字送りと行長 ~連載「組版夜話」第17話~

連載「組版夜話」第17話
組版者
MAEDA, Toshiaki
前田年昭

前回までの3回にわたって、 和文組版は行送り組版が基本だと確認してきた。 縦組みでは、 文字枠の左右長 (行送り方向の長さ) は、 ルビが付いたからといって行間優先で行送りを広げてはいけない。 行はあくまで同じ行送りで淡々と配列される。

今回は、 字送り方向について考えてみよう。 字送り方向とは、 縦組みでは、 文字枠の天地長である。

フリーペーパーなどで、 左図のように、 段落の最終行だけ字送りが詰まっている組版をみたことはないだろうか (これはあとで説明するように、 最終行だけが詰まっているのではなく、 最終行以外がパラついているのだが)。 あるいは、 食い込みの写真や図版のところだけ、 字送りがパラついていることもみかけたことがあるだろう。


なぜこのような不具合が起きるのか。 これは、 行長 (文字枠の天地サイズ) の設定が、 基本文字サイズとその字送り値の整数倍で設定されていないために起こる。 先の事例では、 本来は、 右図のような行長設定が適切なのである。 段落の最終行同士を比較してみればよくわかるだろう。

13級ベタ組みならば、 行長は13H×24=312H (=78mm) に設定すべきところ、 はじめの例のように、 4H (=1mm) 短い308H (=77mm) に設定してしまうと、 1行に24文字入らないので、 23文字が両端揃えとして均等に配置される。 段落の最終行は両端揃えというわけにはいかないから左揃えとなる。 したがって、 先に書いたように、 段落の最終行だけが詰まるよう現象するのである。

欧米由来のDTPのアプリケーションソフトは、 行長にあわせて文字を均等に配置すること (ジャスティファイ) という考え方を持ち込んだが、 これは本来の和文組版(本文組み)にはありえない考え方である (見出しなどの特殊な場合にはありだが)。

和洋の組版は、 機械的な折り返し改行における 「改行位置の決めかた」 において決定的に異なる。 欧文組版は、 ワードスペースで行長を揃えるための調整を行うので、 段落最終行は左揃え、 それ以外の行は両端揃え、 としても矛盾をきたさない。 しかし、 和文組版は、 字送りが基本であり、 行長の調整は約物まわりを中心に行うので、 字送り優先でなく行長 (縦組みの場合は文字枠天地) 優先にすると、 こういうことが起こるのだ。

ワードなどで、 判型を選んだ後、 余白を優先して決めて、 その残りを文字枠に設定するとこういう無様なことになる。 字送り方向の幅は、 余白や食い込み画像の取り幅を優先するのではなく、 文字部分を優先すること――これが和文組版の基本なのである。

和文組版はあくまで均等字送りを基本とする。 したがって、 字間均等アケ組みの場合も、 行長は、 字送り× (字数-1)+文字サイズ、 または文字サイズ×字数+字間×(字数-1) で正確に計算された数値で設定しなければならない。

次の左の図は、 13級で字間2H、 つまり、 字送り15Hの場合である。 行長は、 15×20+13=313、 あるいは、 13×21+2×20=313で、 313H (78.25mm) である。 正しい組版演算にもとづいて組版すれば、 段落の途中も最終行も同じリズムで文字は配置されるのである。

 連載「組版夜話」もくじ

プロフィール
組版者
前田年昭

1954年、大阪生まれ。新聞好きの少年だったが、中国の文化大革命での壁新聞の力に感銘を受け、以来、活版―電算写植―DTPと組版一筋に歩んできた。

1992-1993 みえ吉友の会世話人、1996-1998 日本語の文字と組版を考える会世話人、1996-1999 日本規格協会電子文書処理システム標準化調査研究委員会WG2委員。現在、神戸芸術工科大学で組版講義を担当。

  汀線社WEB https://teisensha.jimdofree.com/
  KDU組版講義 http://www.teisensha.com/KDU/
  繙蟠録 http://www.teisensha.com/han/hanhanroku.htm

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