職種その他2019.08.13

日本語が下手なライター

東京
編集ライター
海外暮らしと帰国してから
Joshy

「下手」というと少々語弊があります。正確にいうと、「日本語が母国語として流暢に出てこない」。そんな自分のことを書いてみたいと思います。

なぜそのようになったかというと、ドイツに滞在中、2年ほど日本語を話さない期間があったからです。日本語を話す友達もいなかったし、今みたいにネットも普及していなかった頃のことです。

ある日突然、日本人の方から話しかけられましたが、「あああ…」と言葉が口から出てきません。日本語は脳の中にあっても、言語化する機能を使っていないので、劣化してしまったようなのです。 この時から自分の中に、当たり前のように使っていた日本語との間に距離感が生じるようになりました。

日本語が母国語なのに、すっと出てこないもどかしさは、帰国してからも続きました。 最初に戸惑ったのが、自分のことをなんと呼べばいいのか、ということです。

ドイツ語は、英語の「I」のように、1人称名詞が1つだけです。
日本語には、「わたし、あたし、わたしく、わし、おれ、ぼく……」など、多様な主語がありますが、どれも自分にしっくりこないのです。

そして日本人は、上司との時は「私」、年下の同僚には「俺」のように、相手との関係性に応じて呼び方を使い分けます。
この「当たり前のこと」が、20年間やってこなかった自分には上手くできず、オールラウンドな「わたし」で通すことにしていました。

今思えば、ドイツ語の使用がメインの社会に生きていて、ドイツ語で考えていたので、日本語に馴染めなくて当然ですよね。日本に順応しようと、焦っていた自分が思い出されます。

レアンドロ・エルリッヒという現代アートの作家は、私たちが「当たり前」として疑いもせず受け止めている現実の中に、認識のずれを生じさせる空間を提示することで、「現実や常識とは何か」を再考させる作品を作っています。

彼の作品に触れると、あぁ自分だけじゃないんだなと、安心するのです。

プロフィール
編集ライター
Joshy
ヨーロッパに20年滞在し、ライターとして記事を発信。帰国後、編集者として働きながら、日々の中で感じたこと、文化の違いなどを綴ってみたいと思います。

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