「お盆」と「過去と未来」

東京
書道家・ライター
Tohku
桃空

祖先を敬うとして、毎年お盆というものが存在している。この夏は厳しい暑さのうえ、新型コロナウイルス感染症のため「東京から地方への帰省」はしにくい。

数日外にも出ていないし、出るとしても近所の買い物、図書館、行く場所へは電車ではなくほとんど自転車を使っている。到底、自分がいま罹患しているとは思えない、のだが、やっぱりどこで罹患するのかもわからず、実家の人々、集まった人々や子どもたちに、東京、またはそこにたどり着くまでのあいだに持ってかえってしまっては申し訳ないので、結局、今年の夏は帰省をやめた。

しかし親の命日が迫っているとやっぱり落ち着かない。父親の命日は真夏で、わたしはその日の早朝に富士山登りの予定だったので朝から起きる予定だった。目覚ましとほぼ同じ時間に身内からの電話に起こされ、病院嫌いの父が救急車に乗るというのだからもう何をしているのかわからなかった。わたしはもたもたして家を出るのに何を来て、何を持ってでるのか、全くわからなく、部屋の往復をしばらくしていた。

ところで、わたしが書道にかかわっているのは父からの影響が大きい。父は教師を長年務め校長になったが55歳で早期退職した。彼は、現場が好きな人だった。そこで近い仕事だと思った塾講師を始めた。それは、地元ではいくつか分校を持つ有名塾だった。まず、そこでゼロから再出発をし、トイレ掃除から始めたという話を聞いたことがある。先日まで学校で挨拶のない人はいないようなところで大きめの一人部屋があり、生徒たちと会話が断然少なくなってしまった彼にとって、どうだっただろうか。教えることが好きだった父にとってはまあまあのリスタートだったのかもしれない。周りの講師たちからみれば「やりにくい相手」だったかもしれない。それでも、55歳で新たな場所に立つ、ということを考えると父に向ける思いは「尊敬」だ。教えるという仕事だったから偉いわけではない。誰かの上に立つというのはそれだけ日々「学びを続ける」という決意と使命がある、ということではないか。

身を持ってわたしに学び続けるということを教えてくれたのは紛れもなく父である。そして、それぞれの個々に人生の「転機」というのは、予期せぬ形でやってくる。いま、世界中が「転機」に溢れかえっている。それは「人間の転機」であるということで、わたしたち一人ひとりが、どのように考えるべきか、という地点にいることを意味している。近くにいる、視野の狭い世界での非難より、大きな、とてつもなく大きなモノへ向ける視点が必要だと思う。それが「学び続ける」ことの延長にあることも、言うまでもない。

呼吸し、二酸化炭素を出すわたしたちは、酸素を必要としている。酸素をお金も払わずに植物たちから得ている。だからといって、植物、動物を育む自然の輪環をわたしたちが経済だけの理由で壊していいわけがない。原子力による世界のあちこちでの自然破壊、風力による山鳥たちの大量死骸、パームヤシによるオラウータン絶滅危惧、北極の地表の溶け出し海面上昇に多くの生態系の変化。。。多発する山火事……きりがない。

もしお盆に「先祖」にお祈りするという崇拝の習慣が日本人にもあるならば「日本人」のなんたるかを大声で語るより、もともと日本という小さな国は大陸と地続きであり、民族のルーツはほとんど変わりない。その証拠に「漢字」なしで生きていけないのだから。少なくともわたしがいま研究している書道は、その漢字から始まっている。

わたしは書道に関して自分で開催するものについてはできるだけ「日本文化」を冠に付けないようにしている(他者が方針でつけてしまうこと以外はそうしたいと願っている)。日本文化だと大見得を切ったところで、それはそもそも大陸から由来するものであることを明確に認識しておくのが、ほんとうの日本人だし、それこそがきちんと日本を理解した人のための日本の歴史文化だと思う。

最近、さまざまな所で「レイシスト」だとか、「反日」だとかという言葉を耳にするが、ほとんどの場合が根本的な考えと通じる言葉ではなさそうだ。ましてや「新しい教科書をつくる会」(このあたりはドキュメンタリー映画「主戦場」なんかをみるとよくわかる)などが主催している、疑問に満ちた思想がはびこっている。過去の歴史を歪曲の魔眼で「なかったこと」にする偽物の「文化」と呼んでしまうのは、そういう学びの深さが欠けてしまったからなのだと思う。歴史は後世に捻じ曲げられるべきでもないし、公文書は黒塗りだらけでは「公」の機能を失ってしまう。そしてなにより「新しい」ということばを濫用する時代は、「危うい」といまつくづく思っている。わたしたちは「新しい」時代を生きるのではなく、つねに「未来」は新しいに決まっているのだから。

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