愛媛に根ざし、世界へ挑む。「ヒアリング能力」を最重要視するクリエイティブ企業

愛媛
APIPA Design Studio株式会社  代表取締役
Masanori Ishizuka
石塚 政紀

VRやドローンなどを駆使してさまざまなコンテンツを制作するAPIPA Design Studio(アピパ・デザイン・スタジオ)。こう書くと最先端技術を売りにしている企業のように感じるかもしれませんが、代表取締役の石塚政紀(いしづか まさのり)さんは「VRやドローンは表現手段の一つに過ぎない」と言い切ります。その思いの背景には、地元・東京でスケーターやDJなど多彩な経験を積んできた石塚さんのキャリアと、一貫して大切にしてきたこだわりがありました。愛媛に根ざし、世界へ。APIPA Design Studioが目指す事業のあり方を伺います。

 

「1日18時間」の猛勉強でアナログからデジタルの世界へ転身

御社のサイトを拝見して、石塚さんが多彩な経験を積んで来られていることが印象的でした。まずはこれまでのキャリアについてお聞かせください。

現在の事業につながるデザイン関係の仕事を始めたのは26歳のときです。それ以前の活動でいうと、僕は10代のころから地元・東京でスケートボードに打ち込んでいました。ストリートカルチャーが隆盛を極めた90年代、僕はスケートボードを「体を使ったクリエイティブな自己表現の手段」だと捉えて取り組んでいました。転機となったのは、遊びのつもりでラップのデモテープを作ったこと。地元の尊敬する先輩に聞かせたら、真顔で「すごくかっこいいよ、この世界で頑張ったほうがいいよ」と言ってくれて。本当に大好きな先輩でした。でも、その言葉をくれた3日後に亡くなってしまったんです。

そのような辛いご経験があったのですね。

僕は先輩との約束を守るつもりで、最初はラッパーとして、次にDJとして音楽活動に注力しました。気づけば都内のクラブで月12本のレギュラー出演を抱え、コンピレーションCDにも参加し、大手レコード会社からも声がかかるようになっていました。

音楽活動が順調に拡大する中で、なぜデザインの道へ進んだのでしょうか?

将来を考えたからです。僕は好きなこととして音楽活動を続け、多少の印税収入もありましたが、それだけで結婚して家族を養える自信はありませんでした。だから26歳ですっぱりとあきらめ、将来性を感じたITの世界へ飛び込みました。最初はアルバイトとして大手IT企業へ入り、その後はコールセンターでテクニカル講師として働いたり、社内ナレッジサイトの制作を担当したりと、さまざまな現場を渡り歩いていましたね。

IT領域の知見はもともとお持ちだったのですか?

いえ。26歳まではアナログ人間でした。DJをやっているときもずっとアナログレコードを回していましたから。そこから何が何でもデジタルで稼ぐ人間になろうと、「やる」という覚悟だけで必死に学びました。当時は1日に18時間くらいはモニターとにらめっこをして勉強していたと思います。やがてWeb制作の仕事にも取り組むようになり、勤務先やお客さまの要望を聞きながら、表現の幅を広げてスキルアップしていきました。

 

下がった固定費分を新しい機材へ投資。愛媛に来てから仕事の幅が広がった

石塚さんは2010年に愛媛県へ移住しています。なぜ地元・東京を離れることを決断したのでしょうか。

きっかけは、東京時代に働いていた会社が愛媛にグループ会社の拠点を持っていたことでした。そのグループ会社の社長が僕の作った社内ナレッジサイトを見て、「うちに来ないか」と誘ってくれたんです。「来てくれるなら引っ越し代を出すし、役職付きの社員にする」という破格の待遇。でも東京にはクライアント様がたくさんいるので、最初は断っていました。ところが同じころ、当時5年間付き合って婚約までしていた彼女と別れることになってしまって……。5年も付き合っていたので、関東のデートスポットはほぼ行き尽くしてしまっていました。「新しい恋愛をして、どこかへ出かけても、きっと前の思い出がよぎってしまうだろうな」と思いました。「なら新しい土地で心機一転してみよう」と。最初はそんな理由での移住決断だったんです。

傷心を抱えての移住でもあったのですね……。実際に愛媛で暮らし始めてみて、いかがでしたか?

ストレスがほとんどなくなりましたね。人は温かいし、環境もいい。フリーランス1本で活動するようになってからは、家賃が安く固定費があまりかからないので、東京の仕事を遠隔で引き受けると実入りが増えるという実利にも恵まれました。それを新しい機材への投資にあて、試せるので、愛媛に来てからは仕事の幅も一気に広がったんです。

2017年には法人化して現在のAPIPA Design Studioの体制となっています。この事業拡大の経緯とは?

フリーランスという立場では、お付き合いできるクライアント様の幅が限られてしまう面があります。僕は偶然、行政の方から仕事をいただいていたときに、「行政の仕事を続けるなら法人化せにゃいかんよ」というアドバイスももらっていました。さまざまなクライアント様のニーズに応えるためには“ちゃんとした服を着なきゃいけない”。そう思ったことが法人化の理由です。とはいえ僕は行政の仕事だけをやりたいわけではないし、自分が本当に面白いと感じたことであれば、ボランティアで関わることもあります。基本的なスタンスとしてはフリーランス時代と変わらないつもりでいます。

 

「コンサルティング会社よりも深い」と評価されるヒアリング能力の秘訣

大切にされているスタンスについてもぜひお聞かせください。御社は「気づかなかった魅力を『いいカンジ』に具現化します」という理念を置き、「APIPA」<A=artistry(芸術性)、P=personality(人間性)、I=innovation(新しい切り口)、P=painstaking(労力を惜しまない)、A=attitude(姿勢)>という社訓を掲げています。

この思いはスケーター時代から持っていました。昔からものづくりが好きで、同時に人に喜ばれることが大好きなんです。「ものづくりで人を喜ばせたい」というモチベーションの根源を理念として言語化できるようになったのは、30歳くらいだったと思います。「気づかなかった魅力を『いいカンジ』に具現化します」。この理念を実現するためには、関わる人の思いをきちんと理解しなければいけません。だからずっと「ヒアリング能力を高めたい」と考えて活動してきました。今ではそのヒアリング能力がクライアント様に最も評価されている部分だと自負しています。「コンサルティング会社よりも深く聞き出してくれる」と言っていただいたこともあります。

ヒアリングの際に大切にされていることとは?

特に大切にしているのは「第三者視点」です。僕とクライアント様で第一人称と第二人称。それに加えて、架空の第三者の視点を常に意識しています。第三者とは「顧客の顧客」を想定する場合もありますし、さらに上の俯瞰の目で見ていることもありますね。相手の言うことを鵜呑みにするのはただの御用聞きじゃないですか。クライアント様の言っていることは、本当にその会社のためになることなのかを考えなければいけません。「パンフレットを作ってほしい」と依頼されたときに、そのパンフレットが本当に会社にとって必要なのかを考えた結果、Webを提案することもあります。逆に話を深掘っていった結果として、仕事にならないケースもあります。「まだ理念が固まって段階なら、パンフレットもWebサイトも作らないほうがいい。理念が明確になってからまた声をかけてほしい」とお願いしたこともありました。

ただ目の前の受注に飛びつくことはないのですね。

はい。お金のためだけに仕事をすることはありません。このスタンスを貫いていけば、クライアント様は結果的に、もっと深い部分まで相談してくれるようになります。APIPA Design Studioはこれまで営業活動をほとんどしてきませんでした。自分から売り込まなくても、何度も仕事を発注してくれるクライアント様が増えていきました。僕が思い描く「まともな仕事」をしていけば、結果は後から付いてくる。今ではそう確信しています。

御社ではVRやドローンなど「最新テクノロジー」を駆使した制作事業を展開されていますが、コーポレートサイトには「最先端を売りにしているのではない」とも記されています。

VRやドローンを扱っていると「新しいものが好きなのかな?」と思われるかもしれませんね。でもこれらは、僕にとってはあくまでも表現手段の一つに過ぎません。「その風景を空撮で撮ると素敵かもしれない」と思えばドローンを使う。それだけなんです。付き合いの長いクライアント様は最新テクノロジーを求めてうちと取引しているわけではないので、ふとしたきっかけで「えっ? ドローンもやっているの?」と驚かれることもあります(笑)。

クライアント様からかけられた言葉で、特に印象に残っているものはありますか?

あるクライアント様から「石塚さんが作るものには、石塚さんらしさが一切入っていませんね」と言われたことがあります。確かにそうなんですよ。僕がものづくりの基準にするのは「クライアント様らしさ」。一般的には「この人に頼めばこんなタッチで完成する」という評価が生まれるものなのかもしれませんが、僕のタッチは千差万別で、クライアント様ごとにまったく違います。これは理念にもつながっているこだわりであり、クライアント様に気づいてもらえたときにはうれしかったですね。

 

「クリエイターの聖地」愛媛に根ざしながら、世界進出も計画

「クリエイターの聖地」愛媛に根ざしながら、世界進出も計画

今のところは僕1人で制作をすべて手がけていますが、案件数は着実に増えているので、今後は新しい人を迎え入れて育成していきたいと考えています。とはいえ闇雲に組織を拡大していくのではなく、僕の考え方に共感してくれる人と少数精鋭のチームを作っていきたいですね。具体的な取り組みとしては、デザイン周辺に携わるフリーランスの方に向けて、デザイン全般やビジネス化、マネジメントなどに関する知見を伝える講座を設けたいと思っています。

ありがとうございます。今後の展望についても、ぜひお聞かせください。

「Web屋さん」「デザイン屋さん」「映像屋さん」といった分野にとどまるのではなく、広告に関するクリエイティブやマネジメントを、すべて一気に引き受けられるクリエイティブエージェンシーになることが目標です。また、日本国内だけではなく、ヨーロッパへの進出も考えています。具体的にはIT先進国と言われるエストニアに支社を作ることを計画していて、同国の「電子国民(イーレジテンシ―)」をすでに取得済みです。後は人材とタイミング次第ですね。

活動の幅を世界へ広げても、愛媛には根ざし続けていくのでしょうか。

もちろんです。私には、愛媛はクリエイターにとっての聖地だと思っています。モニターをずっと見つめていると頭が痛くなってくることもありますよね。東京では外に出ても至るところにモニターがあり、なかなかLEDの光から逃れられません。でもここでは、一歩外へ出れば自然が広がっているし、空気はきれい。ネット回線は問題ないスピードだし、ECサイトで注文した商品もすぐに届きます。クリエイターには本気でおすすめできる場所ですよ。

取材日:2021年5月13日 ライター:多田 慎介

APIPA Design Studio株式会社

  • 代表者名:石塚 政紀
  • 設立年月:2017年5月
  • 事業内容:コンテンツ制作(Web、動画、DTP、360度パノラマVR、ARコンテンツ、Design、デジタルサイネージ)、ドローン空撮、動画撮影、スチール撮影
  • 所在地:〒791-1122愛媛県松山市津吉町1294-3
  • URL:https://apipa.jp/
  • お問い合わせ先:上記コーポレートサイト内「CONTACT」より

日本中のクリエイターを応援するメディアクリエイターズステーションをフォロー!

TOP