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COLUMNコラム・ザ・ちゃんこ

自然は過酷だなあ

番長プロデューサーの世直しコラム Vol.122
番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光

自然は過酷だなあ、と。

NHKに「プラネットアース2」という番組があります。 この話は放送を見た次の日から、会う人会う人20人くらいに興奮して話し、フェイスブックにも書いたりして、僕の身近にいる人にはまたその話かよ!って感じかもしれませんがお許しください。

その「プラネットアース2」
どんな番組かっていうと、イギリスのBBC放送と日本のNHKが共同で、地球の自然と動物の生態を、ものすごい予算と、ものすごい機材と、ものすごい時間をかけて、 スタッフが根性で撮影した映像の記録ですね。
昔、野生の王国って番組がありましたが、あれの高精度版です。
10年ほど前に始まったプラネットアースという番組がすごかったのですが
その続編。名前の通り。

どんな感じかというと、例えば 川岸にヌボーっとカピバラが生活していると、それを狙って体長3メートルのワニが水の中に潜んで近づいて来ています。カピバラはヌボーっとしているから気づきません。 そこに森で最強と言われるジャガーもやって来ます。ああ、カピバラ絶体絶命。
ジャガーは体長2メートル。静かに近寄って来て何かを狙っているなあと思った瞬間、川の中に飛び込んで、ワニの頭にかぶりつき、水しぶきを上げて水中でワニと格闘し その頭を噛み砕き、自分よりずいぶん大きなそれを陸に引きずり上げてもっていってしまいます。

えー、ほんとかよ。ワニが食いたかったのか?ジャガー。しかも、相手のホーム、水中で!
リスキーすぎるだろ。という様なビックリ映像の数々。
テレビを見ていてびっくりすることがあまりなくなってしまった中で、こんな驚いて興奮するような番組は久々ですね。

夢中になって見ていて思うことは、自然は過酷やなあ、ということ。
当たり前なんだけど、日本に暮らしていてそういうことはなかなか実感できないでしょ?

だから、こういう映像を撮影してくる人たちが単純にすごいなあと思う。
撮影の大変さがわかる仕事をしていて、この映像を撮影するのがどれだけ気の遠くなる様な事だかもわかります。はっきり言うと絶対やりたくない。

10数年前に、オーストラリアに車のCM撮影のためのロケハンに行くときに、行きの飛行機でたまたま隣に座ってた人がNHKのスタッフで、面白そうな資料を読んでいたので話しかけたら、 「最近開発された接写レンズを使って、アリの生態を撮影しに行くんですよ」という。
「大変ですねえ」なんて話をした事を思い出しました。
その後、僕はロケハン終わって一度日本に帰り、本番の撮影のためにもう一度オーストラリアに行き、撮影が終わって帰る時のシドニーの空港で、また、たまたまそのNHKのスタッフに 会いました。出会った時から一月くらい経っていたのです。
その人は真っ黒で髪もヒゲも伸び放題で、一見原始人。服は着てますけどボロい。
ニコニコ笑いながらこっちに寄って来て「クルマの撮影はうまく行きましたか?」と。
最初、なんで原始人に日本語で業務の内容を話しかけられるのかチンプンカンプンだったのですが、「アリですよアリ、NHKの」って
「あー、思い出した。ビックリしましたよ。アリは撮れました?」みたいな会話になりました。 「今日東京から、追加の機材が届くのでそれを受け取りに来たんですよ。受け取ったらすぐまた森に帰ります。街は久しぶりで。」みたいな話をしている。撮れてないんだな。まだやるのか。
「思った様にアリが撮れるまで帰れませんから」とニカっと笑っていました。歯が白い。

この番組もそういうスタッフの根性の上に成り立っているのは前シリーズのメイキング映像を見るとわかります。コウモリのウンコの中にカメラマンがずっと潜んでコウモリの生態を撮ったりしていたからです。

それに加えて、最近は機材の性能が格段に上がっているので、以前だと撮影できなかった様な映像が撮影可能になっていることもあります。
まず4Kのカメラ機材で撮影されている。つまり今家庭で見られているハイビジョンの映像の4倍の大きさでの撮影。質感やディテールが凄いです。
また、その画質で撮影できる小型カメラや揺れなどを止めるスタビライザー。4Kカメラを搭載したドローン。ラジコンのヘリにカメラが付いている状態ですね。
そういった撮影技術の進歩もこの番組にバンバン使われていて、見たことない様な映像が惜しげも無く見れるんです。撮影隊もずいぶん楽になったことでしょう。遠隔操作ができれば、動物に匂いを気付かれない様に、ウンコに潜んで撮影しなきゃいけない事もなくなるでしょうし。 そんなこんなで、こういう番組にはいろんな事を教えられます。
まず、撮影するスタッフの大変さ。コマーシャルの撮影なんかでなんやかんや「難しいですね」とか真顔で言ってるやつがバカに見える。
条件が違うから仕方ないんですけど、自然の驚異の中でこんな映像を撮ってくる人たちがいるんだと思うと勇気が出ます。

また、機材的な進歩と発見。イヌワシの首にVR用の360度カメラをつけて飛ばして飛んで行く様、獲物を狙って急降下する様なども現実的に撮れるようになり、そんな映像を見れたら面白いだろうなあとか。

さらには、番組の内容。
ストーリーは人間が作っているのかも知れないけれど、うまく編集されていて自然は過酷である、という事実を知る。餌の取り合い。子孫の防衛。食物連鎖。

過酷な自然で動物や自然現象を撮影しているけど、その近くにも人も暮らしているはずなんです。
そういうところで生まれて生活している人たちもまた過酷やなあ。と。

動物も過酷。 この番組じゃないけど、「皇帝ペンギン」という映画を見たときはペンギンの世の中でも男は辛いんだなあーと泣きたくなったことがあります。
皇帝ペンギンの雄は、メスの生んだ卵を何ヶ月も足元で温め続けるんですけどたまにドン臭い奴が、ゴロッと卵を落として、パチっと割れたりして。
ヤバイと思ってうろたえて他の雄の卵をかっぱらおうとするんだけど、返り討ちにあって。
メスが帰って来て「あんた、卵、どこやったのよ」とヒステリーを起こして詰め寄られ為すすべもなく立ち尽くす。というシーンがあったからです。

人間は「死ぬかも知れない」という危機感が欠如してから脳みその重さが200グラム減った。となんかの本に書いてありました。
つまり、自然との向き合い方、対処の仕方が脳から省かれていっちゃった。
自然の猛威で自分も死ぬかも知れないという感覚はわすれちゃいかんなあ。

冬にエアコンつけて、暑いとか文句言ってもう大変。
いろいろ通り越して、動物としての人間の幸せはなんだろう?とか考えてしまう様な番組でもあります。もっとやってくれ!と思います。

Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)

プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが、矢面に立つのは当たり前と仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。


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