プロダクト2019.07.24

デザイナーの顔が見えるものづくり デザインという愛が、世の中を元気にする

東京
アッシュコンセプト株式会社 代表取締役
Hideyoshi Nagoya
名児耶 秀美
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アッシュコンセプト株式会社は、学生からプロまで様々なデザイナーや全国の企業・産地のものづくりを応援し、ユニークで洗練されたデザインの製品を世に送り出してきた。代表取締役の名児耶 秀美 (なごや ひでよし)氏は、デザイナーの積極的な顔出しを進め、独自ブランドのパッケージには、デザイナーの名前や顔写真、メッセージが記されている。背景には、どんな思いがこめられているのでしょうか。

まず、どんな事業をやっている会社なのでしょうか?

皆さんによく聞かれるんですが、私も一言では答えられないのです。「デザインを活かして、世の中を元気にしたい」というのが我々の会社の基本的な考え方です。デザイナーにもっと元気よく活動してほしいと思って、2002年に会社を作りました。

デザインを活かすとは、どういうことでしょうか?

今、デザインという言葉が広義に用いられて、「経営をデザインする」など、言葉自体が一人歩きしています。でも、私は昔から「大切な人のことを考えながら、行動すること」がデザインの根本的な考え方だと思っています。

世界でトップクラスのデザインの力 日本は活かせていない

 

実は日本のプロダクトデザインは、世界のトップクラスなんです。知っていますか?

え、そうなのですか!

ほら、そうやって言うでしょ。日本人がそういうことを全然知らない。北欧も日本をお手本にしていることも多いんですよ。ミラノで開かれる世界で一番大きいデザインのイベントでは、多くの日本人デザイナーが活躍していますよ。

日本はデザイン学校とか美術学校がたくさんあって、人材などデザイン資源が豊富なんです。他の国と比べても、日本のデザインはすごく進んでいる。ただ、デザインを上手く使っているのは、大手企業ばかり。多くの中小企業はデザインを上手く活用できていないのが現状です。

なぜ、日本の中小企業はデザインを活かせないのでしょうか?

世界の人は日本のデザインに憧れと尊敬の気持ちを抱いているのに、日本人は水道の蛇口をひねると水が出るような感覚で、日本のデザインを特別と思っていない。日本のデザインの歴史を紐解けば、見えてきます。「あのこけしは誰のデザイン?」「あの素敵な竹籠は誰が作った?」なんて聞きますか?

 

デザイナーの顔が見えるブランド+dを立ち上げ

 

確かに、民芸品は誰が作ったのか、知らずに使っていることが多いですね。

“アノニマス”つまり匿名性が日本の美徳みたいに思われているんです。このペンは誰がデザインしたか? そんなことは関係なくて、日本ではペンがいいか悪いかが重要なんです。確かにデザインは一人ではできないので、デザイナーを一人に絞ることは難しい。けれど、デザイナーが生み出したモノが世の中にたくさんあることに、気づいていない人があまりにも多すぎる。

だから、誰がどんな思いでモノをデザインしたのか、日本はもちろん、世界にも伝えたいのです。日本にはデザインを学んだ人が多いから、世の中にこんなモノがあったらいいと考える人がいっぱいます。デザイナーがコンペや持ち込みでこんなモノを作りたいと提案して、僕らがとてもいいと思ったら、それを世界に届けていく。それが「+d(プラスディー)」というブランドです。

+dはデザイン(design)のdですか?

そうです。パッケージには、デザイナーの顔写真とコメントも載せます。これは僕らが+dで最初に作ったモノです。(現物を見せながら)何だか分かりますか?

何だろう? 動物の形で、カラフルなひも……? あっ、これは!

そう、これは輪ゴムなんです。「アニマルラバーバンド」という名前です。さらに、この輪ゴムに込められたデザイナーのメッセージは分かりますか?例えば、普通の輪ゴムが道端に落ちていたら、拾いますか?(輪ゴムをわざと下に落としてみせて)この輪ゴムだったら?

こんなかわいいデザインなら、何度でも拾って、使いたくなります。

優れたデザインは命令しないんです。心が自然にそうする方向に持っていく。「モノを大事にしろよ」と言われても「うるさいな」と思うかもしれない。でも、この輪ゴムを手に取るだけで、「モノを大切にしよう」という心が生まれるんです。あの輪ゴムでさえ、デザインでこんなにも変えられるのですよ。

他にも、様々な製品が生まれました。最近作ったのは、風車ならぬ「カゼグルマ」。これは風車の形をしたマグネットになっていますが、一番飾りたいのは何だと思います?……風です。普段は目に見えない風を飾るのです。

風を飾るなんて、想像の斜め上の発想です。

ね?デザインってすごいでしょ?こんな素敵な力が世界でトップの国なんですよ。

デザインコンサルティングで生まれた“触れない”今治タオル

他にはどのような事業をやっているんですか?

企業や産地、行政との、ジャパンブランドなどのデザインのコンサルティングもしています。愛媛県で有名な「今治タオル」のプロジェクトに参加し、マークの決定や製品開発もしました。

そのプロジェクトの中で一番売れたのが、僕が考えた「今治生まれの白いタオル」。今治タオルの代表選手を作ろうと思ったんだけど、どこの工場行っても「うちのタオルが一番いい」と言うので、製造業者が分からないようにタグを切ったタオルをたくさん集めて、どれが使いやすいか徹底的に検証し、8割の賛同を得たのが、このタオル。それを密封したパッケージに入れちゃいました。

タオルって普通、手触りを確かめながら選びますよね。でも、このタオルはパッケージに入っているから、手で触れませんが……?

わざと触らせない(笑)。普通、売り場のタオルって色々な人が触るから、洗ってから使うでしょ? でも、これは封を開けるまで触ることができない“箱入り娘”なんです。

こうして作った製品は今、本社に併設するショップで売られていますね。

最近は売り場で製品について詳しく説明できる人がいなくなっている。これじゃモノの裏側にあるバックストーリーも分からず、モノがかわいそう。そこで、モノを売るために何をしたらいいのか考えて、2012年に「コンセント」という直営店舗を開きました。東京・丸の内の「KITTE」の中や、オーストラリアのメルボルンやマレーシアにも展開していて、国内外で10店舗あります。

会社の全体像がやっと見えてきました。

+dという自らブランドを作っていくマニュファクチュアの仕事。次に企業や産地のデザインのコンサルタント。さらに、モノをどうやってエンドユーザ―に伝えていくかということを学ぶための、情報発信のショップ。この三つが柱になっています。

生活の中で使うモノをちゃんと作る 原点は実家のブラシ屋

 

デザインにも色々とありますが、こうして開発された製品は生活用品が多い印象を受けます。

生活の中で使うモノをちゃんと作りたいなという思いがあるんです。みんなが暮らす中で、これがあるとちょっと幸せになるというモノです。

そういう思いに至った原点は何なのでしょうか?

私の実家が東京・墨田区で100年以上続くブラシ屋だったんです。それこそ小さなころに工場に行くと、丸太一本からブラシを製造していました。靴ブラシ、ヘアブラシ、甲板ブラシなど色んなブラシを作っていました。

僕はそこの次男坊だったので、後を継がずに好きなことをやっていいと親が言うから、武蔵野美術大学の造形学部芸能デザイン学科に入りました。でも、大学の授業はルーティンでつまらない。その頃、百貨店・高島屋のショーウィンドーをペア・シュメルシュアというデンマークのデザイナーが手がけていて、僕はペアさんのアシスタントのアルバイトをやることになったのです。僕はペアさんからデザインの基本を学びました。

どんなデザイナーだったのですか?

当時の日本人と全然考え方が違いました。ショーウィンドウをどんなテーマで表現するか、華道に通じるような空白の活かし方、人生観まで、ペアさんから色々なことを学びました。それが縁で卒業後に高島屋の宣伝部で働き始めました。

ところがある時、実家の親父が倒れちゃって、兄がブラシ屋を継いでいたんだけど、「お前も手伝え」と父から言われたのです。「次男坊はいらなかったんじゃないの?」と思ったけれど、親孝行しようと思って、高島屋をやめてブラシ屋を手伝い始めました。

それは大きな転機ですね。デザインを学んだことが、家業にどんな影響を与えたのでしょうか?

実家のブラシ屋は品質のいいものづくりをしていて、デザインでこの企業をどうやって変えようかと思って、色んな取り組みをしました。そうしているうちに、実家をブラシ屋から工場を持たないファブレスメーカーへと切り替えてしまいました。気づいたらブラシ屋の年商が以前の何十倍にもなっていた。

でも、デザインで会社がこんなに変わったのに、親父も兄貴もデザイナーや製造企業名を製品に出したがらなかった。デザインで会社が変わったから、その元を秘密にしたがったんです。でも自分は力を貸してくれたデザイナーの名前を出したい。だったら、自分は自分でやりたいことをやろうと、家業を辞めて、2002年にアッシュコンセプトを作ったんです。

大切な人を思って行動する デザインとは“愛”

 

これからの時代、どんなモノが求められるのでしょうか?

みんなモノを持っているから、即物的なモノで満足は得られなくなってきている。それでも欲しくなるモノがある。僕はそれを“恋人”と呼んでいるんです。恋人にはみんな、お金を使うんです。

面白い表現ですね。お金を払いたくなる“恋人”とは、どんな製品でしょうか?

今、人がモノを買う基準は、品質や価格などの“理性”、デザインや色、触感などの“感性”、そして第三に “知性”です。製品の背景にあるストーリーや思いに共感して買ったり、環境によいから買ったりします。これからは “知性”に訴えるモノが、“恋人”になると思います。もちろん一目惚れもありますが…。

さまざまな企画の中から、「これを作りたい」と思う製品とは?

素直に「自分も欲しいな」と思えるかどうか。僕らは自分たちがお金を払って買いもしないモノは、世の中には出したくない。結局、僕らもユーザーでしょ?自分が欲しいモノを作りたい。自分が買わないモノなんて作っても仕方ない。

よく「お客様は神様だ」というけれど、僕はそういう風に思わなくて、僕らが作りたくなければ、お客さんもモノを使えない。だから作り手とお客さんは互いに運命共同体だと思うんですよね。そんな関係の中で、デザインとは結局、大切な人のことを思って、色んなことを考えながら行動していくということ。つまりデザインは、最終的には“愛”じゃないかって思います。

クリエイターの方々へメッセージをお願いします。

クリエイターは0から1の発想を生む勉強をしている人間だと思います。その1があれば、掛け算すれば千にでも万にでもなっていく。でも0だと0のままなんだよね。だから、1を作る力をもっと磨いて、自分の地元を大事にして、日本を大事にして、世界を大事にして、最後は地球も宇宙も大事にしてほしい。

「僕の考えがコピーされました」というデザイナーがいたなら、「じゃあ次、考えよう」と言いたい。真似されるってことは、本物の証だからね。

取材日:2019年7月2日 ライター:すずき くみ

アッシュコンセプト株式会社

  • 代表者名:代表取締役 名児耶 秀美
  • 設立年月:2002年2月
  • 資本金:3,000万円
  • 事業内容:生活用品の企画製造、及び卸売業、小売業 生活用品の輸出入業  デザイン・コンサルタント 輸出入代行業
  • 所在地:〒111-0051東京都台東区蔵前2-4-5
  • URL:www.h-concept.jp
  • お問い合わせ先:03-3862-6011

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