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COLUMNコラム・ザ・ちゃんこ

エンターテイメントは

番長プロデューサーの世直しコラムVol.98
番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光

1999年にプロバスケットの神様、マイケルジョーダンがシカゴブルズから引退する時の記者会見で印象的な事を言ったのを覚えています。

当時、ジョーダンのブルズは史上最強と言われていました。3連覇して6回目のNBA制覇を果たした次のシーズンに入る前。マイケルジョーダンのプレイは神がかっていたし、よくできたCGの様な全く無駄のない動きと、徳の高いお坊さんが悟りを開いた様なルックスもあって、ものすごいかっこいい選手でした。その神様が引退してブルズがバラバラになってしまうんじゃないかとファンがやきもきして、それが現実になるという絶望的な気分の引退記者会見だったのです。「ジョーダン、やめないで~」と世界中が注目した時間だったと思います。

その冒頭で、マイケルジョーダンがボソボソと話し始めました。

「僕は、今日、みんなの前で言わなきゃいけない事がある。 それは、今日はマイケルジョーダンのための日じゃないということだ。 世界中で、深刻な出来事が今日も起きているし、今、同じ時間に(シカゴで拳銃で撃たれて警官が殉職するという事件があった)彼の葬儀が行われている。 バスケットボールの選手の引退よりもそちらの方が意味深い。 彼と彼の家族に起こった不幸に心からお悔やみを言いたい。 皆さんも同じ気持ちでここに居てくれる事を期待したい。

僕は、毎日、懸命に働いている人たちに、日常のプレッシャーから 少しでも解放される時間を提供したいと思っていた。それだけなんだ。 バスケットボールの仕事は、残念ながらリアルな仕事ではない。 バスケットボールの試合がなくても人は生きて行ける。 神様とか言われているけれど、僕は神様ではない。 大半の人は、日頃、辛い事を抱えていきているけど、 それをたった2時間でも忘れてもらえるように全力でハードにプレイをした。 エンターテイメントの意味はそこにあるからだ。」

という様な事だったと思う。 記憶を辿って書いているから正確ではないけどそういう主旨だった。 びっくりして。すぐに腑に落ちました。解っていらっしゃったんだ!と。

人間の人生は、基本的には憂鬱の連続である。ずっと憂鬱。どこまでいっても無くならない不安と、やらなきゃいけない事の連続。

世の中にある、映画や音楽やテレビ番組や本や遊園地やなんやかんや『娯楽』と言われるものは、ジョーダンが言うように、ほんの一瞬、その、生きている憂鬱を忘れさせてくれるためにあるからだ。 憂鬱を忘れて気分が上がる。よし明日もがんばろう。そう思わせてくれる為にエンターテイメントはあるんです。きっと。

なんか、最近は、思っても見なかった様な憂鬱で不安になる事件や、理解できない事件が頻繁に起きるようになった。命の危険すら感じる事件。決定的に気分の下がる出来事が多すぎるし、それに対してなす術もなければ、考えても答えすら解らない。 何でそんなことするんだよ!世界中がそんな空気で本当に嫌になる。

だから、エンターテイメントに対する期待は大きい。 「いいもん見たなあ」という気分になりたいのです。

そういう中で、自分のやっている仕事はどうなんだろう?と考える。 テレビコマーシャルはエンターテイメントでありえるのか? マーケティング的な答えを前提に作られるCMはとんちんかんな失敗は少ないかもしれない。

でも、気分としては、昔、子供の頃に憧れたテレビコマーシャルに「いいもん見た」感が多かったのは確かだと思う。春になると資生堂の春のキャンペーンが始まって、暖かくなり始めた日にそのコマーシャルをみるとうきうきした気分になった。商品には全く関係ないのに。夏の航空会社のキャンペーンのCMを見て、黒いビキニのお姉さんと沖縄の海に思いを馳せたり、野坂昭如が踊りながら歌うウイスキーのCMの歌やコピーに元気づけられたり。

そういうことが今は少なくなったような気がする。 理屈が先行しているからか? 訳の分かりにくい気分みたいなものが大切にされにくいからか?

大好きなCM監督のFBの書き込みに 「マーケティングに負けるな。クリエイティブは妄想だ!」と 書きなぐってあって、にやりと笑わせてもらいました。

もっと楽しくなる事、面白い事を妄想の中から作り出す。見る側もそういう気分をほしがる。みたいな事にならないとコマーシャルは面白くならないかもしれませんね。

人生の不安は、考えても考えても答えの出ない事、つまり、「なんで俺は生きているのか?」という不安にたどり着くんじゃないかと思うのです。それがさっぱり解らないから憂鬱になる。だったら、答えなんか無理矢理出したりせず、色々試して楽しめばいいと思うのです。

マイケルジョーダンばりに、自分の能力を研ぎすまして、やっている事をエンターテイメントだと自覚すれば、その娯楽はすごいレベルに昇華する。答えの見つかりそうな理屈ばっかりこねてないで、上司に説明する理屈と言い訳の心配ばかりしてないで、こうやったら楽しいなあっていう無限の頭の中でなんか作り出して見せる。みたいな事をできるこだわりと体力と根性をつけた方が面白いに決まっている。わかんないけど。「とことん人を楽しませてやろう」ってこだわって作るものしか面白くならないし。

イスラム国への報復は、日本から面白いものをいっぱい作って、発信して、みんな楽しそうにする事なんじゃないか?やーい、お前ら砂でも食って好きにやってろ。俺たちは楽しい事考えるのに精一杯なんだよ。と。

吸収することで大きくなってきた日本は、もう、吐きだす事で大きくなるようにならないとつまんないデブになっちゃいそうで怖いです。ね。

Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)

プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが、矢面に立つのは当たり前と仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。


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