スペース2022.04.06

木工家具店から「新しい働き方」の提案へ。フリーアドレス、テレワークでクリエイティブに事業を再構築中

石川
株式会社山岸製作所 代表取締役社長
Shinsaku Yamagishi
山岸 晋作

経営コンサルタントを経て、祖父が創業した老舗の木工家具店を継承したら、見えてきた厳しい経営環境。「モノをつくる、売る」から「コトの体験、コンセプトを伝える」にかじを切った山岸製作所の代表取締役社長、山岸晋作(やまぎし しんさく)さんは働き方改革を追い風にオフィスづくりに新たな活路を見いだしました。

祖父が立ち上げた木工所、高度経済成長とともに発展

御社の成り立ちと歴史を教えてください。

山岸製作所は、1936年に母方の祖父が小さな木工所を立ち上げたのが始まりです。戦後、荒廃したふるさとの姿を目の当たりにした二代目は、戦後の復興に力を尽くしたいと起業を決意します。上質な家具をつくり、暮らしの豊かさを追求するという目標を掲げました。安易に大量生産を目指すのではなく、妥協することなく、質にこだわったものづくりを続けてきました。

御社の歴史は戦後日本の復興、高度経済成長期と重なっていくのですね。

木工所では、職人たちが朝から晩まで一つ一つ手作りで木製家具を仕上げていきます。人々の暮らしが少しずつ豊かになり、新しい建物が次々と建設されていく中、一般住宅や店舗、旅館、公共施設などの注文に応じて内装や家具をしつらえていきました。「山岸製作所は、いい家具を安く作ってくれる」とものづくりの技は評価され、内装デザインと施工においては金沢の先駆者となりました。その後は、オフィス家具やインテリア家具の仕入れ販売にも乗り出しました。

米国留学、経営コンサルを経て社長に就任

山岸さんは、社長に就任されるまでどのようなキャリアを積まれましたか。

2010年に6代目の社長に就任しました。金沢の高校から東京の大学へと進み、卒業後はアメリカに留学し、3年間、語学と経営学を勉強しました。そのままアメリカで就職し、経営コンサルタント会社に入社しました。2年間働いた後、日本に転籍になりました。クライアントは、各業界で日本を代表するような企業がほとんど。この時に、数多く企業のオフィスを訪ね、企業の経理担当者と話したことが今となっては貴重な経験になりました。

その後、コンサルタント会社を退社し、山岸製作所の社長に就任されました。

祖父が創業した企業を未来に向けてさらに発展させ、人々の豊かな暮らしを生み出すという山岸製作所のDNAを守っていこうと決意しました。2004年にコンサルタント会社を退職して金沢へ戻り、山岸製作所のオフィス家具の営業マンとして働き始めました。

山岸製作所に入社後、努力されたことはありますか。

入社当時は32歳。そこから38歳で社長に就任するまでは、がむしゃらに何でもしました。オフィス家具の特約店でしたので、企業に足を運んで営業し、地域の各種団体の会合に顔を出して名前を憶えていただくように努めました。

業績悪化で家具製造部門から撤退、苦渋の末に選択と集中図る

そして事業の転換期を迎えます。

リーマン・ショックから続く景気の低迷もあって、2012年に会社全体で大きな赤字が出てしまいました。主な原因は家具製造部門の採算割れでした。このままでは、企業の存続に関わる。そう考えて、工場の閉鎖を決断します。創業以来の事業から撤退することには反対意見もありましたが、会社が立ち行かなくなってはどうしようもない。苦渋の末、事業の選択と集中を図りました。

そこからはじめられた新たな展開は?

オフィス家具の販売にあたって、まずは実際に活用されているオフィスをお客さまに見ていただこうと考えました。そのために、自分たちが働いている現場をショールームにしようという企画です。それならば商品として家具を並べるだけでなく、オフィスでの新しい働き方の提案と家具を合わせて見ていただける場所にしようと考え、「ライブオフィス」を開設しました。

商品の展示・販売だけでなく、実際の働き方を見てもらうという新しい発想ですね。

従来の一般的なオフィスのように、上席者が奥のひな壇に位置し、社員が島型に置かれた机で向き合って座るというスタイルを大きく変えました。 社員個人の専用デスクもなくし、フロアに置かれた長机や椅子の自由な場所で仕事をするという「フリーアドレス」を導入。しかし自由なスペースを捻出するためには書類棚を減らす必要があったため、ペーパーレスにも取り組みました。

「働き方改革」を可視化、総務省幹部や市長が視察に来社

「働き方改革」を御社のオフィスで具現化したのですね。

官民ともに「働き方改革が重要である」という姿勢を打ち出しながら、なかなか地方にまで浸透することはありませんでした。「フリーアドレスなんて、東京の一部上場企業だからできること」とどこか冷めた見方があったのです。ところが地方の中小企業である弊社が導入したことで、大きな関心を集めました。事例を参考にしようと多くの方が見学のため来社されるようになりました。

商品を売り込まずとも、結果的に「オフィス家具」の営業につながったというわけですね。

「モノ売りからコト売り」を実践できました。オフィス家具をただ買っていただくのではなく、働き方を体感、体験がオフィスづくりのお手伝いにつながっています。
行政も「働き方改革」に対する関心は高く、総務省の幹部の方が評判を聞きつけて視察のため来社いただき、それを聞いた当時の金沢市長にも足を運んでいただきました。事例を目の当たりにした市長はすぐに幹部に指示し、市役所庁舎でフリーアドレスが導入される運びとなりました。市役所では異動のたびにレイアウトを変更し、机やいすを移動させ、ネットワークの配線を直していたことから、フリーアドレス導入で、年間約1,000万円の経費削減につながったと聞いています。

オフィスの改善が経営の改善につながっているように思えます。

オフィスづくりは単なる家具のレイアウト変更ではなく、経営戦略だと考えています。オフィスには経営理念が現れています。社員のコミュニケーションをどう図っていくか、モチベーションをどのように向上させるか。情報の共有化につながり、残業時間も減り、作業効率も高まるのです。働きやすい環境は、採用につながりますし、金沢に若者が働きやすいと思う職場が増えることで金沢全体の魅力も高まっていくと思うのです。単なる「ワーケーション」にとどまらず、移住して金沢で働いてほしいと期待しています。

新型コロナウイルス感染拡大の影響で御社の働き方やオフィスのあり方も変わりましたか?

社内のフリーアドレス導入に伴い、弊社ではテレワークの対応にも取り組んでいました。コロナ禍でテレワークが推進され始めた際には、この経験を生かしてお客さまにご提案やアドバイスができました。
現在、社内ではフレックスタイム制の導入にも取り組んでいます。課題はあるものの弊社が新たな働き方を経験することで、家具を販売するだけでなく、次代の働き方を提案するきっかけにもなると考えています。

オフィス家具だけなく、北欧やイタリアといった海外家具の販売にも力をいれていらっしゃいますね。

はい。より豊かな暮らしを求めて、弊社は北欧やイタリアの家具を北陸に紹介する先駆者となってきました。本当に豊かな暮らしとは、使い捨てのいわゆるファスト家具に囲まれた生活では実現できません。本物で生活の中に新しい息吹を感じさせる家具こそが、物質的な豊かさではないライフスタイルやワークスタイルそのものを豊かにしてくれると思っています。

家具を売るのではなく、「暮らし方」と「働き方」を提案したい

家具の販売をとおして、人生を豊かに送ってほしいというメッセージを感じます。

弊社は、二つのショールームを備えています。
一つは先ほどお話しした「ライブオフィス」。
「ライブオフィス」は働き方を提案するショールーム。イタリア語で「舞台」を意味する『L’SCENA(リシェーナ)』と名付けられています。私たちの働き方を見ていただく舞台だと考えています。
もう一つのショールームは、イタリア語の「内部」を意味する『L’INTERNO(リンテルノ)』。トップブランドの家具やインテリアをトータルでコーディネートし、豊かな「暮らし方」をご提案しています。『L’INTERNO』では定期的に工芸作家やクリエイターによるワークショップを開催しています。お客さまに金沢らしい上質な暮らし方を提案したいという思いを込めた企画です。

オフィスでも住宅でも家具の存在は大きいですね。

そうなんです。実は人生の8割は家具に接しているのです。休息はベッドでとり、食事はダイニングセットでとり、仕事はデスクとチェアで行い、車に乗る時もシートという一種の家具に座っています。帰宅すると、パソコンを使う際は机といすを利用し、ソファーに座ってテレビを見ています。
家具は「暮らし方」と「働き方」が伴って初めて価値が生まれるのです。これからはますます働く場所と暮らす場所の境目がなくなっていくのではないでしょうか。だからこそ、弊社は「暮らし方」と「働き方」を実際に体感できる空間づくりを行っており、この二つを一緒に発信していきたいと考えています。

次の一手をどのように考えていますか。

これまで「新しい働き方」に向けてオフィスづくりのご提案や、導入サポートを行ってきて、まだ足りないと感じているのが、ICTの部分です。ICTやDX(デジタルトランスフォーメーション)といったデジタル技術をオフィスづくりに取り入れたいと考えています。そうすることによって、オフィスづくりについてワンストップで対応できる企業になることができると信じています。デザイン、家具、内装工事といった部分まで含めて、オフィスづくりのプロフェッショナルでありたいと願っているのです。弊社が持つクリエイティビティを発信し、家具とともにお客さまが快適な時間を過ごせる環境づくりを追い求めていきます。

取材日:2022年2月15日 ライター:加茂谷 慎治

株式会社 山岸製作所

  • 代表者名:山岸 晋作
  • 設立年月:1963年2月
  • 資本金:3,700万円
  • 事業内容:オフィス家具・各種施設向け家具の販売 家具・インテリア用品の販売 システムキッチンの販売 オフィス内装工事の設計・施工 オーダーメード家具のプラン及び製作
  • 本社所在地:〒920-0226 金沢市粟崎町5-32(オフィスショールーム L’SCENA )
    〒920-0805 金沢市小金町3-31(インテリアショールーム L’INTERNO)
  • URL:https://www.yamagishi-p.co.jp
  • お問い合わせ先:TEL. 076-238-2448

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