WEB・モバイル2019.09.04

「ひとのために、愛する東北のために仕事をしたい」 共に進むひとたちと手を携えて

仙台
株式会社 温故見新 代表
Kyosuke Yamauchi
山内 恭輔

株式会社 温故見新は仙台市にある動画制作・商業写真・Webコンテンツ制作会社です。代表の山内氏は、東京でカメラマンとして活躍しながら劇団を主宰、演劇プロデューサーも務めたというキャリアの持ち主。温故見新と同時に、宮城県南三陸町で実家でもある創業60年を超える水産業の株式会社ヤマウチ(山内鮮魚店)にて、EC(eコマース)を中心に専務取締役として携わりつつ、その経験をもとにしたネットショップ勉強会「みやぎEC」を設立し運営されています。全国での講演活動や、ECサイト制作指導など、幅広く精力的に活躍される山内氏にお話を伺いました。

好きなことを仕事に選んだスタート

山内さんのキャリアについてお伺いできますか?

宮城県の南三陸町で生まれ育ち、実家は鮮魚や水産加工品の製造販売などを行う会社です。長男だから将来に役立てようという思いもあり、北海道の大学で経営学を専攻しました。カメラはそのころから好きで趣味でした。いずれ実家を継ぐための修行というような就職が東京で内定していたときの話です。たまたま渋谷で開催されていた写真展を観て、「自分も撮れるのでは?」と思ったのがきっかけで、カメラマンのアシスタントへ応募してしまいました。採用率4%の狭き門でしたが合格したので、内定は辞退してカメラマンを目指すことになりました。1年はスタジオワークを中心に学び、その後25歳で独立し、人物、ファッション、料理などカテゴリーを限定せずあらゆる媒体で撮影しました。

なかでも役者さんの撮影が好きで、作品撮りとして、下北沢などで舞台終わりの役者たちをよく撮影しました。そのうちに、カメラだけでは物足りなくなってきて、若手俳優が活躍できる場を提供したいという思いに駆られ、プロデュース公演の主宰を決めました。カメラマンとして活動しながら、資金繰りをはじめ、脚本家とのやり取り、役者のキャスティング、音源制作、音響、照明、PRツール制作など、公演に関わる一切を主導しました。20代後半のころで、充実しているんですが、想像を絶する忙しさに身体がついてこないこともあった時期でしたね。片や、実家からはそろそろ家業を継いでほしいと言われ始めてもいました。

実家に帰ろうと決意した理由は?

ある日、実家から自社製品である焼鮭のパッケージが送られてきました。温めたら食べられるというもので、長らく実家からは離れていたため、商品ラインナップもほぼ知らない状態でしたが、開封して口にしたところ「ものすごく美味い…!」と、新鮮な驚きを感じました。そして祖父が残した「ひとのために生きなさい」という言葉が浮かんできました。カメラマンは自分のための生き方で、現在、親父は従業員全員の人生を背負い、ひとのために生きている。それが結晶したような商品が自分を驚かせていたわけです。実家に戻る決心をした理由はこれだけではありませんでしたが、いまでも覚えているエピソードです。

これからはEC。結果を出せるECをつくる。

まずは何から始められたのでしょうか?

実家に戻って、B to Bの営業でデパートなどとの取引を担当しながら、これからはネットショッピングだと、EC事業部を立ち上げました。何かを見つけるとハマって徹底して行ってみる性分で、朝方まで事務所の明りがついているのを見て、周囲の従業員からは、「長男は戻ってきてパソコンに向かってばかりで何をやってるんだろう?」と思われていたかもしれません。当時はECで絶対に売れるようにしてやると必死で勉強しながら、サイトを製作していました。

それまでWeb制作のご経験はあったのですか?

まったくの素人でした。なにせECを始めて3年は全く売れませんでした。それが悔しくて、Web言語からSEO対策、キャッチコピーの書き方やバナーの作り方など、一から勉強を始め、教えてもらえるような環境もなかったので、売れているサイトを徹底的に研究して、自社サイトを改善するという繰り返しを行いました。1日で寝られる時間は2時間くらいあるかなというくらい没頭しました。
注文が多くなってきたなという手応えを感じ始めたら、どんどん売上が伸びていき、12月は一番商品が売れる時期ですが、処理能力が追い付かず受付中止という状況まで売上が伸びました。

2009年には日本オンラインショッピング大賞を受賞されました。

ECをはじめて4年後、ショッピングサイト1042社の中から選出され、食べたくなる画像が素晴らしいと高い評価をいただきました。当初は美しく商品を撮っていたのを、売れているサイトを研究していくうちに、お客さまが見て実際に食べたくなるような画像を撮影することがECでは必要だと解りました。カメラマンですからそこは自分のフィールドとして、よりシズル感を出せるよう撮り方を追求しました。そこから大手ECモールへと出店し、いよいよ処理能力を高める対策を行おうという矢先に東日本大震災が来ました。

ひとのために生きるとは逃げないということ

ゼロから始めるしかない状況だったと思うのですが…

全て波にもっていかれてしまいましたね。高台に避難していたとき、たまたまポケットにあったカメラで連写しましたが、一瞬で実家、工場、作り上げたデータなど、全て真っ黒な津波に飲み込まれていくのを見ながら、「負けねえ!やってやる!」と強く思ったことは覚えています。親父も同じことを思っていたと後から聞きました。再建にむけた事務的な処理や、従業員の方たちへの対応などを行いながら、高台に残った小さな事務所で、また事業をスタートする日を迎えられるよう準備を進めました。

現在は山内さんが不在でもEC部門は動く状況とのことですが…

ECにおいて必要な画像や動画の撮り方、お客様が見やすいサイト制作に関するノウハウをスタッフに伝えました。自社のEC部門に関しては3年かけて、スタッフだけで行えるようにしていきました。南三陸町は都会から離れた田舎ですが、私たちが行う仕事は非常にクリエイティブです。仕事を通じてもっと工夫できないかを考え、実際に行ってみることができるという環境は自己実現の場ですから、社員の意識がもっと変わっていくはずと思いました。

そこから改革に向かわれたのですか?

やらなくていい仕事は排除して、もっとお客様のことを考える時間や、雑談から生まれるアイディアの数を増やすために時間を使ってほしいので、システム化して効率を上げていけるような仕組みづくりをしたいと思いました。そこでサイボウズ社のクラウドサービス「kintone」を導入して、情報を共有化し、製造や出荷、販売目標の設定まで従業員が行える環境を整えました。私がいなくても意思決定が進み、社員が自立して動くという風土を作るというのも狙いのひとつです。意識改革の一環として「明日やることは、やらなくてよいこと」も徹底していきました。

※株式会社ヤマウチの業務改善取組事例はkintone AWARD 2016にて最優秀賞を受賞

実際にはどのような効果が現れたのでしょうか。

業務効率が上がったことで、この業種では珍しいのですが、残業時間がゼロになり完全週休2日制を実現できました。また社員たちがFacebookなどからお客様の声を聴いて、商品に反映させたり、VIPのお客様に向けたイベントの企画・運営を行うなど、よりクリエイティブな仕事の時間を増やすことに繋がりました。鮮魚店、水産業とはいえ、これからはアイディアがもっと大切になってくる時代です。商品開発、サイト内でもっと行えることを考え、自社製品のカタログ製作やパッケージデザインも自社で行うなど、どんどん仕事の幅が広がっています。

東北のために共に進んでいきたい

ECの勉強会を立ち上げたきっかけについてお聞かせください

自分が孤軍奮闘で身に着けたECスキルで成果が生まれたとき、日本オンラインショッピング大賞を受賞したことがきっかけで、高知県でのEC勉強会に講師として招かれました。200人の方たちを前にした講演を初めて行ったところ、みなさん非常に熱心で質問攻めにあいました。こうして全国のEC事業主の方との交流で、成果を出したいと苦労し、努力されているのは自分だけではないことを知りました。そして、地元である東北で勉強会を開催したいという想いを抱くようになって、ネットショップ勉強会「みやぎEC」を立ち上げ、2013年から本格的に活動を始めました。

 

周囲の反応はいかがでしたか?

最初は3社からスタートしましたが徐々にメンバーも増え、東北6県から集まる会となりました。現在は山形と福島はそれぞれ独自に勉強会を開催するまでになっています。「みやぎEC」では、講演に足を運んで講師の選定を行い、ギャランティ交渉も私が責任を持って行っています。メンバーにはより質の高い講師の方に触れてほしいので真剣です。みやぎECのサイト制作もわたしが現在も行っています。ここでしっかりと学んだ事業主の方たちは確実に結果を出していますので、今後も力は抜けませんね。

温故見新を立ち上げたきっかけとは?

自分のノウハウを基に、もっと具体的に顧客へ入り込んで携わったら、自社の山内鮮魚店のように、ECで成果があがり、それを自社で運営管理できるスタッフが育つ会社が増えると思って立ち上げました。それ故「制作しながら指導してく新しいコンテンツ制作の形」を提案しています。ECを行う農家などでは商品や価格、在庫量の変更など自らサイト更新作業を行えれば効率がいい。SNS発信や生産物を使ったお客様向けのレシピ製作などの写真・動画撮影も、自分たちで完結させられればより頻度を上げて更新できます。とはいえ、商品画像やデザインはある一定以上の質を保たないと売上に響きます。すべてを自社で完結できるようになって温故見新の手が不要になるまでが私の仕事です。

これまでの経験が全て繋がっているという印象ですね

カメラマン、演劇プロデュース、EC立ち上げとスタッフ育成、勉強会組織の立ち上げと運営、そしてかつての自分のように、もがいている中小企業事業主の仲間たちの一助となれればと立ち上げた温故見新。 ただ、これまで出会ったこと・ものに夢中になって好きなだけ勉強して、必死で向き合っていたらスキルになっていました。自分のための仕事がいつの間にか「人のために仕事をする」ことに繋がってきました。それが今とても嬉しく感じています。 東北を愛していて、東北の人のために温故見新を立ち上げましたので、他の地域の仕事は考えていません。東北のITリテラシー向上でもっと魅力のあるものを発信していけると確信しています。

最後に若い方たちへメッセージをいただけますか?

経験を積むことが自信につながっていくと思います。若い時には自分も自信がなかった。これは当たり前のことです。でも、目の前に来たことから逃げず、悩まずにやってみること。合うと思ったことはハマって夢中になること。すると前に向かうための武器が徐々に備わっていることに後から気づきます。それであなたは大丈夫です。

取材日:2019年7月8日 ライター:桐生 由規

株式会社 温故見新

  • 代表者名:山内 恭輔
  • 設立年月:2016年7月
  • 資本金:300万円
  • 事業内容:Web制作/動画・スチール撮影/各制作指導
  • 所在地:〒980-0811 宮城県仙台市青葉区一番町2-11-12 プレジデント一番町1102
  • URL:https://www.onkokenshin.co.jp/
  • お問い合わせ:press@onkokenshin.co.jp

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