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COLUMNコラム・ザ・ちゃんこ

Perspectives on Art and Paper

London Art Trail Vol.5
London Art Trail 笠原みゆき

今回はロンドンから電車で2時間程の北西イングランド、イギリス第二の都市マンチェスターから。 紙は木から作られるというイメージがありますが、長い紙の歴史の中で木材パルブを使った紙作りが始まったのは極最近の19世紀半ば近くになって以来。ヨーロッパにおいてそれまでは綿や麻を使っての紙作りが支流であり、産業革命において中心的役割を果たした工業都市マンチェスターは、主力の綿工業の発達とともにその古布をリサイクルし、製紙業を発展させました。

マンチェスター市立美術館

マンチェスター市立美術館

そのマンチェスターの市立美術館で現在開催中のThe First Cut展は、紙という素材の可能性を来場者と共に徹底的に再検討してみようという試み。国内外の31名のアーチスト、デザイナー、工芸家が招かれた展示の中で、幾つか気になった作品を紹介します。

半谷学 "不思議の森"

半谷学 "不思議の森"

会場に入るとまず目に入るのが、リサイクル材を使った手漉き和紙とマンチェスター産の木の枝を使って制作された半谷学の“不思議の森”。北海道を拠点にする半谷は、夏期に牡蠣などの養殖棚に大量発生する為、取り除かれ廃棄されてしまう、ホソジュズモ(細数珠藻)という海藻を漁師から譲り受け、和紙の主な材料として使っているそう。

"Going West" © Andersen M Studio, NZ Book Council

次はデンマーク出身、ロンドンにスタジオを構えるAndersen M Studioの“Going West”。数々の国際的な賞を受賞したこの作品はニュージーランドの著名な作家、Maurice Geeの小説“Going West”の本そのものをカッターで切り抜いて物語のシーンを再現し、コマ撮り技法を用いてアニメーション化したもの。

照屋勇賢 "告知ー森(バーガーキング)"

照屋勇賢 "告知ー森(バーガーキング)"
写真は「国際交流基金」ウェブサイトより

紙袋を覗き込むこの作品は沖縄、NYで活動する照屋勇賢の作品で、照屋が10年以上続けている使い捨て紙袋の一部を切り抜き、その袋の中にミニチュアの森を作り出す “告知 - 森“シリーズ。展示されていたのはバーガーキングの茶袋バージョン。

Claire Brewster "The Harbingers"

Claire Brewster "The Harbingers"

こちらはイギリス、リンカンシャー出身のロンドンを拠点に制作するClaire Brewsterの“The Harbingers”。Harbinger(兆し、前触れ、先駆者)という題名から察せられる様に、古地図からリアルに鳥や昆虫などを切り抜いて作るBrewsterの作品は、人間が線引きした地図が存在するずっと以前から国境を越え生活してきた鳥や昆虫達の、人間の環境破壊による危機を訴えています。

Long-Bin Chen "Twist Angel 6"

Long-Bin Chen "Twist Angel 6"

天井から吊るされていたのは、台湾生まれ、NYで活動するLong-Bin Chen(陳龍斌)の彫刻作品、“Twist Angel 6”。Chenは古い電話帳、新聞、雑誌、廃棄された書籍といったアナログ情報媒体を用い作品を作り上げていて、“Twist Angel 6”も繋ぎ合わせた厚手の書物を木や石の彫刻の様に削りだした作品。

Kara Walker "Grub for Sharks: A Concession to the Negro Populace"

Kara Walker "Grub for Sharks: A Concession to the Negro Populace"

18-19世紀西洋において黒い紙を切り抜いて作る切り絵の輪郭肖像、シルエットアートは、写真や肖像画に比べ手頃な価格であり、一般人に人気があったアート。その技法を用いて制作する、カリフォルニア生まれ、NY在住のKara WalkerのGrub for Sharks: A Concession to the Negro Populaceは、一見おとぎ話の世界の様に見えますが、M W Turnerの"Slavers Throwing overboard the Dead and Dying - Typhoon Coming On ('The Slave Ship')(1840)から触発された作品で、1780年代イギリス奴隷貿易の実態を皮肉たっぷりと描き出しています。

書籍を含む印刷物の電子化が急速に進む一方、多くのカフェやファーストフード店などでは未だに紙袋や紙コップといった膨大な紙ゴミを生み出しています。こういった使い捨て紙媒体の多くには“100%再生紙使用”と書かれていて、これではまるで紙ゴミを増やす為に再生紙を生み出しているようなものなのでは?と考えさせられます。

以前読んだのですが、日本の中世史専門の学者網野善彦が、著書“海民と日本社会”の中で、“古代末、中世には廃棄される文書(商取引、金融取引に関する文書、帳簿)の裏を利用して日記、記録が書かれ、近代に入ると民衆にまで広く使用された襖や屏風の下張りにその家の廃棄されるべき文書が近年次々と見つかっている。”といった内容を記していて、当時紙が高価であったのは勿論ですが、古くから紙のリサイクルが当たり前だったのがうかがわれます。またこれは日本に限ったことではないのではないかとも思います。

最後にThe First CutのカタログからJohn Cageの言葉、M: Writing ‘67-‘72(’73版)。 “紙は食べることができて栄養があるほうがいい。印刷や筆記用のインクには美味しい風味があるほうがいい。 朝食時に読んだ雑誌や新聞は昼にはランチとして食べられるほうがいい。 (要らない)郵便物はゴミ箱に捨てないで、晩餐の客人ためにとっておくほうがいい。“

Profile of 笠原みゆき(アーチスト)

笠原みゆき

©Jenny Matthews

2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。
Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。

ウェブサイト:www.miyukikasahara.com

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