映像は言葉以上にメッセージを届けられるメディア

新潟
株式会社MAD PRODUCTION 代表取締役
Ishimura Tsuyoshi
石村 剛

結婚式に出席すると、今まで繰り広げられていたプログラムの様子がエンドロールで流れる演出に毎回驚かされます。それは約10年のうちに起きた映像技術の革新によるもの。地方であってもリアルタイムで最新技術にアンテナを張り、地元の企業や結婚式場などの映像ニーズに高いレベルで応えているのが、新潟の映像制作会社MAD PRODUCTION
(エムエーディープロダクション)です。代表取締役の石村剛社長が営業先で門前払い同様のところから市場を開拓してきた軌跡、さらに思い描く映像業界の未来とそこに対する戦略まで伺いました。

最新の技術でお客さまに喜んでもらいたくて独立を決意

 

映像業界に興味を持ったきっかけを教えてください。

小売・販売系ビジネスの専門学校に通っていた20歳のときに、学生時代の卒業制作を作ろうと思ってビデオカメラを購入したんです。友達と遊んでいるときにカメラを回したり、姉の結婚式を撮影して編集したりして…。ちょうど就活の時期でもあり、映像の専門会社を学校が紹介してくれて、その結婚式の映像を持って面接を受けて合格しました。今思うととんでもないクオリティの作品で恥ずかしいのですが(笑)。実際、映像にすごく関心があったわけではないのです。どちらかというと子供の頃からガンダムのプラモデルやミニ四駆を作ったり、高校も電子科に進んだりと、機械いじりやモノ作りが好きなところからこの業界にひかれたんだと思います。

新人時代はどんな映像を作っていたのですか?

就職先は、ブライダルの記録映像を中心に撮影している企業でした。当時は今の何倍も結婚式が挙げられており、主流はエンディングにダイジェスト映像を流すのではなく、記録する使われ方。映像業界は年々変化していますが、10年ほど前は機材や編集ソフトの性能向上もあり、新郎新婦のプロフィールムービーやその日に撮影した結婚式のダイジェストが誕生したり、とても大きな変革期を迎えていたんです。その変化にプロとして対応していきたいけど、組織の中ではそれがなかなか難しくて…「せっかくこんなことができるようになったのに、なんでやってあげられないんだろう」という葛藤が強くなり、25歳のときに独立を決意しました。

フリーランスではなくあえて会社の起業を選択したんですね。

フリーランスだと一人ですべてできないといけないけど、組織なら個人個人の強みをそれぞれ生かしてスケールメリットを出していくことができる。そこが会社にする有効性だと思うんです。苦手な作業はそれが得意な人に任せられれば、その分自分が得意な仕事に集中する時間も作れる。日々トライアンドエラーの繰り返しですが、現場の人にとって役立つものならやるべきだし、経験したもの勝ち。フリーランスだとすべて個人で完結させなければならないですが、組織で協力し合えることでお互いに得意を発揮し、苦手を補えるというのは働く人にとってメリットになると思います。会社にすることで、社会保険などスタッフが安心して助け合いながら働ける環境も整備できますしね。

映像=言葉以上にメッセージを届けられるメディア

現在の事業内容について教えてください。

本社ではブライダルの映像や企業CM、プロモーションビデオ(PV)などを中心に制作していますが、特に最近はWeb CMが増えていますね。また、テレビ局に出向して番組制作をしている部門もあります。CGを使った表現方法がまだ弱いと思っているので、今後は編集に強い社員を育てていく予定です。

どのような企業理念を持って経営をされていますか?

MAD PRODUCTIONでは企業理念に「ヒューマン・メディア主義」を掲げています。映像は機器をマニュアル通り、セオリー通りに操作すれば撮ることはできます。でも人の気持ちは流動的であり、人それぞれ違うもの。そういったところもちゃんと捉えていきたいし、映像は言葉以上にメッセージを届けられるメディアであることを意識しています。新郎の家族が盛り上げようと挟み込んだアドリブをちゃんと押さえて、画像として表現したり…。人が人を撮るからこそ生み出されるものを大切にしています。それは社員に教えるというよりも、社員一人一人が現場を経験する中で気づき、それを自然と表現しようとしていることですね。

門前払いだったクライアントに認められて

 

起業してみて、経営は順調でしたか?

できたばかりの会社が、新しい技術を使ったサービスを紹介しても、なかなか受け入れてもらうことはできませんでした。「結婚式のダイジェスト映像なんて需要ないよ」「いや、それはやってみないと分からないです」の応酬の繰り返しで、鳴かず飛ばずのところからスタートでした。最初は手取り3万円とかでしたよ(苦笑)。
当時はまだ若かったから営業先では対等にも見てもらえないし、結果で返していくしかありませんでした。「要らない」と言われ続けても、「こういったチャレンジをしないと、時代遅れになってしまいます!」と訴えて、なんとかチャンスをいただいた結婚式場がありました。本当に厳しい支配人でしたが、3年後くらいにはとても信頼いただけるようになりました。そんな積み重ねから少しずつお取り引きの需要も上がっていきました。初期投資は創業メンバーが借金をして3年で返済する目標を立てましたが、こういった頑張りもあり結果的には2年で返すことができました。

専門技術を要する業界なので、経験者を採用しているのですか?

ほとんどが実務未経験で、自分から学ぶ姿勢の有無を評価して採用しています。Off-JT(職場外での教育訓練)のような時間を取って丁寧に研修できているわけではありませんが、現場を体感することで覚えられること、教えられることがたくさんあります。「うちの会社のやり方はこう」と一方的に指導しても新人は育たないし、その人の感性を殺してしまいかねません。実際にそれで業界を去っていく人もたくさん見てきたし、自分自身も苦い経験をしています。 生き生きと働いて、どんどん前に出て行ってもらいたいですね。みんな、私が新人の頃よりも何倍ものスピードで成長し、感性も磨かれていっていると思います。いかに自分のしたいことをストイックに追求できるかが大事で、それで業界が盛り上がり、映像のクオリティが上がることで、結婚式を挙げたいと思う人もまた増えるんだと思います。

さまざまな業種の世界と関わることが刺激になる

 

転機となった仕事はありますか?

新潟にある「ARCH(アーチ)」という、ブライダルに関わるさまざまなジャンルのプロが集結して結婚式を作り上げるチームの一員になったことです。私たちは通常、結婚式場との契約になるB to Bの仕事をしているので、このチームに参加することでほぼ初めて個人に向けて「MAD PRODUCTION」の名前が出ました。当時その経験をきっかけに2015年に一般向けのブランド「Knot(ノット)」を設立し、個人向けのコンテンツ制作やPR手法などの腕を磨くことができました。現在はまた考え方に変化がありB to Bを主軸に置いていますが、映像の可能性の大きさを十分知れたことは大きな経験でしたね。

映像に携わる醍醐味(だいごみ)を教えてください。

結婚式という幸せな瞬間に立ち会えることは素晴らしいことだなと思うんです。撮影して、見る人の気持ちになって編集するのが楽しいですね。結婚式は一件ずつ全部違うものだし、毎回いい緊張感を持って臨んでいます。また結婚式にとどまらず、さまざまな企業や飲食店、さらには地元の農家さんのPVであったりテレビCMであったり、毎回題材が違うので、映像の世界は可能性がものすごく広がりがあって面白いなと思います。

先ほど強みのお話がありましたが、石村社長の得意分野は?

私でいうと、システムや機材の分野。映像技術や機材は常に進化しているので、追従していく力は必須です。それがクライアントから求められる以上のものであったとしても、プロとして準備しておいて、知識を提供することで新しいものが生まれると思います。「Knot」のときに3Dプリンターを使ったフィギュアの製作サービスを提供していましたが、90台の一眼レフで対象を囲んで、撮影してデータを取る仕組みは、ドイツの会社が掲載していたわずかな写真を解析し、アナログで全部結線したり、プログラム制御を組んだり、全部自分で作りました。こういった作業は時間を忘れて没頭してしまいます(笑)。

淘汰(とうた)される危機感。地方の映像業界全体を盛り上げ、牽引していきたい

MAD PRODUCTIONとして目指すところを教えてください。

新潟の映像業界を牽引していく企業になりたいと思っています。ダイジェストをはじめ、映像の先端は関東から広まっているので、新潟もしっかりその流れに乗らないといけません。まして動画を使ったプロモーションは世界的な流れです。 規模がうちよりも大きい会社はいくらでもありますが、クリエイトする力に企業規模は関係ないので、小さくてもやれることで業界自体を引っ張っていきたい。そうすることで映像業界を志す人が弊社に集い、一人一人がやりたいことに力を発揮していけたら最高です。それがお客さまにとってもいい結果を生み出し、業界に対しての刺激にもなり、全体でクオリティが上がることで映像の需要が上がる、そういった相乗効果を期待しています。だから自社が成長するだけでなく、業界全体を引っ張り上げていくという気持ちが大きいです。 そしてスタッフとも話していますが、いつか映画みたいなものを撮ってみたいですね。

自社だけではなく映像業界全体へのアプローチもお考えですか?

「新潟=地方」の弱みは圧倒的に情報が少ないことと、同業の人とつながる接点が少ないことにあります。 まだまだ構想を描いている段階ですが、そういった課題を解消するプラットフォームを作ることが刺激となり、映像業界全体としても向上していくのではないでしょうか。もし自社のやり方でハマらないと思っていても、映像業界の奥深さや広がりを伝えたい。特に志を持った若い人が諦めない道を作りたいです。 また、今後映像需要の上がり幅を見ると、自分たちのようなプロダクションだけでは賄いきれません。そこで手を打っておかないと、必然的に首都圏の制作会社に仕事が流れていき、地方の制作会社が淘汰されていってしまうでしょう。ローカルコンテンツ自体、近い将来減っていくことも予想されます。映像自体の需要は上がっていくけど、供給の仕方は変わる。しかも別の業界から映像業界に参入してくる企業も増えてくるはず。だからこそ専門技術を持ったわれわれが情報を共有し、高めあっていくことが重要になっていきます。

取材日:2019年11月18日 ライター:丸山智子

株式会社MAD PRODUCTION

  • 代表者名:代表取締役 石村 剛
  • 設立年月:2007年3月
  • 資本金:300万円
  • 事業内容:企業向けVP/CM制作、イベント映像制作、TV/WEB番組制作、ブライダルビデオ&フォト、WEBサイト制作
  • 所在地:〒950-0907 新潟県新潟市中央区幸町13-12 stageRビル2F
  • URL:https://web-mad.com/
  • お問い合わせ先:025-255-5095

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