ダブルPCバーガーの思い出

Vol.11
編集&ライター
Juzooo
ジューゾー

 パソコンなしでは、仕事にならない。  今はそんな時代ですから、仕事場でのインフラは、通勤時間や賃金、福利厚生にも勝るとも劣らない重大案件です。  ある職場で、このインフラに関して滅多に体験できない経験をしたので、お話ししたいと思います。その会社は典型的な同族会社で、おまけに先代から社長業を受け継ぎ、創業者の長男というだけで何の努力もなしに二代目を受け継いだ二代目社長には、後継息子がいないので、末長く会社を存続させようという気もないようでした。  ある中間管理職は、「創業家は自分たち社員をただの使用人としか見ていない」と陰口を叩いており、「働き方改革」や「労働者の権利の尊重」といった社会の潮流から取り残された、まさに「悪しき昭和」がたっぷり残された会社だったのです。  ですから「パソコンが与えられているだけでもありがたく思え!」といった感じで、誰も今だに無線LANではないこと、社員に貸与されるのが10年以上前の時代遅れのスペックのノートパソコンで、社員が入れ替わるたびにそれを使いまわしにしていること、CPUが年代物でおまけに疲弊しているので、インターネットはもちろん、ワードやエクセルといった基幹ソフトも起動が遅く、日常的にフリーズすることなど、誰も言い出せないのでした。  僕が与えられたノートパソコンも年代物で、これをいったい何人の人が使ってきたのだろうというような代物でした。まあまあ普通に使えたのは最初の数ヶ月だけ。すぐにワードやエクセルが「もう勘弁して! 少しは休ませて!」と悲鳴を上げてフリーズを繰り返します。特に酷かったのはメールでした。調子が悪い時など、メールを3件返信するだけで1時間もかかるようになったのです。  「これでは仕事になりません!」  僕は中間管理職の上司に訴えました。すると、 「上に言っても無駄だから、我慢してくれとしか言えない」  毎回、そんな返事でした。しかし矢印をクルクル回転させ続けてているパソコンの画面を見つめながら、ただジッとしていることほど、精神衛生上悪いものはありません。僕はとうとうあんな酷いインフラではまともな仕事ができないから「辞める」と中間管理職の上司に伝えました。「辞める」という言葉が効いたのか、役員の老人が2台目のノートパソコンを持ってきました。しかしそれはまったく同じ機種の年代物だったのです。そちらの方がまだましだからそれを使えということでした。こうして写真のように、僕のデスクには2台のノートパソコンがまるでダブルバーガーのように鎮座するようになったのです。  それは初めて見る風景でした。 〈2台目の方がまだましなら、そっちだけを使えばいいのでは?〉  そうお考えの方も少なくないと思います。でもそれはできませんでした。なぜなら2台目のパソコンのメールには2週間前に辞めた派遣社員の○さんのドメインがそのままになっていたからです。2台目の方のドメインを自分のアドレスにしたいと言っても、IDとPASSを自分だけの秘密にしている役員の老人はそれをしてくれませんでした。ですからメールの作業は元のパソコンでするしかなく、狭いデスクに2台のノートパソコンを積み重ね、使用するたびにLANコードを差し替えるという、前代未聞の作業を強いられることになったのです。 「ダブルバーガーだ! ダブルPCバーガーだ! ワ〜イ、ワ〜イ」  最初はそう言って自虐を楽しんでいましたが、結局1ヶ月後に会社を辞めたのでした。

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