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折り方と切り方の組み合わせで 思いも寄らない形に上がることが 面白いしこの創作のいいところ

Vol.51
切り紙作家 矢口加奈子(Kanako Yaguchi)氏
 
矢口加奈子さんは切り紙作家です。そうです、あの、折り紙を折って、切って、いろんな形をつくる切り紙。矢口さんはその切り紙をアートの手法として、約10年コツコツとマイペースで創作をつづけてきた方。 毎年開催される個展は静かな話題となり、書籍出版で広く名前も知られるようになりました。1回、1回、ハサミを動かすご本人にもできあがるごとに新鮮な驚きがあるという切り紙創作。紙とハサミだけで一期一会の形や質感を生み出す作業に魅せられた矢口さんは、そんな創作活動と、創作に取り組む生活のすべてを楽しんでいる様子。今様の表現で言うならかなり「天然」の入った、柔らかで伸びやかな表情が印象的な女性でした。

わたしのかえり道

最新刊 「切り紙のじかん わたしのかえり道」 秋田書店刊

[矢口さんからのコメント] 6冊目の新刊は、初のストーリーブックになりました。切り紙の風景の中、帰り道におこる様々なエピソードを楽しんでもらえると嬉しいです。

矢口加奈子さんオフィシャルサイト http://www.yorokobinokatachi.com/

「歓びのかたち」は、1品ものばかりですぐに売り切れてしまう。 けれど、同じものはつくらない。一期一会の、創作なのです。

「歓びのかたち」という作品群は、洋服やインテリアなどに矢口さんの切り紙が落とし込まれている。どれも、落とし込みの作業まで自身で手がけているとか。

落とし込むものによってシルクスクリーンだったりたたき染めだったりと手法が違いますが、可能な限り自分の手でやることにしています。もちろん、専門の職人さんの手を借りているものもあります。私の作品は、ベースになる切り紙から最後の仕上げまで、私自身の手作業で行うことに意味があると思っていますから、可能な限りそうしています。

ネット上にはファンのブログもけっこうあります。それによると、矢口さんの作品は、早めに個展に行かないとすぐに売り切れてしまうらしいですね。

そんなブログがあるんですか! 嬉しいですね。1品ものの作品が多いので、すぐに売り切れてしまうのは事実です。

人気のあるものは受注生産するんですか? 売れてしまっても、「この棚にはこんな作品がありました」と写真でも置いておけば可能ですよね。

一期一会であることがまた貴重だと思うので、受注生産はしていません。そこにある1作品限りと思っていただいた方がいいですね。切り紙と同じで、同じものがひとつもないところも面白さだと思ってもらえると、嬉しいです。 ですから、ここにはこんな作品があったという写真などもないです。そう考えると、なぜ「売れてしまった」とわかるんでしょう? 不思議ですね(笑)。

切り紙は、すべて下書きなしで、フリーハンド。 過去の作品数は、記録していないのでわかりません(笑)。

切り上げた作品、意匠は、なんと呼ぶのが正しい?

私は、単純に「切り紙」と呼んでいます。

これまで、切り紙は何作品くらいつくりましたか?

記録していないので、把握できません。たぶん、何千、何万だと思います。 下書きしているわけでもないので。

え!? 下書き、なし?

はい。まったくのフリーハンド。ちょっとした角度や切り口の差でできあがりはまったく違ってくるので、これまでに切ったものはすべて違う作品だと思っています。

切り始める前に、構想などは練りますか?

漠然とは考えます。ただ、折り方と切り方の組み合わせで思いも寄らない形に上がることが面白いし、この創作のいいところだと思いますから、まずやってみる。基本的にそうしています。

取材風景取材風景2

愛用のハサミと折り紙持参でインタビューに赴いてくれた、矢口さん。 話の盛り上がりに乗って、実際の制作も見せてくださいました。 左利きなのに、右利き用のハサミを上手に使ってスラスラ。おしゃべりしながらでも、手は滑らかに動くのがすごい! インタビュアーのペラペラにニコニコ応じながら、手はスラスラ。あっという間に、こんな素敵な切り紙ができあがりました。

創作のペースは?

年1回、「歓びのかたち」を発表する個展を定期開催しています。それ以外はデザインや出版のお仕事が発生するたびに創作するという感じですね。

「歓びのかたち」は、創作活動として重要な意味を持っていそうですね。言葉の意味も、すっとこちらに入ってくる。素敵なものができあがったときの歓びや手にした時の歓びを意味しているんだろうとすぐわかる。

そうですね、「歓びのかたち」は私が切り紙を始める重要なきっかけというかひらめきをくれたテーマなので、今後も大切にしていきたいです。 私にとって切り紙と「歓びのかたち」は、時にはイコールのようにも思えるし時にはまったく別にも思える不思議な関係。いずれにしろどちらもとても重要なものなので、大切にして、同時進行していきたいと思っています。

最初は、切り紙をバッグや洋服などに落とし込む作業が 面白くて、そちらに心を傾けていたと記憶しています。

切り紙という創作手法とは、女子美術大学在学中に出会っているんですね。

はい。建築家の父の影響で、大学では空間デザインを学んだのですが、途中から、どうも向いていないと気づいて(笑)。 何をしようか、どんな分野に進むかはいろいろ考えましたし、友人にも相談しましたが、いつの間にか切り紙に取り組むようになっていました。

切り紙って、少なくとも日本人にとってはとても身近だし、誰でも1度はやったことがある。だからこそ、逆に気づかないというか、それで創作しようという着想自体が発見ですよね。

どうせやるならオリジナルなもの、独自なことがやりたかった。正直、誰もやっていないことの方が、競争相手が少なくていいという考えもありました(笑)。もともと手先は器用な方だし、とにかく手を動かすのが好きだったですから。

で、在学中にすでに個展まで開いている。かなり早くに、確信みたいなものがあったんでしょうか。

いや、そんなことないです。切り紙作家を自称したのはずっと後です。かなり曖昧にスタートしています。 むしろ最初は、切り紙をバッグや洋服などに落とし込む作業が面白くて、そちらに心を傾けていたと記憶しています。

なるほど。切り紙の創作が先にあって、それをどう派生させるかというアイデアとしてバックや洋服へというのが普通の成り行きと思います。矢口さんの場合は、その点、具体的アイデアが先にあったんですね。

指摘されて初めて気づくんですが、そうですね(笑)。 実は、切り紙作家の自称も、何年か前に活動に迷いが出た際に、友人から「あなたの創作の軸は切り紙でしょう?」と指摘されたのがきっかけ。 私には、そういうところがあるんです。気づくのが、かなり遅い(笑)。

プレゼントにお持ちいただいた創作和紙「キリガミモヨウ」

プレゼントにお持ちいただいた創作和紙
「キリガミモヨウ」

創作活動は、今後どんな風に広がっていくのだろう? ご自身に、具体的なイメージはありますか?

出版社と組んで切り紙の書籍を出したり、アートディレクターからの依頼を受けて装丁用の切り紙を創作したりといったことはすでにいくつか手がけています。 今、私がもっとも興味を持っているのは、実は空間デザイン(笑)。切り紙という手法で空間デザインでできる表現がいろいろありそうだと思うのです。

なるほどね。切り紙で、空間デザインか。正直、スケール感の違いがあって、イメージのギャップが上手く埋められないんですけど。

私は、切り紙は型にはまらずに自由に創作できる手法だと思っているんです。実は昨年、「折る、切る、開く、切り紙の森へ」という個展で、切り紙を森に見立てた空間をつくった経験もしています。

では最後に、これを読んでいる若手クリエイターたちにエールをお願いします。

私からアドバイスできるとしたら、つづけること。止まってしまったり、やめてしまったり、諦めてしまったらそこで終わりですよね。方向転換するのもひとつの方法とは思うんですが、「これだ」と思ったことがあるならつづけることを諦めないでほしい。 私も何度も壁のようなものに遭遇していますが、そのたびに試行錯誤したり、毎日繰り返し取り組むことをつづけてここまでたどり着けました。諦めの悪い性分と言えば、その通りなのですが(笑)。 とにかく、やめることなくつづけるのが大事だと、私は思っています。

取材日:2009年5月20日

Profile of 矢口加奈子

矢口加奈子氏
1976年千葉県生まれ
1994年女子美術大学芸術学部デザイン科にて環境空間デザインを専攻
1997年7月切り紙をモチーフにした初めての作品展「歓・よろこびのかたち」を発表
1998年卒業制作で、什器提案「よろこびのかたち~記憶の発信する場所」を制作

年に1~2回のペースで個展を開催し、作品を発表 切り紙を創作手法とする、日本でも数少ない切り紙作家として活動中。

<お仕事など> アパレル企業とのコラボレーションによる作品制作 ショップの企画によるグッズ展開 ワークショップの開催 装丁や著作書籍の制作

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