選んだ道は、就職ではなく“起業”。大切なものを見失わずに仕事をする楽しさを、株式会社Coneで証明したい。

大阪
株式会社Cone(コーン) 代表取締役
Riki Sato
佐藤 立樹

「正しい努力が報われることを証明する」をテーマに、アニメーション動画の制作やWebサイトデザインを手掛ける株式会社Cone。創業者の佐藤立樹(さとう りき)さんは、就職の道を選ばず、大学卒業とともに会社を設立しました。

佐藤さんが起業を選んだ理由は「大切な友人と働きたい」という、少年のようなシンプルな想いから。自分にとって大切なものを見失わずに仕事をする姿は、これからの働き方を提示するひとつのモデルにもなるのではないでしょうか。

起業を志したきっかけと、何度も困難に直面しながらも成長してきた会社経営のエピソードを訊きました。

 

20以上のアルバイトを経験し、将来の働き方を考えた大学時代

かなり若くして起業の道を選ばれています。起業を意識したきっかけは何ですか?

高校まではサッカー部の活動に夢中で、全国を目指してチームメイトと練習、練習の日々。でも、大学に入ったらそれがなくなってしまって…放課後にすることがなくなってしまいました。

そこで始めたのが、様々な業種のアルバイトです。全部で20種類近くは経験したんじゃないかな。でも、ふと気がつくと、どんなアルバイトでも、就業終わりの時刻をひたすらに待っている自分がいました。

時計を何度も見て「さっきからまだ15分しかたっていないのか…」みたいな。時間を忘れて没頭できるほどには打ち込めなかったし、他人より仕事のペースが遅くて、注意されてばかり。もし将来会社勤めをしたら、これがあと40年以上続くのだと思うと怖くなりました。「自分はこの先、どうやって働いていけばいいんだろう?」と考えたことが、最初のきっかけだったように思います。

さらに具体的にビジョンが固まってきたのは、いつ頃だったのでしょう?

具体的に起業を考え始めたのは大学3回生の時です。企業の短期インターンを経験したのですが、会社で働くことはバイトとはまた違っていて、とても面白くて。

自分は“仕事”そのものが嫌いなわけじゃない。仕事ってちゃんと向き合ったら面白いものなんだ、と気づきました。よく考えてみると、あれだけ嫌だったアルバイトでも、楽しいな、と思える瞬間も確かにあったんです。それは必ず、職場に仲の良い友人がいたときでした。そう考えたとき、自分が生涯続けたい“仕事”には、「好きな人」と「好きなこと」、この2つが絶対に欠かせない要素なんだと気づいたんです。

サッカー部で全国を目指していたころのように、チームで力を合わせ、皆で同じ目標を達成したいと。「好きな人と、好きなことで、上を目指す」それを叶えながら働くためには、自分で起業するしかないな、と思いました。将来のビジョンがおぼろげに見えてきた瞬間です。

佐藤さんにとって、ご友人の存在はやはり大きかったのでしょうか?

思い返してみると僕は、今までやってきたことでは全部、2番手以降にしかなれなかったんです。走るのは早くても、1番にはなれなかった。サッカーも毎日練習していたけど、上には上がいた。勉強も得意だと思っていたけど、受験では志望の国立大学には入れなかった。

歌、ダンス、絵…いろいろ器用にできるけど、どれも中途半端で、自信を持って得意だ、と言えることがなかったんです。

でもひとつだけ、恵まれているものがあった。それが、友人の存在。Coneをいっしょに立ち上げた佐々野は、高校の時に共通の友人を通じて知り合いました。高校も大学も違う学校だったのに、毎日のように一緒にいて。

どんなに一緒にいても苦にならなくて、同じ感覚を共有できているとお互いが感じていました。「これが僕の一番の財産だ」と、初めて自信を持って言えたんです。

 

「誰がお前の話なんか聞きたいんだ」と怒られた創業当初から、ヒット商品を生みだすまで

大学卒業とほぼ同時に、会社を設立されていますね。就職ではなく起業を選ばれたことに、迷いはなかったのでしょうか?

前の話のとおり、「好きな人と、好きなことで、上を目指す」。その働き方を叶えるためには、就職ではなく起業しかない、と決意していたので、迷いはまったくありませんでした。Coneは、大学卒業後すぐに佐々野と立ち上げました。

株式会社なんてどうやって作ればいいかわからなかったから、インターネットでやり方を調べて、2人で法務局に行って。バタバタしながらも、1ヶ月ぐらいで無事、登記を済ませました。「よし、会社できた! …で、何をしよ?」って。(笑)それが、僕たちのスタートでした。

会社を立ち上げたはいいものの、何をすればいいかまったく分からなかったので、最初はSNSの運用代行をサービスに掲げてみました。「SNSコンサルティング」と名乗っていたら、アドバイスをしてくれていた経営者の方に、むちゃくちゃに怒られて。「いったい誰が、経験も実績もないお前の話なんか聞きたいんだ」と。

それはそうですよね。言われてみたら自分でも、自分なんかの話を聞きたいとは思えなかった。「自分ができることの中から、誰かが喜んでくれることをやる。それが商売だ」と、その方に教えられました。そこで、自分たちにできることを考え直してスタートさせたのが、映像とデザインの制作サービスだったんです。

映像やデザインの制作は、競合先が多いサービスでもあります。どのように他社と差別化していたのでしょう?

Coneでは、僕らが作ったものだ、ということがひと目見て分かるようなサービスを作りたいと考えていました。そこで生まれたのが、「1分間の名刺」動画です。

これはもともと、生命保険などの営業をしている方の声を聞いて思いつきました。営業をするためにまず人柄を知ってもらいたくても、長い文章はなかなか読んでもらえない。そこで、文章ではなく動画で、その人を紹介するサービスを考えたんです。しかも、「1分間、正方形のフォーマット、パラパラ漫画のように絵が動くアニメーション」という特徴つきで。これがヒットしました。

それはすごいですね!そこから会社の経営は順調に進んでいったのでしょうか?

いえ実は、新しい発想で作るサービスに自信を得て、その後もいくつかの事業を立ち上げましたが、なかなか軌道に乗らなくて。ひたすら新しいサービスを作ろう、作ろう、と走り続けていたら、ついに去年の10月、会社の資金が底をつき社員にも苦しい思いをさせてしまいました。そこでようやく、新しいサービスへの執着を捨て、映像とWeb制作の事業に立ち返ろう、と思い直しまして。

会社を守るために、本気でお金を生む事業をやらなくてはいけない、と思ったんです。今は、広告代理店や制作会社とパートナー契約を結び、営業はお任せするスタイルで事業を行っています。新しいWebサービスで「ユニクリエイター」を立ち上げたところです。

クライアントにありがとうと言われたり、リピーターになってもらえたりすることも増えました。自分たちのサービスが相手のもとで価値を生み、社会の一部になっているんだ、と思うと嬉しいですね。

「誰がお前に相談するんだ」と言われていたSNSコンサルティングをやっていたころに比べると、クライアントが本当に欲しいと思ってもらえるものを作っている、という実感があります。今は耐える時期、土台を作る時期だと思っていますが、いつかまた独自のサービスを創りたいという想いは変わりません。近いうちに、そのサービスに向けてまた動き出したいと思っています。

 

売上がゼロでも、会社を畳もうとは一度も考えなかった。

いっしょに働いているスタッフの方々について、考えていることを教えてください。

これまでスタッフが入ったり辞めたりはありましたが、今働いているスタッフは、本当に最高のメンバーです。スキルはもちろん必要ですが、それよりも、価値観を共有できるのが大切。同じ目標に向かって頑張れていると感じていますね。

いっしょに働く仲間を語るうえで、忘れられないエピソードがあります。会社を立ち上げてからの1年間は経営が本当に苦しくて、まったく仕事がなかったこともありました。生活費すら稼げないから、佐々野は会社と掛け持ちで荷卸しなどのアルバイトをしていたんです。「きっつい、しんどい…」と毎日のように電話で話しながらも「もうやめよう」という言葉はお互いに1回も口にしなかった。

就職して安定した収入を得るより、どんなに苦しくても、自分たちの会社を続けたかったんです。他の人からすると、あってもなくても変わらないような会社かもしれないけれど、僕らにとっては絶対に必要で、守らなくちゃいけないものだった。

その時、売上が立たなくては、自分たちの会社を続けることすらできない。自分が頑張らなくちゃいけないな、と強い責任を感じました。スタッフが入ってきてくれることは、僕にとっては結婚のようなイメージなんですよね。しっかりと責任を持って、スタッフと会社を守らなきゃいけないと思っています。

これから先、会社として目指していきたいことはありますか?

「正しい努力を行い、楽しみ、成長する」ですかね。最近、徐々に売り上げが増え、会社が安定してきました。創業から変わらなかったオフィスも近々、新しい場所へ移る予定です。紆余曲折しながらも僕たちがここまでやってこれたのは、“正しい努力”を続けたからかなと思っています。

すぐに儲かるようなサービスではなく、社会に必要とされ、喜んでもらえるサービスを提供する。そして自分たちも楽しみながら仕事をする。そんな想いが、やっと報われてきましたね。

「正しい努力は報われる」ことを、僕ら自身の会社の成長で証明したい。スタッフみんなで、少しずつでもいいから会社を成長させていきたい。それが今の目標です。あと僕は、「社長」という肩書が嫌いなんです。サッカーで例えたら「監督」みたいなもので、何となく距離を感じるというか…。

僕は「監督」じゃなくて、「キャプテン」でいたい。みんなと同じチームでいっしょにプレーをしたい。会社が大きく成長して、年をとったとしても、その想いはずっと変わらないんじゃないかな。

取材日:2021年4月19日 ライター:土谷 真咲

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