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面白かったと思ってもらうのがエンターテインメント。いつまでも人間の良さを描いていきたい

Vol.156
映画監督 生野慈朗(Jirou Shouno)氏
Profile
1950年生まれ、兵庫県出身。1972年にTBSに入社後、テレビドラマのAD・演出補を経験。1978年にポーラテレビ小説「夫婦ようそろ」で演出家デビュー。プロデュースも手掛けた「ビューティフルライフ」は平均視聴率32.3%という驚異的な数字を記録して大ヒット。1988年には『いこかもどろか』で映画監督デビュー。『手紙』('06年)、『余命』('09)などがある。
数々の大ヒットドラマの演出を手掛ける生野慈朗(しょうのじろう)氏。「“人間っていいものだな"と思ってもらえる作品をつくりたい」と語る生野氏が監督を務めた、映画『食べる女』は、毎日を一生懸命生きている様々な年代の女性たちが登場します。8人の女性のリアルな“食"と“性"を描いた映画『食べる女』(2018年9月公開)の制作秘話やドラマと映画の違い、映像作品を制作する際に必要なことなどを語っていただきました。

豪華キャストが“素の人間"を演じているので人間の体温を感じられる映画になりました。

映画『食べる女』はどのようにして誕生したのですか?

それこそ本が発売された2004年のすぐ後から、原作者の筒井ともみさんと映像化しようという話をしていました。ただ、テレビ局や制作プロダクションに持って行ったのですが内容が地味ということもあり実現できず。そんな中、筒井さんと親しくされている小泉今日子さんがいいねとおっしゃってくれて、そこから映像化に向けて進み始めて今に至るという感じです。単館上映でもいいから映画化したいと思っていました。

小泉さんをはじめ、鈴木京香さん、沢尻エリカさんと豪華キャストも魅力的ですが、どのようにしてこのメンバーが集まったのでしょうか?

どの映画でも行うのですが筒井さんと片岡公生プロデューサーと私とでこの人に演じてもらいたいというイメージキャストをリストアップしました。するとそこで名前を上げたみなさんがOKしてくれたという、本当にありがたい話です。最初に小泉さんが参加を表明してくれたというのが大きいかもしれません。実は原作の主人公より小泉さんの方が少し年齢が上なので登場人物の年齢が変わったのですが、かえって年齢の幅が広がって、より多くの女性の共感を呼べるようになったと思います。

そんな豪華キャストが美味しそうに食事をしているのが印象的でした。

レシピは全て筒井さんオリジナルなんですよ。キャストはみんなカットがかかっても食べていましたね。美味しそうに撮るには、実際に美味しく食べてもらわなければならないのですが、食べるという行為は実は原始的で芝居とはちょっと違うんですよ。セリフがあるから、かじる程度で食事をあまり口に含まないなんて芝居をしていたら、美味しそうに映らない。キャストには、そこはしっかりやってほしいと伝えました。“素の人間"を演じていただいたという感じです。普通、脂ギトギトの手羽先をかじりつくなんて女優はしないですから(笑)。これがベースにあるので、食事以外のシーンでも人間味がある生臭い人物に映っているのだと思います。人間の体温を出せた映画になったんじゃないでしょうか。

生野監督が映画を撮る際にこだわっていることは何ですか?

最近の映画は、JK(女子高校生)、イケメン、壁ドン、タイムスリップ、サスペンスなど分かりやすいアイテムを組み合わせて構成することが多いです。でも、実は映画というものの根幹にあるべきなのは“人と人のふれあい"ではないか、と思います。だって日常にそんな大きな出来事って、なかなか起こらないですから。そこらへんで躓いて転んだ、ということさえ、ものすごい出来事のように感じる、そんな誰しもが過ごしている日常の出来事や人間関係などさまざまな人生の綾をきちんとすくい取っていけば、ひとつのエンターテインメントになるはず。私が目標としているのは“人間っていいものだな"と思ってもらうこと。現実では人間ってこんなことするんだ?と思わすような残虐な事件があったりもしますが、せめて映像の中では人間の良さを感じとってもらいたいんですよ。そういう意味でもこの作品はダイナミックなことは何も起こらないですが、登場人物がかわいらしく生臭く生きています。

その人が持っている雰囲気やキャラクターは必ず役柄に投影されます。

生野監督といえば長年TBSでディレクターをされていましたが、テレビ局に入ったきっかけは何だったのですか?

子どものころから映像を撮ることに憧れていたなんてことはなく、就職活動をしていて縁があってテレビ局に決まったというのが本音でしょうか(笑)。学生時代、音楽が好きだったのでレコード会社に興味を持っていたのですが就職試験で落ちてしまって……。そのころ“CMは文化だ"と言われていたので、音楽と映像が一緒に出るCMも面白いかもしれないと広告代理店を視野に入れて大学の先輩に話を聞こうとしていたらTBSの先輩と知り合い、試験を受けたら受かって……という感じです。

初めての演出作品は何だったんですか?

入社して制作部に配属になり、石井ふく子プロデューサーの下についてイチから教えてもらいました。当時は先輩の仕事ぶりを盗み見して勉強するなんてことはできず、自分のことでいっぱいでした。「8時だョ!全員集合」のADを2年半ほど経験した後、当時、TBSが平日昼に放送していたポーラテレビ小説でディレクターデビューを果たしました。このころはみんなとワイワイできるADの仕事が楽しくて、まだディレクターになりたくなかったんですよ。でもディレクターを経験したらそれも楽しいなと思い始めて。そんなときに、金曜日に新しい番組をつくるから担当してくれと言われたのが「3年B組金八先生」でした。そこにはADとして入って、主に生徒役の子どもたちの面倒をみていましたね。今でこそ「金八」といえば有名ですが、当時はどんな番組になるかなんてみんな分からず、生徒たちも自分たちがエキストラなのか重要な人物なのかも分からず来ている子どもたちも多かったです。そんな子どもたちに、「台本は覚えてくるように」とか「返事はきちんとするよう」にとか基本的なことを教えたり、もちろん演技なんてほとんどしたことがないので本読みの稽古をしたりと、なんでも屋のようなことをしていました。普通、ディレクターは担当の回のみ現場に行くのですが、私は子どもたちの面倒を見るということもあり、彼らの出番があるときには毎回顔を出していましたね。そんな中、柳井満プロデューサーに呼ばれて、マッチ(近藤真彦さん)が主役の回を撮ることになりました。これが僕にとってのスタートラインとなる作品です。

それまでの作品と「金八」は、演出をする上で何か異なる感情がありましたか?

子どもたちの面倒を見ていたということもあるのですが、その子たちが持っている個々の良さを引き出したいと思いました。演じるといってもその人が持っている雰囲気やキャラクターは必ず役柄に投影されるものなので……。マッチの後はトシ(田原俊彦さん)の回を撮ったのですが、彼を見ているとぼーっとしているんだけど、どこか憂いのある表情をする。そんな表情を映そうと思いましたね。我々の職業は、観察するということがすごく大事だと思います。見て、感じて、その人の良さを知ることもあるので。電車に乗ったときは、周りの人が何をしているのか、スマホを持っていたら何を読んでいるのか、チェックするといいと思います。そして、「この人は家に帰ったら何をするのかな?」「どんなものを食べるのだろうか?」などを妄想してください。そういう想像力を働かせることがこのような仕事をするのに必要なファクターだと思います。

映画もドラマも面白かったと言ってもらえる作品になれば成功だと思います。

ドラマと今回の『食べる女』や大ヒットを記録した『手紙』などの映画では、演出という面では違いはあるのでしょうか?

撮っているときに、これは映画だからドラマだからと意識したことはないです。むしろ区別する必要はないと思っていて。映像を使ったエンターテインメントという点では同じで、むしろ違いを感じるのは完成してからです。テレビはオンエアされたら翌日には視聴率という数字で評価されます。ただ、この数字は実際に誰が見ているのか分からなく、ながら見をしているのか感情移入して見ているのか、どういう状況かもアバウトなものです。また実際に感想が聞こえてくるわけではありません。対して映画は、試写会などを開くとすぐに感想が寄せられます。公開されたら興行収入という形で実際に見に行った人数がはっきりと数字で表れます。その見ている人が可視化できるのは映画なんだと思います。まぁ、テレビは途中で反響を見て方向性を変えられるのも違いますね。ただ、そのあたりが違うだけで基本は一緒だと思いますよ。

映像作品をつくるときに大事にしていることは何ですか?

1時間や2時間しっかり見てもらって、面白かった!と言ってもらえる作品をつくる、ということでしょうか。それ以上でも以下でもないのですが、これが一番難しくて。高尚なことはいらないと思います。もちろん、落ち込んでいたり凹んだりしていた気持ちが作品を見ることによって元気なってくれるとうれしいですが、基本、見終わって“面白かった"と思ってもらえる、ただそれだけでいいと思います。それがエンターテインメントですから。

最後にクリエイターにひと言、メッセージをお願いいたします。

クリエイターはもっと遊びましょう。最近は、こういうものをつくりたいから勉強するという人が多くて……。そういうことではなく、もっと楽しんでもいいと思います。勉強するだけでは見えてこないものもありますから。例えば、有名な画家の展覧会があった場合、勉強だから見に行かなきゃと思うのではなく、なんか流行っているから見に行こうくらいのミーハーな気持ちでいいんです。遊び心を忘れずに色んなところに顔を突っ込んで楽しんでください。

取材日:2018年8月23日 ライター:玉置晴子

生野 慈朗(しょうの じろう)/映画監督

1950年生まれ、兵庫県出身。1972年にTBSに入社後、テレビドラマのAD・演出補を経験。1978年にポーラテレビ小説「夫婦ようそろ」で演出家デビュー。「3年B組金八先生」シリーズや「男女7人夏物語」、「ずっとあなたが好きだった」「愛していると言ってくれ」などを手掛ける。プロデュースも手掛けた「ビューティフルライフ」は平均視聴率32.3%という驚異的な数字を記録して大ヒット。1988年には『いこかもどろか』で映画監督デビュー。『手紙』('06年)、『余命』('09)などがある。

『食べる女』

  • 出演:小泉今日子 沢尻エリカ 前田敦子 広瀬アリス 山田 優 壇 蜜 シャーロット・ケイト・フォックス 鈴木京香
       ユースケ・サンタマリア 池内博之 勝地涼 小池徹平 笠原秀幸 間宮祥太朗 遠藤史也 RYO(ORANGE RANGE)
       PANTA(頭脳警察) 眞木蔵人
  • 監督:生野慈朗 
  • 原作・脚本:筒井ともみ『食べる女  決定版』(新潮文庫・8月末刊行予定)
  • 音楽:富貴晴美
  • 配給:東映

 

 

とある東京の古びた日本家屋の一軒家、通称“モチの家“。
家の主は雑文筆家であり、古書店を営む・敦子(トン子)。女主人はおいしい料理を作って、迷える女性たちを迎え入れる。
男をよせつけない書籍編集者、いけない魅力をふりまくごはんやの女将、2児の母であり夫と別居中のパーツモデル、ぬるい彼に物足りないドラマ制作会社AP、求められると断れない古着セレクトショップ店員、料理ができないあまり夫に逃げられた主婦、BARの手伝いをしながら愛をつらぬくタフな女・・・。
それぞれの日常からの解放は、美味しい食事と楽しい会話。
今日も、人生に貪欲で食欲旺盛な女たちの心と体を満たす、おいしくて、楽しい宴が始まる。


くわしくは、映画『食べる女』オフィシャルサイト をご覧ください。

 
 
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