プロダクト2020.12.09

もけ部って何?クリエイティブで製品をPR!愛知県豊橋・エコーテックの地元戦略とは?

豊橋
エコーテック株式会社 代表取締役/営業部長
Yoshihiro Iwasaki/Kouki Miura
岩崎 義弘 氏/三浦 宏樹

超音波霧化器や超音波カッターなど、超音波の技術を活用した商品を展開する愛知県豊橋市の企業・エコーテック株式会社。こちらは自社製品のひとつ「超音波カッター」をPRするにあたり、工専高校の模型部員がゆるい日常を過ごす「もけ部」というコンテンツを展開していて、地元を中心に人気を呼んでいます。

今回は、エコーテックという会社はもとより、地元豊橋とのつながり、そして企業コンテンツ「もけ部」が生まれた経緯や、そのメリット/デメリットなどを、代表の岩崎義弘(いわさき よしひろ)さんと、営業部長の三浦宏樹(みうら こうき)さんに伺いました。

プラスチックがバターのように切れる「超音波カッター」

まずは、エコーテック株式会社の設立の経緯をお聞かせいただけますか?

岩崎さん:

親会社である本多電子株式会社の100%子会社として、1999年10月1日に設立しました。本多電子では超音波の技術を使ったさまざまな商品を販売していますけれども、ほとんどがBtoB(企業向け)の商品です。

エコーテックは、より一般家庭に近いものを企画立案・販売することを一つの目的としています。スタートは、もともと親会社で取り扱っていた「超音波美顔器」を弊社で取り扱うという形でスタートしました。

美顔器から始まったのですね。では、現在の主力商品のひとつ「超音波カッター」は、いつから取り扱いを始めたのでしょうか?

岩崎さん:

ホビー用超音波カッターを出したのは2001年8月です。もともと親会社で、すでに超音波カッターを販売していたのですが、どちらかというと産業用ルートでしか販売されていなかったんです。そこで、少しでも一般家庭に近付けようと模型・プラモデルなどのルートで販売を始めました

親会社で取り扱っていたモデルは12万円くらいで、弊社で最初に出したUSW-333という製品は29800円でしたね。

なるほど、ぐっとお求めやすくなりましたね。では改めて、超音波カッターとはどのような製品なのか教えていただけますか?

岩崎さん:

超音波カッターは刃へ1秒間に4万回の微振動を与えて、発生する摩擦熱で切りづらい物を切りやすくする工具です。

ホビー用小型超音波カッター ZO-30プラ

例えばどんなものが切れるのでしょうか。

岩崎さん:

「プラスチックがバターのように切れる」というキャッチコピーがありますけれど、プラスチック加工やペーパークラフト、段ボールクラフト、最近だと基板のパターン修正や3Dプリンターの出力図の加工に使われていますね。最近はいろいろな替え刃ができたので、切るだけでなく溶着や研磨も可能です。

アイデアさえあれば幅広く使えそうですね。

三浦さん:

物を作る人は、ひらめいたときすぐに加工できるツールを求めています。お客さんから意図していなかった使い方を教えてもらうこともあって、こんなものが切れたとか、こういう替え刃が欲しいとかも言われまして。徐々に刃が増えていて今は40種類以上あります。また卵や納豆のパック溶着などに活用できます。

企業キャラクターでPR!今の「もけ部」には前身があった!


営業部長の三浦さん

それでは、企業キャラクター「もけ部」を作った経緯を教えていただけますか。

三浦さん:

製品PRのために「全日本模型ホビーショー」などに出展するようになったのですが、展示会ではメディアの取材対象が「キャラクター」なので、超音波カッターをPRしてもなかなか目に留まらないんですね。

そこで「キリカ」と「オトハ」という超音波カッターを擬人化したキャラクターを作り、キリカたちの模型を作るコンテストを開いていたんですが、模型としては難易度が高くて、回を追うごとに参加者が減っていってしまいました。

なぜ難易度が高かったのでしょうか?

三浦さん:

絵を描くにしても、人間のキャラクターを描くのとロボットを描くのは全然違うじゃないですか。造形するのも同じ理由で、美少女キャラクターは作れても機械までは作れなかったり、またはその逆だったり、両方のスキルを持っている人は珍しいようなんです。

それと当時、ワンダーフェスティバル(海洋堂の主催する世界最大のガレージキットのイベント)でキリカが登場した後に、ゴッドハンド株式会社のニッパーを擬人化した「ニパ子」が工具キャラとして登場し人気が出て、一歩先をいかれたんですね。

このままキリカたちを推し進めても勝てないと考えて、コンセプトを変えようという結論になりました。

市場をセグメントして勝てる土俵を作る

豊橋工専高校模型部、通称「もけ部」

どのように変えたのですか?

三浦さん:

キリカが誕生して3年目に、「超音波カッター15周年」と「豊橋市市制110周年」が一緒の年があったんです。

いい機会だし、工業高校の出願数が減少しているという問題も聞いていたので、豊橋のものづくりの根幹のひとつで、私の母校でもある豊橋工業高校をベースにした漫画を展開しようと決め、新たな企業コンテンツ「もけ部」ができました


メインキャラクターは5人。マンガやCVドラマなどのメディア展開を行っている。

最初から地域に密接したコンテンツだったんですね。

三浦さん:

全国展開は難しい。であれば、市場をセグメントして自分が戦える土俵、勝てる土俵をまず作らないと生き残っていけないんですよ。豊橋だけにまず集中しようと決めて、豊橋で知名度が100%あればいいという考え方に切り替えたんです。展開を地元に集中したことで、少しお金は払っていますけれども、地元紙さんがもけ部コーナーを作ってくれました

模型業界って模型店さんやメーカーさんのキャラクターがいたり、各マンガのキャラクターがうろうろしていたりして、コンテンツを自社でやっても弱いんですよね。でも豊橋キャラにしたことで、少なくとも地元では話題になりました

ちなみに「もけ部」の漫画を描いている鈴木典孝先生の出身が、同じ三河地域の安城市で、最初の打ち合わせから豊橋ローカルな話題で盛り上がりました。

豊橋のために!「もけ部」最大の効果はリクルーティング


「もけ部」と「三遠ネオフェニックス」とのコラボポスター

「もけ部」は豊橋市でたくさんのコラボをされていますが、これまでにしたコラボについてお話いただけますか?

三浦さん:

豊橋鉄道に始まり、豊橋総合動植物公園、市役所のJK広報室、プロバスケットボール・Bリーグの「三遠ネオフェニックス」、最近だと水道局さんなどともコラボをさせていただきました。他にも物を作る人たちを応援しようと、浜松市の「ハイスクール国際ジオラマグランプリ」に協賛する形でコラボをしましたね。

最新号(カタログも兼ねている「もけ部通信」/2020年11月現在)では、鬼祭で有名な安久美神戸神明社とコラボをしています。さらに、今年3月から豊橋市内のゴミ収集車に「もけ部」をフルラッピングしていただいています


ゴミ収集“痛車”

ラッピングカー、いわゆる“痛車”ですね。ゴミ収集車が痛車というのはインパクトがあります! そういえば最近、御社の営業車も「もけ部」の痛車になったと聞きました。「もけ部」によって「知名度が上がった」などの効果はありましたか?

岩崎さん:

エコーテックという会社は、本来は製品を求める人じゃないと知る機会が少ない。でも製品を知らなくても今は「もけ部」は分かるという方がいらっしゃるし、学校で530(ゴミゼロ)運動のポスターを見たことがあるとか、ラジオCMを聞いたとか、そういったところから弊社を覚えてくださった人が増えたと思います。知名度より、話のネタになるのは利点ですね。

530運動ポスター。街中のゴミを拾い歩く530運動は、1975年に豊橋市発祥で全国に広がったとされる。

他の効果はいかがでしょうか。

三浦さん:

「もけ部」の最大の効果はリクルーティングだと思うんですよ。中小企業に良い人材が来てくれるのは非常に難しくて、営業車のラッピングをやったのも実はリクルーティングが目的です。

「痛車には、企業のイメージを良くする効果がある」というデータがあるんですよ。地元の若い子に興味を持ってもらうために「もけ部」はある。最初のとっかかりとして、「もけ部」を通してエコーテックの名前を覚えてもらいたいかなと。


「もけ部」ラッピングした営業車

今後の「もけ部」について、希望や目標を教えてください。

三浦さん:

アニメ化してもっと広げて、知ってほしいですね。飛躍するようですが、豊橋に人口を増やしたいからなんです。やっぱり「ものづくり」ってすごく楽しいと思うんですよ。僕は作れない人なんですが、そういう「作れる人」がこの「ものづくりの街」にどんどん増えていけばいいと思っています

今はコロナ禍で世間が目まぐるしく変わっていますけど、思いつきを形に変えて誰かの役に立てる時に、必ず「ものづくり」が必要になると思うんです。弊社の機械がそのお手伝いをして、商品が出ていくスピードが上がれば、世の中がどんどん良くなると思うんですよね。

だから「何かを作りたい」っていう感情を「もけ部」のキャラクターが思わせることができて、そのときに「エコーテックの工具を使おう」っていう流れになれば最高ですね


「おでんしゃ」コラボポスター

これまでのお話で「地域への貢献」に対する意識を強く感じました。私も「もけ部」の漫画を読んで豊橋のロケーションを知ったので、ぜひ次回はおでんしゃ(※)に乗りたいです!

岩崎さん:

この「もけ部」というコンテンツが広がっていって豊橋が知られるようになれば、そんな風に外からここに来ようという人が増えるかもしれない。それも地域貢献ではないでしょうか。

※おでんしゃ:冬限定で豊橋鉄道の路面電車・市内線がユニークなネーミングになります。寒い冬に車内で楽しむ温かいおでんは格別です。

一緒に働きたいのは、好奇心を持って関わろうとしてくれるクリエイター


代表取締役社長の岩崎さん

企業内で「もけ部」のようなコンテンツを作るとなったら、基本的にクリエイターの出番になると思うんですけれども、企業としてクリエイターに求める条件はありますか?

岩崎さん:

条件は考えたことなかったかな。僕らみたいな中小企業が何かを仕掛けようと思っても、大きな予算を出すのは簡単じゃない。だけど対価としてはそれなりに払わないといけない。だからこそ、一緒に大きくなってくれる人を求めています。独りよがりでパソコンの前で作っているだけじゃなくて、好奇心を持って仕事をしてほしい

例えば、私たちが「地元に貢献したい」という気持ちを持っていることに、好奇心がある人なら調べてくれるでしょう。ぜひ共感して関わっていただけたらうれしいです。そうすれば一つの仕事が終わっても、見えないところでつながっていけると思うから、一緒に成長していけるクリエイターさんと付き合っていきたいですね。

三浦さん:

クリエイターさんには「もけ部」で遊んでほしいですね。結構自由度が高い会社なので、「こんな事したいんだけどやっていい?」みたいにクリエイターさんから来てくれるとありがたいです。

「やりたい」と言ってくれる人が集まって新しいことができるようになると、そもそも「ものづくり」がテーマのコンテンツなので、それもまた漫画にしたら面白いんじゃないかな。特に今困っているのはグッズ関連。それに、主題歌があってもいいよね、とか考えてます。

エコーテックは、今後も多くの製品を生みだすと思いますが、お伺いできることはありますか?

岩崎さん:

超音波カッターは、切るだけではなく溶着や研磨もできるようになりました。でも工業用では磨き専門の機械もあるんですね。だから今の製品を応用して、研磨専用の機械、あるいは溶着専用の機械など、製品を一つ一つ掘り下げていきたいと思っています。

取材日:2020年10月21日ライター:渡辺りえ

エコーテック株式会社

  • 代表者名:代表取締役社長 岩崎 義弘
  • 設立年月:1999年10月
  • 資本金:1,000万円
  • 所在地:〒441-3131愛知県豊橋市大岩町小山塚20番地(本多電子株式会社内)
  • URL:https://echotech.co.jp/
  • お問い合わせ先:
    ・TEL 0532-65-5158
    ・問い合わせフォーム https://echotech.co.jp/contact/

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