金魚の密

金沢
ライター
いんぎらぁと 手仕事のまちから
しお

金沢では2度目の開催となる「アートアクアリウム展~金沢・金魚の密~」へ行ってきた。2016年の開催時にも大きな感動を受けた私は、胸躍らせながら金沢21世紀美術館へ向かった。

アートアクアリウム展は日本のみならず、海外でも高い評価を受ける金魚をテーマにした展覧会だ。本物の金魚を、音と光と斬新かつ伝統的かつ美しい水槽で演出し、唯一無二のアートとして昇華している。

前回はかなり広いフロアに、アートアクアリウムの代名詞である「花魁」など大きな作品から、金魚を品種ごとに並べた「金魚品評」までいくつもの作品が点在しているのが圧巻だったと記憶している。

今回は来場者の密状態を避けるためか、展覧スペースを細かく区切り、大きな作品に一区画割いて人が分散するように展示され、展覧会場も1階と地下の2か所にわかれていた。

わたしが今回楽しみにしていたのが、石川県の伝統工芸である九谷焼や金箔を使った新しい作品だ。

前回の金沢開催後にアートアクアリウムのプロデューサー・木村英智さんが職人に依頼し、こだわって製作したという九谷焼の器に正式な品評会と同じく「上見」で楽しめるよう金魚を放つ「久谷金魚品評」。

生命を持った金魚と、負けず劣らず華やかで美しい金魚の絵柄と久谷の絵付が目に麗しい。

金沢金箔で大きな金魚の細工を施した「タマテリウム」。玉手箱がモチーフになっていて、宝玉のように金魚が泳いでいる。ああ、金魚界の竜宮城か、ここは。

金魚という日本の伝統的なモチーフを使って、伝統工芸と融合し、まったく新しいアプローチをするアートアクアリウムはやはりすごいと感じる。

今回の展示で、個人的には「金魚天井」という作品が好きだった。家に欲しい…、とくに寝室に。

ふいに水槽の底に沈んだビー玉に気がついた。このビー玉すら、金魚のようで可愛い。

ジャグジーバスで金魚と一緒に泳いでいるイメージの「ジャグジリウム」も面白かった。

そして、これぞアートアクアリウム!といった大型水槽の目の前に立って、金魚のゆらめきと四季のように表情を変えるライティングを眺めながらただ時間が流れていくのに身を任せていると、この世界的恐慌もワクチン接種してもなお続く息苦しいマスク生活も、すべてを超越した幸せな時間に変わっていく。

展覧会では木村さんのドキュメンタリームービーが流れていて、こんな言葉が心に残る。

「伝統工芸にはよく知ると未来のもののような、最先端のようなデザインや技術がたくさんある。これからは伝統にもっと、寄り添って生活していかなければと感じる。食べることや生きることに直接的に集中しなくてはいけない時期があって、ようやくそれが落ち着いてきたときに、精神的に必要になってくるのがアートだったりエンターテインメントなのだと思う。」

現代アートも伝統工芸の器も音楽も、こうやってわたしたちが書いたり読んだりする文章も、実際こんな恐ろしい世界になったとき、何の役にも立たなかったか。いいや、違う、とわたしは思う。

儚くも懸命に泳ぎを止めない金魚のように、わたしたちも美しく生き続けるために芸術や娯楽は間違いなく必要で、それがわたしたちの煌めきに変わるだろう。

そんなことを感じながら、「金魚の密」を心ゆくまで楽しんだ1日だった。

プロフィール
ライター
しお
ブランニュー古都。 ふるくてあたらしいが混在する金沢に生まれ育ち、最近ますますこの街が好きです。 タウン情報サイトの記者やインターネット回線系のまとめ記事などを執筆しながら見つけたもの、感じたことをレポートします。 てんとうむししゃ代表。

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