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防衛から学ぶこと? New Defence @Coalhouse Fort

Vol.71
London Art Trail 笠原みゆき

「昔の要塞を利用した1日限りの展示があるけど行ってみる?」そんな言葉に誘われて行くと、緑豊かな公園の中に突然現れたのは巨大な円形劇場?立派な門をくぐると戦車と大砲がお出迎え!今回は19世紀の要塞跡、Coalhouse Fortを使った展示 “New Defence"をお伝えします。東ロンドンのLimehouseから電車で東に40分、テムズ川河口の海を数マイルに臨むEast Tilburyにあります。Coalhouse Fortでは月に一回オープンデイとして様々なイヴェントを開催していて、今回の展示もその一環。現在残る建物は1860年に主にフランスの侵略に備えて建てられたものですが、それ以前の15世紀から諸外国の侵略に備えこの地には幾度も要塞が建てられてきました。

立派な門をくぐると……。

戦車と大砲がお出迎え!

“The Destruction of Former Generations, 2018" ©Michael Whelan


銀色に光るオブジェは器械部品か何か?よくみるとそれらは靴底、歯磨き粉のチューブにおもちゃのスコップ、排水管などで、周辺のテムズ川で見つけたプラスティックゴミをクローム加工したもの。 かつての軍事施設に流れ込んだのは現代の資本主義社会を象徴するプラスティックゴミだった!?ノスタルジックな世界からいきなり現実へ引き戻されます。作品はMichael Whelanの“The Destruction of Former Generations, 2018"。

薄暗く湿った狭い通路を案内人に導かれながら進みます。

“Crosswing, 2017" ©Samuel Zealey


暗闇に現れたのは巨大な床に衝突した紙飛行機。同じ鉄でできた飛行機でも軍用機と紙飛行機では意味が全く違ってきます。戦争のために軍用機を飛ばすのも、風まかせに紙飛行機を飛ばすのも、結局「誰か」の気まぐれな遊び(ゲーム)にすぎない?とでもいいたそう。作品はSamuel Zealeyの“Crosswing, 2017"。

“Untitled, 2018“ ©Tom Brannigam

思わず笑みがこぼれるユーモラスな擬人化されたオブジェ達の写真。 実は1950年代から60年代には戦争で家や家族を亡くした人々の“家"としてこの要塞は使われていました。そんな人々の暮らしを記録した要塞所蔵のアーカイブ写真からインスピレーションを受け、同じく要塞所蔵のオブジェを組み合わせて作った作品。要塞だって住めば都?作品はTom Brannigamの“Untitled, 2018"。

“Defensive Animal, 2017" ©Laurynas Karmalavicius

動物が人を襲うのは脅かされ、恐怖にさらされた時だとLaurynas Karmalaviciusは言います。そんな追い込まれた牛をイメージした作品は “Defensive Animal, 2017"。鉄の板を組み木のように構成した作品から戦闘態勢に入る牡牛のイメージが伝わってきます。


“Bed of Nails, 2017" ©Victoria Coster


立ち上がっているベッドの頭の部分に穴が空いているから、マッサージ椅子?でもその革張りの表面からは何千本もの針が生えていてまるでハリネズミみたい!やんちゃだった友人が、子供の時「楽しいところに行くよ。」と母親に連れて行かれた先には何と電気椅子が置いてあり、治療のためと座らせられそうになったのを必死に逃げたという逸話を思い出しました。作品はVictoria Costerの“Bed of Nails, 2017"。

“In Defence Of Industry, 2017" ©Felicity Hammond

祭壇のように設えられた中央には湖水地方の美しい風景が描かれ、その下のモート(濠)のように水が張られた水面に映り込んでいます。風景は嵐の前の強烈な朝焼けのように不気味に赤く、よくみると自然だけでなく遺跡や化学施設のようなものも描かれています。更に周りには非常用ブランケットに包まれた岩のようなオブジェが、銀色に鋭く光りながらごろりと横たわっています。 作品はFelicity Hammondの“In Defence Of Industry, 2017"。ピーターラビットの舞台となった湖水地方を含むカンブリア州は、スコットランドとの境界にある、イングランド最北端の州の一つ。ユネスコの世界遺産を持つその景色の美しさはお墨付き。一方で豊富な鉱山を持つことから産業革命の際にはその海岸沿いの町は鉄鋼業や造船業で栄え、戦中は軍需工場、戦後に入ると核防衛の拠点として英国初の核兵器用のプルトニウムを生産するウィンズケール原子力研究所※ が建てられました。1957年には同施設の原子炉で火災が発生、火は16時間燃え続け、多量の放射性物質を放出し、周辺環境を汚染したことでもよく知られています。(※現セラフィールド核燃料再処理工場。最近まで日本の顧客向けのMOX燃料を生産していたが、福島の事故を機に契約が打ち切りとなり、採算がとれる見込みがなくなったため2011年に完全閉鎖が決まった。)この周辺は核関連施設が密集していて放射能汚染が著しい地域ですが、現在では2120年に終結を目標に、核兵器製造に使っていた施設や原子力発電所の核燃料、汚染機材の除去、解体処理が着々と進められています。

Profile of 笠原みゆき(アーチスト)

笠原みゆき

©Jenny Matthews

2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。
Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。

ウェブサイト:www.miyukikasahara.com

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