スペース2010.12.22

クライアントの頭の中に描かれているものを いかに目に見える形で仕立てるか

東京
株式会社エトワール 代表取締役社長 辻克喜氏
 
デパートの化粧品フロアには、独特のワクワク感が漂います。女性の美しさへの願いを叶えるための、さまざまな商品。そして、商品そのものを際立たせる工夫が随所に凝らされ、思わず近寄りたくなるディスプレイがそこここにあります。 そんな世界、業界で、かなり名を知られているのが株式会社エトワール。「アクリル」という素材の特長を生かし、一味違うアプローチで人々の「買いたい気持ち」をあと押しするディスプレイを企画、提案、制作しています。クライアントは、化粧品メーカーを筆頭に、全国のデパート、商業施設、店舗、各種メーカーなどと幅広く、制作実例を見れば読者のみなさんも一度は目にしたことがあるとわかるはず。 今回は、代表取締役社長辻克喜さんにお話をうかがってきました。

imgae 1image 2

クライアントの頭の中に描かれているものを いかに目に見えるかたちに仕立てるか

アクリルを用いたディスプレイ制作の面白味を教えてください。

「クライアントらしさ」を軸にしながら、今の自分たちのスキルで、どんな新しいことにチャレンジできるか――仕事としての魅力は、まさにそこにあると思います。 当社は幸いにして、長くおつき合いさせていただいているクライアントが数多くあります。かなり強固な信頼関係のもとで、「このスペースを、美しく、ウチらしく」という依頼を多くいただきます。そうでない制作会社にとっては漠然として難しい案件となるでしょうが、当社はそんな中で、さまざまなアイデアを紡ぎ出し、ご提案し、クライアントに喜ばれるディスプレイをつくりあげるのを得意としています。

ディスプレイにとどまらず広告や販促物などに言えることだと思いますが、「クライアントらしさ」に苦労するクリエイターは多いと思います。

基本的に1ブランドに1人の担当がついて常にコミュニケーションをとっているので、「~らしさ」はリアルタイムに掴めると確信しています。 ただ、やはり難しさはあります。たとえば色の場合、DICナンバーなどではなく「都会的なベージュ」などといった、たいへんファジーな注文をされることもありますから(笑)。 また、ある化粧品メーカーが限定の新色を出すとなったときに、商品そのものの色を生かしたディスプレイの案を持っていったら、「この新色と同じである必要はない。新色からイメージする別の色を持ってきて!」と難解な課題を与えられたこともあります。 「クライアントの頭の中に描かれているものを、いかに目に見えるかたちにするか」は、難しいから面白い。それが当社独特のメンタリティと言えるでしょう。

デザイナー、職人、営業がともに働く「工房」がより良いものづくり

どのようなシステムで制作がすすめられているのですか?

当社はある時期、社内から「工場」という概念を消し去りました。その代わりに導入したのがイタリアのカロッツェリアを範とした、企画者、制作者が一体となって活動する「工房」の概念です。デザイナーがデザイン面、技術面で迷ったらすぐに職人と話す。予算面の不安があれば営業との相談もする。 デザイナーと職人、そして営業の3職種が同じ目線で考え、行動し、案件を納品にまで導きます。

最近、「工房」の機能をより高度にするために思い切った投資をなさったとか。

アクリルはカットすると必ずその断面にくもりが出てしまいます。くもりを除去するために研磨する機械は、平面に対応するものであればいくらでもあるのですが、曲面に対応できるものはこれまでこの業界にありませんでした。 当社は、NC工作機械(数値によってコントロールされる機械)の技術が投入された専用設備を、数千万円を投じて2010年2月に導入しました。依頼、断面をクリアに仕上げる加工は、当社の得意技のひとつになっています。 くもりのない美しい断面――それはディスプレイのほんの一部分かもしれませんが、当社のクライアントは、こうした付加価値を認めてくださる方々ばかりです。クライアントに恵まれていたのも、導入を決断できた理由のひとつですね。

image 3imgae 4

 

社員の働き方についてのお考えをお聞かせください。

先ほどイタリアのカロッツェリアの話がありましたが、組織だけでなく、働き方もイタリア人のようであってほしいですね。 私たちの目には社会問題が数々ある国と映りがちですが、その実イタリアでは生活に対する満足度が、日本のそれよりもぐっと高いといいます。その要因は、複数あるでしょうが、彼らは、日本人なら12ヵ月かけてやることを11ヵ月で済ませ、1ヵ月間きっぱり休んでしまう――こうしたメリハリのつけ方が、生活に対する満足度を高めていると思うのです。 このイタリアらしいシステムの企業は、まだ日本にほとんどないと思うのですが、ぜひ当社で実現したいと真剣に考えています。常日頃からみんなには、「年間計画を立てて、それを11ヵ月でやりとげる会社になろう」とハッパをかけています。実現すればきっと、社員の心持ちは大きく変り、モチベーションもさらに上がってくると思います。

店舗で購入する楽しさをつくり出すこと。そのひとつの手段がディスプレイ

この事業の将来性について、お聞かせください。

今、ネットショッピングをする人がすごく多い。 でも、たとえば化粧品、特にファンデーションですと、自分に合う色は、パソコンのディスプレイ上ではまず判断できません。本当に合う色は店舗で試しながら探すのがいちばんです。とはいえ、現代社会では、やはり便利さが勝ってしまう。あくまで私の感想ですが、この現象は、消費者の美的感覚の退化の現れとも思えます。残念です。 当社としては、店舗で買うことの付加価値――自分に似合う色を見つける喜び、購買行動から生まれる高揚感――そうしたものを、つくり出す手助けをすることへの使命感を再確認する事象です。

対面での購買行動をうながすディスプレイに、使命感を感じておられる。

そうですね。人の購買意欲を刺激する企画を立案し、提案しつづける企業でありたいと思います。 かつて日本の「お店」の店先では、店員とお客さんとのやりとりが活発でした。「今日は何がいいかしら?」とお客さんが大将に尋ねれば、「今日は良い鯛が入ったよ!安くしとくよ!」返事が返ってくるような――。 時代が変わりましたが、対面でものを買う喜びがまったくなくなったとも、なくなっていくとも思いません。ディスプレイを通じて「買う楽しさ」を膨らませること。それが、私たちの活動の原点です。

(取材日:2010年12月)

株式会社エトワール

    • 代表取締役社長:辻克喜
    • 事業内容:
      • アクリル加工・装飾
      • 各種商業施設の内装・外装管理
      • 販売促進ディスプレイデザイン
<化粧品メーカーを中心に、商品のディスプレイデザイン、加工及び内装デザイン、管理、販促提案など>
  • 設立:1973年10月
  • 資本金:5,000万円
  • 所在地:〒171-0043 東京都豊島区要町1-17-13
  • TEL:03-3974-9301
  • FAX:03-3974-1499
  • URL:http://www.etoile-td.jp/
  • 問い合わせメール:上記HP「問い合わせ」ボタンより
続きを読む
TOP