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COLUMNコラム・ザ・ちゃんこ

お風呂で洗って泳いで踊ってアート?! Goldsmiths Centre for Contemporary Art

Vol.78
London Art Trail 笠原みゆき

Goldsmiths Centre for contemporary art (Goldsmiths CCA)

オーバーグラウンドのニュークロスゲイト駅を出て大通りを東へ、すぐ先の角を右に曲がると高い煙突のある建物が見えてきます。今回はここ、ロンドン大学を構成するカレッジの一つであるゴールドスミス・カレッジのキャンパスの一角に今年9月にオープンしたギャラリー、Goldsmiths Centre for contemporary art (Goldsmiths CCA)から、Kris Lemsaluの個展、“4LIFE"を紹介します。

HOLY HELL O, 2018 ©Kris Lemsalu

HOLY HELL O, 2018 ©Kris Lemsalu

まず目に入るのはバスタブにダイブインする虹色のスイマー。何でプールじゃなくてバスタブなの?そしてそのバスタブの周りから手編みのニットのセーターを着た陶製の腕が千手観音のようにニョキニョキと生えています。どうやらこの作品、ギャラリーの建物の歴史と関係がありそうです。建物は新しいって言っても、どうみても19世紀の建物を改造したような?元は一体何の建物だったのだろうと気になりますよね。実はこの建物は1895~98年に建築家、Thomas Dinwiddyによって建てられたLaurie Grove Bathsという、公衆浴場でした。公衆浴場と言ってもスイミングプールとお風呂との両方の機能を兼ねそろえていたんです。浴場は1991年まで使われ、同年に国の保護対象となる指定建造物としてグレートllに指定されます。(指定建造物については第8回を参照) その後、1999年にゴールドスミス・カレッジが買取し、一部は美術科の学生のスタジオとして使われて来ました。(現在も使用中) 2014年にギャラリー、Goldsmiths CCAの案が持ち上がると、2015年にターナー賞を受賞した建築デザイングループのAssembleのデザインがコンペで選ばれて改築が行われ、今秋の開館に至ったわけです。作品は、“HOLY HELL O, 2018"。

Laurie Grove Baths (1905年当時) ©Manchester Libraries

Sally, Go Round the Roses, 2018 ©Kris Lemsalu

聞こえて来るのはポップソング。そこにはラジカセを持って楽しそうに踊っている陶製の腕や足が。そう、Laurie Grove Bathsはただの公衆浴場ではありませんでした。時には何とタイルに床板を貼って、ダンスホールやコンサートホールに早変わり! 1936年にはロンドン南東部ダンスバンド・チャンピオンシップが行われ、米ジャズミュージシャンのベニーカーターが審査員を務めたのだそう。米元祖ロックンロール、カントリー歌手のジェリー・リー・ルイスがここで1964年にコンサートを開催したという記録もあります。作品は “Sally, Go Round the Roses, 2018"。

Biker, Bride, Builder, Businesswoman and Baby, 2018 ©Kris Lemsalu

Biker, Bride, Builder, Businesswoman and Baby, 2018 ©Kris Lemsalu

暗い部屋の扉を開けると、そこは血の池地獄?!温泉は湧き出ていないものの、別府温泉のようなたっぷり酸化鉄を含んだ、赤い熱泥の池を彷彿させる水たまりが岩の間に点在しています。また、陶製のカラスがあちこちに飛んでいて、そのカラスが食いつまんでいるのは乳母車に乗った赤ちゃんの服、工事現場の作業員の服、ウェディングドレス、レーシングスーツ、それに英国のメイ首相が着ているようなキャリアウーマンの赤いコート。更に白いベンチの脇には一本の桜の木が植えてあり、そこから花びらが先ほどの血の池に落ちて漂っています。照明にストロボライトを使っているので、これらのイメージが現れては消え、また残像のように目に残ります。作品は“Biker, Bride, Builder, Businesswoman and Baby, 2018"。作家のいう、生と死とその真ん中のちょっと....を表現したという、今回の個展のタイトル、4LIFEそのもの。また、彼女は陶芸作品の制作過程に非常にこだわりがあって、今回のインスタレーション作品それぞれに手作りの焼き物(上記の陶製の腕や脚やカラスです)を使っていて、物によっては4回も焼き付けを行なっているのだとか。それらは日本で古代から使われている焼き物窯の形式の一つ、穴窯を使って焼いたのだそうです。

100年の間地元の人たちに親しまれた公衆浴場としての歴史を秘めながら、アートギャラリーとして生まれ変わったLaurie Grove Baths。今回は二階の1フロアーのみの紹介でしたが、地下一階から2階までの3フロアーに分かれていてその他も見所たくさんです。南ロンドンを訪れた際は是非足を運んでみてはいかがでしょうか。



Profile of 笠原みゆき(アーチスト)

笠原みゆき

©Jenny Matthews

2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。
Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。

ウェブサイト:www.miyukikasahara.com

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