の映画ファンはどんなストーリーであっても、どこまでもそれを「他人事」として楽しみます。他人を笑い、他人の行いを賞賛するのです。お隣の韓国ですらそういう感じです。良い悪いではなく、日本人は独特な映画の見方をするんですね。それに合わせてつくられた映画は外国の人には楽しみにくいのです。 井口監督や西村監督の映画は、その壁を乗り越えている。観客がツッコミを入れるのを想定してボケてみたり、誰でも楽しめる理屈を飛び越えたアイデアが満載だから受けるのです。そういうものをつくっていけば、無理してハリウッドに進出しなくても、日本人がつくった日本の映画で、世界市場で勝負できると思っています。

なるほど、興味深い見解です。深くうなずいてしまう。世界を相手に映画をつくるのは、それはそれは楽しい作業になりそうですね。

日本には海外に通用する才能の持ち主が、数多くいるのです。最近、清水崇監督などがハリウッドに招へいされ注目を集めましたが、本来なら、清水監督のような才能を日本の資本が世界に紹介すべきです。僕はキャリアの初期に、会社を通じて黒澤明監督の『夢』の特殊効果にたずさわりましたが、あの作品が日本ではなく、海外の出資でできていることにずっと疑問と残念な気持ちを持っていました。これからは、日本映画界が才能を発掘し、評価し、世界に売り出し行くようになってほしいですね。

取り組むことに関しては、 常にインタラクティブでありたいと考えています。

現在は、鹿角さんを含めて総勢7人の体制ですが、今後拡大の予定は?

もう少し人手は必要と思っていますが、マキシマムでも10人を超える所帯にはしない考えです。いわゆる少数精鋭で、やっていくつもりです。

さて、では鹿角さんご自身の今後の展望をお聞かせください。

僕は、法律が許せば町中に落とし穴を掘って、落ちた人が見せる驚いた顔を見ていたい人間です。逮捕されたくないので穴掘りを、映像づくりに転換している(笑)。もっと言えば、他人の心を動かす、感動させることができるなら映画や映像にだってこだわらない。落語だって、マジックショーだって、小説だってなんだっていいと思っているのです、実は。 ただ、今は、映像づくりが本当に面白いし、声をかけてくださる方もいらっしゃるので、この仕事に全力投球していきます。

映画への情熱は理解できました。その他、今後の目標としてなにか設定しているものはありますか。

取り組むことに関しては、常にインタラクティブでありたいと考えています。つまりは、僕が「感動させたい」と思っている相手次第です。相手が変われば、すべきことも変わる。だから、自分自身であれをする、これをやりたいとは決めないことにしています。

取材日:2010年3月

有限会社スタジオ・バックホーン

  • 代表取締役:鹿角剛(鹿角剛司)
  • 事業内容:
    • 視覚効果(VFX)を中心とした映像制作業務
    • インタラクティブコンテンツ制作
  • 設立:2004年7月20日
  • 資本金:300万円
  • 所在地:〒177-0044 東京都練馬区上石神井4-7-27-305
  • Tel&Fax:03-3929-4586
  • URL:http://www.buckhorn.jp/
  • 問い合わせ:info@buckhorn.jp
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