続々・行間と行送り ~連載「組版夜話」第16話~

連載「組版夜話」第16話
組版者
MAEDA, Toshiaki
前田年昭

前回、 考察したとおり、 和文組版の基本は行送り組版である。 任意の行送りで折りかえされた行が決まった数だけ並ぶと次のページに送られる。 裏のページとも行の芯 (中心線) はピッタリ合い、 けっしてズレることはない。 ズレる可能性があるとすれば、 本文から見れば異物である中見出しや注釈、 図版などが行のあいだに入る場合である。 その場合、 行取り組版を維持するためにはどうすればよいのか。 結論から言えば、 行方向の取り幅を、 すべて本文の行送りを物指しに 「n行取り」 として配置するということによって、 行取り組版を維持するのである。

見出し (別行見出し) の簡単な例で説明しよう。

centerright

左から順に、 3行取りセンター、 2行取りセンターで前1行アキ、 3行取り左揃え――である。
基本体裁の格子で見ると、 次のようによく分かるだろう。

  

見出し (別行見出し) の指定は、 (1) 行送り方向の取り幅として、 本文の何行分のエリアを確保するか、 (2) 行送り方向に対して、 縦組みでは右揃え、 中揃え、 左揃え (横組みでは、 上揃え、 中揃え、 下揃え) のうち、 どの揃えパターンで配置するか、 であり、 あわせて、 字送り方向の揃えパターンを、 縦組みでは上揃え、 中揃え、 下揃え (横組みでは、 左揃え、 中揃え、 右揃え) から選ぶ。

注釈 (別行) も同様である。

これも右の基本体裁の格子で明らかなように、 挟み込んだ註釈は、 文字サイズも行送りも本文より小さいので、 本文の基本の格子からズレてしまう。
この例では、 「この現象は~」 の段落で再び元の格子に復帰させている。 そのためにはどうすればいいか。 まず、 行間と行送りを正しく認識し、 本文3行分と註釈3行分との行送り方向の幅の差を計算してみよう。 註釈の段落 「10Q行送り17.5Hで3行の幅」 が左右45H、 本文3行取り 「13Q行送り22.75Hで3行の幅」 が左右58.5Hである。 直前の本文との行間を、 本文の行間と同じ10Hとする (=本文3行分のエリアの右揃えということだ)。 行方向の残余価はアキとして処理し、 直後の本文とのアキは、先の58.5Hと45Hとの差である13.5Hを通常の行間アキ10Hを加えた23.5Hとすれば、 4行目からもとの基本本文の格子に復帰できるわけだ。 こうすれば、 裏のページの本文行とピッタリ合うし、 こうしなければ、 合わない (段組で、 隣接段との行が通るか通らないかも、 同様だ)。

以上みたように、 行取り組版という和文組版の基本は、 行間と行送りという基本用語の正しい定義と正確な組版演算の上にはじめて成立する。
〔この項、 次回につづく〕

 連載「組版夜話」もくじ

プロフィール
組版者
前田年昭

1954年、大阪生まれ。新聞好きの少年だったが、中国の文化大革命での壁新聞の力に感銘を受け、以来、活版―電算写植―DTPと組版一筋に歩んできた。

1992-1993 みえ吉友の会世話人、1996-1998 日本語の文字と組版を考える会世話人、1996-1999 日本規格協会電子文書処理システム標準化調査研究委員会WG2委員。現在、神戸芸術工科大学で組版講義を担当。

  汀線社WEB https://teisensha.jimdofree.com/
  KDU組版講義 http://www.teisensha.com/KDU/
  繙蟠録 http://www.teisensha.com/han/hanhanroku.htm

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