WEB・モバイル2019.12.18

世界初! 動画で伝えるAIを開発した、グラフィックデザイナー

福岡
有限会社BOND 代表取締役
Hiromi Furukawa
古川 ひろ美

独自開発のAI(人工知能)により、文字や画像の入力だけで、キャラクター(スマートアバターⓇ)が自ら表情やしぐさをつけながら読み上げ、照明やカメラワークなどの演出も自動的に行ってくれる動画伝達ツール「スマートアバターⓇ」を開発。事前学習を必要とせず、簡単迅速に動画コンテンツの作成・配信・双方向を実現する特許技術の独創性と革新性が、マサチューセッツ工科大学などの各種コンペティションで高く評価されたこともあり、多くの行政機関や大手企業が注目し、活動に取り入れ始めています。同ツール開発までの経緯、仕事に対する思い、これからの展望を、最前線でプロジェクトを牽引した古川ひろ美さんに伺いました。

価値の本質と「絆」を大切にしたい。思いをこめて社名変更

会社の代表になるまでのキャリアを教えてください。

当社の前身である古川写真印刷工芸社は、父が戦後まもなく起こしたオフセット印刷会社です。その当時は活版印刷が主流の時代ですから、かなり新規性の高いビジネスだったと思います。父は「情報産業に不景気はない」と、よく言っていましたね。会社と自宅が同じ建物にあったせいで子供の頃から、先取の精神を貫く父の取り組みを見て育ち、大学ではグラフィックデザインを専攻し、印刷技術の知識も最先端でした。卒業後は、父の会社のデザイナーとして勤務していたのですが、父の病気がきっかけで、私が会社を引き継ぐことになりました。

いきなり経営者になることに迷いはなかったですか?

経営的には、父が病に伏してから赤字が続いていたのですが、父が懸命に守ってきた会社をたたむという選択肢は考えられなかったですね。そのときの私は財務状況もほとんど知らずにいましたから。バレンタインのプレゼントのつもりで、私が代表取締役に就任し、父に新しい社名を伝えたのが2006年2月14日。それから、3カ月も経たないうちに父は他界しました。

そうでしたか。社名を「BOND」にした理由は?

息子が通っていた高校の生徒が、17歳で亡くなった同級生の死を悼んで作った葬送曲を偶然にも学校の文化祭で聴いたとき、人の価値が成績などの数字だけで判断されがちな世の中にあって、人間の本当の価値を教えられたような衝撃を受けました。その曲名の「the bond of friends」からいただいて、社名をつけました。「bond」の意味は「絆」。価値の本質と絆を大切にしているのです。

「できない」という言葉は、人生に必要ない!

新規事業である「スマートアバターⓇ」のアイデアは、どのようにして生まれたのですか?

当時は、まだSNSがほとんど普及していない時代ではありましたが、紙の印刷技術がインターネットの勢いに飲み込まれてしまう危機感はすでにありました。印刷データからホームページを作成したり、インターネットで業務を受注する仕組みを作ろうとしたり、いろいろなサービスの開発を試行錯誤で繰り返すうち、生半可な事業では大手が同じことを始めてしまうと生き残れない、オンリーワンのビジネスを開発するしかない、と思い至りました。そこで、どうすれば世界を相手に勝負できるのかを考え抜いて出てきたのが、「人の感情を解析しデータベース化して活用する」という「スマートアバターⓇ」の原型となるアイデア。しかし、当初はだれに話しても「そんなものができるわけがない!」と笑われましたね。

AIの専門家ではないわけですから、開発の道のりは険しかったのでは?

まず、いろいろな専門家に話を聞きに行くところから始めました。独自に情報を集めていくうち、「言語や画像から人の感情を解析して類型化する」「それぞれの感情に合うAIキャラクターの表情やしぐさ、カメラワークを表現するためのデータのライブラリーを作る」といった具合に、開発に必要な作業のステップが、少しずつ見えてきました。どんなに困難な課題でも、ひとつずつ解決の糸口をつかんでいけば、時間はかかっても必ず障壁を崩せる。そういう確信はありました。

開発でもっとも苦労されたのはどのような点でしたか?

「これまでにない概念のものを生み出すには、概念自体を相手に理解させないといけない」という点に尽きます。約4年に及ぶ開発の第1段階では、大まかに3系統のプログラミングが必要でした。各分野の得意な人に担当してもらいましたが、それでも「アルゴリズムがさっぱりわからない!」と言われました。「わからない!」と言われるたびに言葉や説明の方法を変え、理解してもらえるまで、根気よく時間をかけて伝えました。アメリカで特許を申請する際も、担当してもらっている弁理士さんとのやりとりで、お互い納得できるまで質問と説明を幾度となく繰り返したのを覚えています。

すごいエネルギーですね。古川さんを動かす原動力は何なのでしょう?

デザイナー時代から、クライアントの課題解決のためにあらゆる提案を行い、喜ばれてきました。私自身に固定概念がなく常に前向きだからかもしれません。「面倒」だとか「できない」という言葉は、私の人生にはないんです。開発を担当しているメンバーが「できない」と言い出したら、どうすればできるかを対話し、人が必要だと言われれば、人材確保に奔走します。そして、関わっていただいている方々に「良かった」と喜んでいただけるよう全力で努力し続けます。新しい技術には世の中を変えていく力があります。すべての方々が「BONDと関わってよかった」と、心から思えるストーリーを描くことが大好きです。

まさに「絆」ですね。

そういえば、「スマートアバターⓇ」を商標登録したのは、映画の「アバター」が公開されるよりも前ですが、後に映画を観たら、アバターたちが集まってお祭りか儀式をやっている場面で「BOND!」って言ってるんですよ。あまりの偶然に驚くのと同時に、「これからも自身の直観力を大切にしよう!」と思いました。

世界中の格差や貧困から人々を救うために

これまでの取り組みが実って、行政機関や大手企業から引き合いがある現在の状況を、どう捉えていますか?

規模的には零細企業である当社が、体力のあるパートナー企業や組織と手を携えられる状況になれたのはありがたく、BOND製品に期待し、応援くださる方々のおかげです。資金面や影響力などの面で、動画伝達ツールを活用して理想とする社会を実現していくことに賛同者が増えていますので、これまでよりはるかに大きく前進でき、ますます可能性が広がっていくのを感じています。

開発した動画伝達ツールによって、どのような未来が開拓できるのでしょうか?

大手ケーブルテレビ会社さんでは、「スマートアバターⓇ」を「AIキャスター」として活用し、自治体初の広報番組を開始していますが、もちろんこのツールの用途はそれだけでなく、実に多彩です。例えば、企業の研修や大学の授業を務める「AI講師」として。また、防災動画のサイネージ、人が集まる場所や駅看板のテレビ化、展示会やイベントにおける情報発信など。多言語対応可能なので外国人向けの案内にも適しています。その他に、人の代わりに24時間宣伝活動をしてくれる「AI営業マン」として活用することもできます。医療施設における患者さん対応にも期待をいただいています。クリエイターの皆さまとともに日本が世界に誇るアニメ文化と結び付ければ、「スマートアバターⓇ」をキャラクタービジネスにつなげることも。番組作成・配信のプラットホームは世界中のアマチュアの才能を引き出す役割を果たせますから、障がいのある人もこれまで以上に活躍できるようになります。教育の格差をなくすツールとして生かせば、貧困に巻き込まれている子供たちにも「知」を与えることができます。このように、動画によるコミュニケーションを万人に開放し、日本から新時代を切り開いていくことが私たちの使命です。

※製品のご案内

※多言語案内板

最後に、クリエイターへのメッセージをお願いします

当社が開発したツールが、企業の営業職の役割も担えることを伝えたら、あるベテラン営業マンの方に「では、私はもう要らないね」と言われたことがあります。「スマートアバターⓇ」は、企業の働き方改革に役立てられるツールであって、人の「仕事」を奪うものではありません。ベテランの営業職には、その人にしかない専門スキルと豊かな経験値があります。ツールの活用によってあらゆる仕事の「棲(す)み分け」が進み、「人にしかできないこと」の価値は見直され高まっていくはずです。そういった意味で、クリエイターの皆さまも「自身のオリジナリティーを存分に発揮して活躍するチャンスが増えつつある」ともいえるでしょう。「挑戦は力! 私がやらねば、誰がやる!」です。

取材日:2019年11月19日 ライター:堀 雅俊

有限会社BOND

  • 代表者名:古川 ひろ美
  • 設立年月:1950年9月
  • 資本金:1000万円
  • 事業内容:動画で伝えるAI「スマートアバターⓇ」シリーズの開発、電子ブック制作、ホームページデザイン制作、各種印刷デザイン
  • 所在地:〒803-0801 福岡県北九州市小倉北区西港町122-10
  • URL:https://f-bond.co.jp
  • お問い合わせ先:093-561-5521

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