グラフィック2006.06.20

できるだけしたいようにしよう! それが自分の使命

Vol.16
フィギュアイラストレーター デハラユキノリ(Yukinori Dehara)氏
 
ファンが多い。同時に「ああやれるのは羨ましい」という同業者、制作者が多いと思う。職種としてはイラストレーター。おもに立体作品で活躍しているデハラユキノリさんに会ってきました。肩書きは?ということでフィギュアイラストレーターということになっているんだけど、まあ、それはなんだっていいという感じですね。あの、自分で作っている作品世界がすべてです。明らかに、自分が面白いと感じたことだけをやっている。面白いと思った着想を、壁にペンキを投げつけるようにフィギュアにしちゃってる。好きな人は、はまる。そうでない人は、たぶん大嫌い、理解不能。面白がって作っている人がいて、面白がって作られた作品を面白がれる人との間に、ご意見無用のポップワールドが生まれている。インタビューを通して、デハラという異空間と、楽しい時間を過ごしてきました。
ポスター仮

ポスター仮

フライヤー

フライヤー

スペシャル

スペシャル

ある人に、「路上で1,000人集められるようになったら テレビの取材がくるよ」とそそのかされて、本気になりました。

お久しぶりです。4年前にお会いしてますね。ではまず、メンペ(東京メンズペインター協会)という活動について説明してください。

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はい。そうですね、4年前にお会いしたときは、ちょうどフィギュア作家として認知され始めたころでした。「ああ、これでお金が稼げるなんていいな」と思ってた時期でした。だけどその後仕事がいろいろ入ってくるようになって、順調といえば順調でいいんだけど、なんか毎日同じことばかりしてるなと思うようになった。絵を描くってことは楽しいはずなのに、仕事としての義務感が強くなってきて、なんかつまんなくなってきたんです。そんなとき、イラストレーターの金子ナンペイさんに出会って、意気投合して作ったのがメンペです。金子さんが会長で、僕が副会長。

会長と副会長しかいないんでしょ?

正確には4人なんですが、実質的に2人ですね。4人に増えたときに、連絡やらなにやらが一気に煩雑になった。それで、「これ以上会員を募るのはやめよう」と決まりました。

メンペの主旨は?目標は?

一応「打倒 TIS(Tokyo Illustrators Society)!!」ということになってます。

打倒のための具体的な戦術、戦略は?

う~ん、今はまだないです。

なんでTISを打倒しなきゃならないの?

それはほら、名前の売れたおじさんたちが銀座でワイン飲んでるのが許せないでしょ。

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よくわかんないなあ。まあ、いいや。路上パフォーマンスなんかもやってますね。

ああ、メンペ路上ライブですね。NHKセンター前石畳広場で定期的にやってます。「メンペっ子」と呼ばれる固定ファンもついてるんですよ。

で、その路上パフォーマンスには、なにか目的があるんですか。

目的を求められるとつらいのがメンペですが、強いて挙げると、ある人に、「路上で1,000人集められるようになったらテレビの取材がくるよ」とそそのかされて、本気になりました。それまでも、展覧会でメン劇(メンペ劇)をやって好評だったというのもありますが。

テレビに取材されたい?

有名になりたい。

作品がそれなりに有名になってるじゃない。

いや、本人も目立ちたいですね。そういう部分で金子さんと意気投合してます。

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結局、金子さんと遊んでるだけじゃない?

あっ、鋭いですね。実はそうなんです。最初は「イラストレーターの地位向上のために」とか「TISは腐敗している」とか口走ってたんだけど、取材の人はすぐ見抜いちゃうんですね(笑)。そういうことが続いたんで、最近「ふたりで楽しくやってるだけでいいよね」ということになりました。そうです。僕は金子さんと遊んでいるだけで楽しいんです。

『お野菜戦争』(長崎出版)っていう絵本をつくりました。 今は、『THE JINGI』っていう小説を書いてます。

いい友達が見つかってよかったですね。では、話題を変えます。最近どんな仕事してます?4年前にお会いしたときはナイキの広告なんかもやってましたね。

あれは面白い仕事でしたね。最近は、広告は多くて年に2本くらい。雑誌の仕事や本の装丁、もちろんフィギュアのシリーズは相変わらず続けてますよ。量産タイプのフィギュアはメーカーさんから発売されていて、いろんなグッズ展開もしています。展覧会でひたすら売ってます。

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この仕事場にもかなりの量のグッズがある。倉庫みたいですね。

自分で売れるところ、探していますから(笑)。メーカーと組んでない分のフィギュアは展覧会くらいしか販売の機会がないんだけど、なんかもったいないと感じたので自分で扱ってくれるお店を開拓し始めたんです。それで、自分で工場に発注するようになり、在庫を抱えることにもなりました。

作者みずから製造販売始めちゃったんだ。

けっこう楽しいですよ。販売店の方のなかには、僕をおもちゃメーカーの人と思い込んでいる人もいる(笑)。

その他には?

『お野菜戦争』(長崎出版)っていう絵本を作りました。これはフィギュアで作った絵本で、7月に出たばかりです。今は、『THE JINGI』っていう小説を書いてます。

小説ってのは?

小説ですよ。ヤクザが主人公で、僕のフィギュアの世界をベースにしたものです。以前、文芸誌の『群像』に書いた短編を、長編に書き直して出版する予定です。

おお、それは楽しみですね。出版社も決まってる?

一応、幻冬舎が出してくれることになってます。だけど、なかなか書けなくて……。ちょっと前に半分くらいまで進んだんだけど、「だめだ、これじゃ話に結末がなくなる」(笑)と気づいて、全部ボツにしました。編集の人がとてもいい人で、文句も言わずに待ってくれています。でも、最近、連絡がないので見捨てられたのかも。

文章書くことは、前から考えていた?

みうらじゅんさんやリリーフランキーさんが、自分で書いた文章に自分の絵を添えているのは凄い!面白いし、一番伝わりやすい。でも、自分にはできないと思ってた。だから今、自分が小説書いていることには、自分で驚いてます。チャンスをくれた人に、感謝してます。

大好きな故郷/高知には、今も足しげく帰郷しているの?

もちろん。最近は高知でも仕事ができたので、帰る口実も増えました。

スポンサーでも見つけた?

地元のお肉屋さんのポスターや関連グッズを作ってます。この間は、服屋の看板を描きに帰りました。

おお、それは楽しそうな仕事ですね。デハラさんの作風を受け入れるお肉屋さんや服屋さんの度量も凄いけど(笑)。

地元の新聞のインタビューで「高知が好き」って言ってるもんで、依頼に来る人が「デハラさんは高知が好きなんだよね。安くてもいいよね」と決め付けてるのが玉に傷なんだけど(笑)。

とても自分に素直な人間になったと思う。 ときどき、素直すぎるかなとも思うけど(笑)。

この数年、それなりに実績を残してきて、デハラさんのなかではなにか変化や成長はありました?

歯止めが効かない人間になりました(笑)。とても自分に素直な人間になったと思う。ときどき、素直すぎるかなとも思うけど(笑)。この歳になると、昔からの友人たちがどんどん家庭持ちになり、子持ちになり、なにやら不自由そうに見えることがある。そういうのを見ていると、ますます、自分のような自由な立場は貴重だし、大切にしなきゃいけないと思うんですよ。できるだけしたいようにしよう!それが自分の使命なんだと思う。難しいけど。

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おやおや、凄いことに使命感持っちゃいましたね。

「仕事も順調にまわっているから、会社組織にして、ちゃんとすべきかな」なんて考えてた時期もあったんだけど、今までみたいに昼まで寝られないし、やめました。

今後の方針は?

印税増やしたいですね(笑)。とりあえず『THE JINGI』をちゃんと完成させたい。

でも、あせってないでしょ?

あせってはいないですね。余裕はある。でなきゃ、メンペなんかに勢力注げないですよね(笑)。

最後に、なんかコメントありますか?

あっ、そうだ、秋に対談集が出ます。タイトルは『片想い対談』、小池書院という出版社から出ますので、よろしく。

どんな方と対談してるんですか?

みうらじゅん、会田誠、鳥肌実、湯村輝彦、金子ナンペイ、水木しげる、横尾忠則。

凄い組み合わせ。とんでもない巨匠も混じってますね。

横尾さんの話には、ついていくのが精一杯でしたね(笑)。水木さんは、最後まで僕を編集者だと思い込んでた(笑)。

売れるといいですね。

売れるといいなあ。

Profile of デハラユキノリ

profile

1974年高知県生まれ

東京を拠点にフィギュアイラストレーターとして活動。 ナイキやタワーレコードなどの広告を手がける一方、作家として年間4~6回のぺ一スで個展を行う。 東京をはじめ台湾、香港、N.Y.などで新作を発表し続けている。 年間制作フィギュア約300体。 著書に自身の撮影によるフィギュア写真集『サトシ君のリストライフ』(リトルモア)、『ジバコレ』(扶桑社)がある。 HP http://www.dehara.com/

 
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