映像2021.08.20

究極の謎解きエンター「転」メント!映画「鳩の撃退法」レビュー

東京
WEBクリエイター
日本文化×デザインあれこれ
いのうえ

過去と現在、小説と現実が複雑に混ざり合い進行するストーリー。 映画化不可能と言われた佐藤正午の小説「鳩の撃退法」が、タカハタ秀太監督によって待望の映画化。

ぼんやり観ていると津田ワールドに飲まれてしまう。心地良くバグる脳を体感してほしい。

あらすじ

直木賞受賞歴のある天才作家・津田伸一は、バーテンダーとして働く傍ら新作小説を執筆している。
東京のとあるバーで、担当編集者の鳥飼なほみは、彼の原稿に目を通すとある事に気づく。

「この小説、書いちゃいけないことを書いているんじゃ?」

鳥飼は小説の舞台である富山へ飛び、小説がフィクションなのか検証する事となった。
「一家神隠し事件」、「偽札騒動」、「裏社会」、「ピーターパン」。複雑に絡み合うキーワードの中で真実は何なのか…?

見どころ1 :交錯する世界

小説家・津田伸一の過ごす世界と、執筆中の小説に登場する人物が共通している。
津田本人も作中に重要人物として登場しており、それ故に、「現実の話」なのか「小説の中の虚構」なのか境界線が曖昧になっている。

富山の風俗店ドライバー・津田伸一の世界に没入していると、突然東京のバーテンダー兼小説家の津田伸一が語りかけてくる。あぁ、これは小説の出来事なのか。いや、本当にそうなのか??事実を元にしたフィクション。ならばどこまで真実なのか?あなたは散りばめられた伏線に気づく事ができるか?

「一家神隠し事件」「偽札騒動」というボリュームの大きな事件が並行発生しており、2つの事件がどう絡み合うのか。津田の話はどこまで真実なのか。登場人物の発言や、映像にヒントが隠されているような、いないような…。想像力を掻き立てられる展開は目が離せない。

見どころ2:映画ならではの表現

原作は上下巻合わせて1600ページを超える長編小説である。
しかも映像化不可能と言われた、複雑な展開と世界線。これを119分のエンターテイメントに凝縮している。
どのように映像化されているのか気になる人も多いだろう。原作ファンの人も是非観て欲しい。

原作に読み手それぞれの解釈が生まれていると思うが、その沢山の解釈の1つが、タカハタ監督の解釈であり、映画化に繋がったのかもしれない。

映画版を観る事で「そうきたか!」「この展開も良いな」など新たな感動が生まれるはずである。

津田がコーヒーショップで出会った男、幸地秀吉の言動で印象的なものが幾つもある。
中でも「奇跡」は私の心に強く響いた。どこか悲しそうで苦しそうで、それでもこれは「奇跡」だと。

それが現実なのか、映画版津田伸一が創り上げた虚構なのかは分からない。
秀吉が少しでも救われているのなら、どちらでも良いのかもしれない。

作中「バッドエンド」というワードも登場するが、彼が創り上げた世界はどうなのか?誰にとって?観賞後に意見を交わしたくなる作品である。

映画版の方が時間軸や「鳩」の経路など伝わりやすい表現を採用しているので、小説に慣れていない人にもおすすめしたい。

見どころ3:クリエイターの頭の中

小説家の事をクリエイターと呼んで良いのか分からないが、便宜上そう呼ばせていただく。このレビューは「クリエイターズ・アイ」なので、クリエイターの目に留まる機会が多いはずである。

津田伸一の新作が現在進行形で執筆中である事に注目したい。
「今後の展開をどう書くべきか」「小説家にできる事は何か」、更には「必要のない描写」についても語られている。

敢えて説明しない、直感的に分かる何かがあれば良い。どうだろうか?クリエイティブ職の人ならこのテーマだけで小一時間盛り上がれる事だろう。

推敲前の作品を私達は鳥飼なほみと一緒に見ている。
「小説家にできること」を自身のクリエイティブに置き換えて考えてみると、良い刺激になるはずである。

見どころ4:オーバーラップするピーターパンの世界

津田の持つ古本「ピーターパンとウエンディ」が重要アイテムとして登場する。
「神隠し」、「偽札」、「裏社会」を繋ぐ「ピーターパン」。
観賞後、ピーターパンを読みたい衝動に駆られる。富山と東京だけではない、いつの間にか私達はネバーランドにまで導かれているのである。

見どころ5:豪華俳優陣

「主演・藤原竜也」。この文字を見てガッツポーズをした人もいるだろう。数々の難しい役を見事に演じきり実力派俳優としての地位を確立している名優である。

今回彼が演じたのは、女性にだらしなく金の無い小説家。
一見クズだが、女性を惹きつける魅力がある。モテる人、という言語化が難しい雰囲気と小説家という個性を彼がどう演じたか。是非映像で確認してほしい。
藤原演じる津田伸一は鋭い洞察力と捲し立てるような早口が特徴的だが、他のキャストとのバランスも絶妙である。

裏社会の男、倉田健次郎を演じるのは豊川悦司。
津田と対照的にゆっくり穏やかに喋る。そしてその穏やかな口調の中に隠しきれない「ヤバい奴」オーラ。
大物は慌てない、騒がない。ゆっくりと静かに心臓を握られているような威圧感。
誰もが恐れる裏社会のボスを豊川演じる倉田からひしひしと感じるのである。

そして津田がコーヒーショップで出会った男、幸地秀吉を演じるのは風間俊介。
幸地は自身の中に幾つかのギャップを抱えている。読書好きで物静かな青年であるが、水商売に身を置いている。
何故?心の奥に誰にも言えない秘密の箱を抱えているのでは?
彼の事をもっと知りたい。そんな純朴さとミステリアスさを併せ持つ幸地を、風間俊介によって見事にビジュアル化されている。

最後に

まだまだ書き足りないが、あとはあなたの目で確かめてほしい。
そしてあなただけのストーリーを完成させるのも一興。
豪華俳優陣による謎解きエンター「転」メント。8月27日公開!

「鳩の撃退法」

 

【STORY】
かつては直木賞も受賞した天才作家の津田伸一(藤原竜也)。津田はとあるバーで担当編集者の鳥飼なほみ(土屋太鳳)に、書き途中の新作小説を読ませていた。
富山の小さな街で経験した“ある出来事”を元に書かれた津田の新作に心を躍らせる鳥飼だったが、話を聞けば聞くほど、どうにも小説の中だけの話とは思えない。
神隠しにあったとされる家族、津田の元に舞い込んだ大量のニセ札、囲いを出た鳩の行方、津田の命を狙う裏社会のドン、そして多くの人の 運命を狂わせた あの雪の一夜の邂逅…

彼の話は嘘?本当? 鳥飼は津田の話を頼りに小説が本当にフィクションなのか【検証】を始めるが、そこには【驚愕の真実】が待ち受けていた―

【作品概要】
出演:藤原竜也
土屋太鳳 / 風間俊介 西野七瀬
佐津川愛美 桜井ユキ 柿澤勇人 駿河太郎 浜野謙太
岩松了 / 村上淳 坂井真紀 濱田岳 ミッキー・カーチス / リリー・フランキー
豊川悦司
原作:佐藤正午「鳩の撃退法」(小学館刊)
監督:タカハタ秀太 脚本:藤井清美 タカハタ秀太
音楽:堀込高樹(KIRINJI) 主題歌:「爆ぜる心臓」KIRINJI feat. Awich (ユニバーサル ミュージック)
製作幹事:松竹 電通 配給:松竹 制作プロダクション:AOI Pro. 制作協力:松竹撮影所 松竹映像センター
公式HP:https://movies.shochiku.co.jp/hatogeki-eiga

公式Twitter:https://twitter.com/hatogeki_eiga
©2021「鳩の撃退法」製作委員会 ©佐藤正午/小学館
2021年8月27日(金)公開 上映時間:119分

プロフィール
WEBクリエイター
いのうえ
WEBクリエイター(デザイン/コーディング) サイトリニューアル、デザインの他、企業系大規模サイト、ECサイトの制作・運営などに携わる。fellowsでのセミナー講師経験もあり。 ここでは個人的に情報収集・発信している日本文化とデザインについて紹介していきます。

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