I’M FLASH !

ミニ・シネマ・パラダイスVol.3
ミニ・シネマ・パラダイス 市川桂
渋谷の道玄坂上、交番の手前を曲がって歩いていくと、ユーロスペースというミニシアターがあります。2~300メートルはある細い1本道には主に、古そうなラブホテル、ライブハウス、小さいアートスペースなど軒を連ねています。19時すこし前の遅い時間だったせいか、ライブハウス前は入場待ちの女性たちがあふれていました。雑多で少しアンダーグラウンドな雰囲気をかもし出しているためか、初めての人にはちょっと歩き辛く、私もそそくさとその道を歩きました。道の終わりごろに「ユーロスペース」があります。 コンクリート打ちっぱなしで綺麗めの「KINOHAUS(キノハウス)」ビル。1階はカフェになっていて、ユーロスペースの他に、映画専門学校、名画座、多目的ホールも入居しています。カフェはどうやら映画専門学校の学生向けで、1階の奥はフリースペースのようになっており、何かしらの講義中で、若いんだか若くないんだかよく分からない男女数十名がテーブルを囲んでいました。映画を観るひと、映画を作るひと、映画という文化の発信地というのがコンセプトなのでしょう。また、その地域一帯が、映画、音楽、サブカルチャー、それに乗っかるクリエイター、若者・・・といった場所になっています。 ミニシアターにもサブカル的な映画を好んで上映するところ、芸術的で難解な映画を上映するところなど、特徴は様々ですが、ユーロスペースはサブカルな映画を好む映画館だと、場所の雰囲気ですぐわかりました。 ユーロスペースはミニシアターでは非常に有名な映画館のひとつのようで、良く名前を聞きます。調べると、1982年に渋谷駅南西の桜丘町に開館。オープニング作品は『ある道化師』(監督ヴォイチェフ・ヤスニーの西ドイツ映画)。当時はまだ日本での知名度が低かった海外の監督作品や、『ゆきゆきて、神軍』などの話題作を上映し、1980年代のミニシアターブームの一翼を担ったそうです。現在スクリーンは2つ。(シアター1:92席、シアター2:145席)。2005年に今の場所となったため、建物自体はとても新しく綺麗です。 さて、今回はこのユーロスペースに行ってみたかったのがきっかけのため、何を観るかは決めずに向かい、ちょうどやっていた藤原竜也主演の邦画「I'M FLASH !」を鑑賞することになりました。 余談ですが、俳優・藤原竜也は埼玉の秩父出身で、私の地元とほど近い場所です。秩父は三峰山という霊験あらたかな山をはじめ、四方を山にかこまれているため交通の便は悪く、冬は非常に雪深く、電車がよく停まり、ひどく厳しい土地です。彼が住んでいたころは、車がないとどこにも行けない不便な田舎町だったはずです。田舎町で芸能活動をしていると、どうしても色んな噂が飛び交うので、彼はきっと地元ではあまり良い思いをしていないのではないか・・・と、勝手に想像してしまいます。 さて、映画は豊田利晃監督作品。人気の俳優を起用した作品で、松田龍平主演の「青い春」(原作:松本大洋の人気コミック)などで知られているようです。9歳から17歳まで将棋のプロ棋士養成所に所属していたとのことで、一風変わった経歴の監督です。 物語は夏の沖縄を舞台に、新興宗教の教祖・ルイ(藤原竜也)が、謎の女(水原希子)と出会ったことをきっかけに、「教祖をやめたい」と言い出し、最終的に家族の命令によってボディーガード(松田龍平)に命を狙われる---その数日間を描いています。 映画の冒頭は、酒に酔った藤原竜也と水原希子が運転する車と、レンタルビデオを返しに走る名も無き青年のバイクが夜の街道を疾走するシーンからはじまります。かわるがわる写し出される車とバイクは、全く違った場所を走っているはずなのですが、不思議と"衝突"へと突き進んでいくのが予想できます。バックでは大音量のロックミュージックがかかり、疾走感と合わさり、観ている側の鼓動と同期していきます。 この映画はいわゆる"ミュージッククリップ(PV)"のような雰囲気で、映画の大部分は音楽(ロック)が大音量で鳴り響き、モノローグが多様され、物語は時系列ではなくそれぞれのシーケンスを行ったり来たりし、切り張りされている構成です。真っ黒に日焼けしていて濃い顔の藤原竜也と、色白でうすい顔の松田龍平はわかりやすい対比になっていて、画的にキャラクターとして立っているのも印象的です。 この手の映画はもはや内容なんてあってないようなもので、理解しようがしまいがどっちだって良い気がしてきます。PVと同じように、ただただ映像と音楽の抑揚と同調が快感に繋がれば良いのです。映画のタイトル「I'M FLASH !」は、鮎川誠(ギタリスト、ロックバンド「シーナ&ザ・ロケッツ」のリーダー)の同名の曲から着想を得て作られたとのこと。なるほど、ナットクです。 映画が終わって外にでると、ライブが終わった人たちが行き交っていました。 東急のBunkamura側から行ったほうが道は短めですが、雰囲気を味わいたい方は、道玄坂側から歩いてみていただきたいです。
I'm Flash!

91分
監督:豊田利晃
出演者:藤原竜也、松田龍平、水原希子
『青い春』(2001)『空中庭園』(2005)などで知られる鬼才、豊田利晃監督最新作。 現代的でスタイリッシュな映像。本作の為に結成されたバンド「I'M FLASH!BAND」が贈る主題歌「I'M FLASH!」は、チバユウスケ、中村達也らが名を連ねたロック好きにはたまらないサウンドとなっている。

Profile of 市川 桂

美術系大学で、自ら映像制作を中心にものづくりを行い、ものづくりの苦労や感動を体験してきました。今は株式会社フェローズにてクリエイティブ業界、特にWEB&グラフィック業界専門のエージェントをしています。 映画鑑賞は、大学時代は年間200~300本ほど、社会人になった現在は年間100本を観るのを目標にしています。

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