グラフィック2020.06.17

クライアントが求める以上のものづくりと、人とのつながりを大切に

大阪
有限会社コル・アート・オフィス 代表取締役、取締役
Hirohide Nishiguchi
Toshihiro Emi
西口 浩英 / 江見 敏宏
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建売住宅の販売促進用として描いたパース

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広告・パンフレット制作用に描いたパース

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平面プランしかないものから想像で描いた大規模マンション

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昆虫の写真を元にイラスト化した画像

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花や観葉植物の切り抜きデータ(家や室内の写真に簡単に合成する事が可能)

戸建て住宅やマンションなどの立体予想図を描く建築パース制作と、デジタル画像素材集の企画制作・販売を展開する、有限会社コル・アート・オフィス。一見違ったジャンルに見える2つの事業をうまくリンクさせながら、大手企業を中心にさまざまな案件で実績を築いています。代表の西口浩英(にしぐち ひろひで)さんはパースデザイナー、取締役の江見敏宏(えみ としひろ)さんはパーツ撮影と精緻な切り抜き加工を得意とする写真家として30年近いキャリアの持ち主。互いに「尊敬している」と公言するお二人に、これまでの歩みや仕事にかける思い、クリエイターへのアドバイスなどを伺いました。

会社を大きくするよりも、好きなパースと写真を続けたい

建築パースの世界に入られた当時のことをお聞かせください。

西口さん:

子供の頃から絵を描くのが好きで、仕事にしたいと思っていたところ、インテリアデザインの仕事をしている姉の友人から建築パースデザイナーという職業があると聞いて、興味を持ったのが始まりです。インテリア系の専門学校に進学し、卒業後は建築パースの制作事務所に就職しました。

当時はまだ3DCGパースはなく、すべて手描きでした。新人はひたすら下描き作業の毎日で、その後着色や他の人が描いたパースの修正に携われたものの、すべてを描き上げることはできず。早くパースを一から描きたい気持ちはありましたが、仕事として絵に関われることが楽しくて。

3年後には専門学校時代の友人と一緒に独立するつもりだったので、それまでに技術を吸収しようと、先輩や上司の作業を後ろから見て真似しながら自分でも描いていました。

3年後、実際にご友人と一緒に独立されたのですか?

西口さん:

はい。私のいた会社はエアブラシで写真のようなスーパーリアルな描き方をするのが得意で、彼のいた会社ではもう少し淡い手描きのような描き方でした。異なる手法を持ち寄れば、新しい描き方が展開できると思い、今の前身にあたる会社を一緒に始めたのです。

最初は電話帳に載っている設計事務所やゼネコン、広告代理店などに、片っ端から毎日何十件と営業電話をかけていました。建築家や設計事務所の先生たちはどんなパースか見てみたいと思うようで、結構会ってくれる率は高かったもののそこから仕事につながったのは1割ぐらいですかね。それでも作品を気に入って発注していただける先があるのはうれしかったですね。

当時はボードに描いた原画を額に入れて納品するのが主流で、今のようなCGデータ納品と比べると手間がかかるのですが、仕事としてフィニッシュワークまでパース制作に携われる喜びは格別でした。

江見さん:

私はもともとカメラが好きで、年の近い西口たちと学生時代からよく一緒に遊んでいた縁で、彼の会社が立ち上がって数年後に合流しました。写真がデジタルに移行しつつあり、建材のテクスチャーや樹木などを撮影してはコツコツと加工し、その画像や様々な写真を撮影し、図鑑や書籍、雑誌で使ってもらおうと出版社へ売り込んでいました。

その後、今の会社を立ち上げたいきさつをお聞かせください。

西口さん:

友人が代表を務めていた前の会社では、12年働くうちに事業内容が多岐にわたり、社員も40人に増えていました。でも私自身は経営に携わるよりも好きな絵を、パースを描いていきたかった。方向性が違ってきていたんですね。

江見さん:

私も撮影出張に行かず経営会議に出るように言われる状況になり、二人とも好きな絵と写真をやりたいという確固とした思いがあって意気投合したことから、今の会社を作ることにしたのです。

新しいこと、無理難題こそなんとかしようとブレーンと協働

現在の事業内容についてお教えください。

西口さん:

広告やパンフレットで使用する戸建て住宅パースやマンションパース、設計事務所やゼネコンのプレゼン・コンペ用の建築パースを制作しています。3DCGのみや手描きのみのパースだけでなく、CGに手描きのエッセンスを取り入れたパースを描いたり、夕景や夜景、桜の花びらを飛ばした春のシーンや雪を降らせたりする冬のシーンなど、季節感を表現するドラマチックな演出をすることも。モデリング、レンダリング、フィニッシングの各段階でブレーンと連携しながらパースを作っています。

江見さん:

建築パースなどに使用できる画像素材データ集を『BEST素材シリーズ』として、これまでパッケージ版DVDで6タイトルリリース。建築関連ソフトウェアを扱うサイトの建プロショップでも22タイトルダウンロード販売しています。建材のテクスチャー、樹木や花、昆虫など、すべて私が実際に撮影した写真をもとに作った高解像度データで、精密に切り抜き加工済みなので、使いやすいです。

なかでも、壁や床などのテクスチャーが人気ですね。シームレス加工を施し、貼り合わせてもパターンが目立たないので、パースはもちろんグラフィックやデジタルアートなど幅広く使えます。

また、素材集はCADメーカー(※)へ拡販したり、出版社にも営業をかけていて、これまでに図鑑や素材集などの書籍を6冊制作しています。4月(2020年)には写真集『花美』(技術評論社)を出したところです。黒背景に映える花の美しさを楽しんでいただきたいですね。 今後はデジタルである見せ方や展開を生かし、より多くの人に見てもらい活用していただきたいと考えています。

※コンピュータを用いて設計をすることができる設計支援ツール

白い花が咲いている木

これまでで、思い出深い仕事はありますか?

西口さん:

大手企業の社内用冊子の表紙を作ったことですね。イメージがつかめないから会って話を聞いてほしいと代理店から連絡があり、話を聞くとシミュレーションゲーム『シムシティ』に出てくるようなシーンと人物を合成させたものが作りたいと。

全く未知の領域でしたが、「せっかく声をかけていただいたからには、クライアントが求めるものを絶対形にしよう!」という気持ちで、ゲームや映像関係に詳しいブレーンとも相談しながら作り上げ、「まさにイメージ通りです」と言われたときはうれしかったですね。

大手企業から直接指名される機会も多いそうですね。なぜだと思われますか?

西口さん:

これまでの実績や動き方、あとはありがたいことに人柄を見ていただいているのかなと思います。新しいことにチャレンジしたい気持ちは今も常にあって、クライアントからどんな無理難題を言われても断りません。「こんなの、できないかな?」と言われるほど燃えますね。

大手に限らずどんなクライアントでも、求められている以上の120%とか130%のものを出せるように、自分が納得できる最高のものを妥協せずに作り上げていきたい。それによってクライアントにはお金以上のメリットを感じていただきたいと思っているんです。

そして「人」の部分では、初めてチャレンジをするときこそ横のつながりが大事ですね。クリエイターは独立して個々で進めがちですが、違う分野に詳しいブレーンとつながることで、自分たちだけではできなかった新たな実績を積んでいけますから。

江見さん:

品質と仕事の進め方に尽きます。品質に関しては長年好きでパースを描いてきた西口の実績を見れば一目瞭然。私も彼も頑固で、「こんなんでいいわ」という妥協は絶対許さず、自分が納得できる最高レベルのものを作り上げていきたいんです。

そして私自身も、人と人とのつながりを大切にしていて、いろんなクリエイターの人と話すのも刺激を受けます。直近で案件がなくても、クライアントに「コルさんと一緒に仕事がしたい」と言っていただけるのは何よりうれしいですね。

「相手のニーズを感じ取る」「自己アピールする」ためのコミュニケーション力が大切

「一緒に仕事がしたい」と指名いただくために、クリエイターにはどんな力が必要だと思いますか?

西口さん:

クリエイターは好きなことをやって終わりではなく、自分をどう知ってもらうか、アピールするか、そのためのコミュニケーション力がとても大事だと思います。若い人ほど、自分のいいところや悪いところをどんどんアピールすると良いんじゃないでしょうか。

江見さん:

クリエイターだからこそ、自分の作品のアピールが重要なのと、相手のニーズを感じ取ることが大切です。営業が間に入るよりも、作った自分自身で説明する方が良いと思います。

コミュニケーションに苦手意識を持っている人は、自分の仕事を意識して好きになるところから始めて、いいものを作るために相手のニーズをくみ取ることに慣れると良いですよね。難しく考えず、相手に思っていることや悩んでいることを何でもいいからしゃべってもらうことで、相手と打ち解けて、ニーズをうまく引き出せると思います。

私なんか、ある編集長のところへ昼から営業に行ったら話が弾んで、終わったのが夜になっていたこともありましたからね。

お互いの事業内容は違いますが、お話を伺うほどお二人はとても相性が良いなと感じます。

西口さん:

江見とは30年近い付き合いになりますが、彼の仕事ぶりを見るにつけ、本当に尊敬しています。やっていることは違っても、求められている以上のものを妥協せずに追求するという1つの目標に向かう思いは一緒ですからね。

江見さん:

西口こそ長年好きなことを突き詰める職人気質で素晴らしい。互いがもし同じ仕事をしていたら、ライバルとしてクライアントの取り合いになっていたかもしれません。

私たちはやっていることもクライアントも違うので、彼は彼、自分は自分ではありますが、お互いの状況を理解し合っていい形で共存していきたいです。僕の撮影したデータを使ってパースやプレゼン資料を作るなど、仕事ではリンクすることが多々あります。お互いを知らなければ成り立ちませんよね。

これから目指していることがあればお聞かせください。

西口さん:

これまでは仕事として描いた「商品」を作ってきましたが。自分が本当にやりたい手法で描いた「作品」をもっと作って世の中にデジタル配信したいです。たとえば建築パースでしか使ったことのないデータを活用して、デザインアートを作るとか。もちろん江見をはじめいろいろなブレーンに協力してもらって実現させたいですね。

代表の西口さん(左)と取締役の江見さん(右)

取材日:2020年5月19日 ライター:小田原 衣利

※オンラインにて取材

有限会社コル・アート・オフィス

  • 代表者名:西口 浩英
  • 設立年月:2002年7月
  • 資本金:300万円
  • 事業内容:建築パース制作・デザイン、CD-ROM企画制作・販売(BEST素材シリーズ発売)
  • 電話番号:06-6484-5425
  • 所在地:〒542-0081大阪市中央区南船場2-2-28 順慶ビル 510号
  • URL:http://www.cor-art.com/
  • お問い合わせ先:上記HPの「お問い合わせ」より

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