千鳥足の傍点はどこから来たのか ~連載「組版夜話」第9話~

連載「組版夜話」第9話
組版者
MAEDA, Toshiaki
前田 年昭

組版の肝は約物 (句点、 読点、 括弧類、 傍点、 傍線など) であると言ってもけっして過言ではない。 声に出して読まれることのない約物は、 テキストの論理性を組版の立場から支えている。 テキストの階層を示し繫がりを明確にする、 重要な役割を果たしているのである。 それゆえ、 約物がどのように組まれているかを見れば、 その組版の基本的な考え方と水準が露わになる。

傍点――大類雅敏 『句読点活用辞典』 栄光出版社1979は、 強調符号のひとつとして 「ワキテン」 を挙げ、 次のように説明している。

  • 【形態】 文字の右傍につけるゴマ点。 今日では、 ゴマ点だけになったが、 二葉亭四迷の 『余が翻訳の基準』 には、 二重丸・黒三角・黒丸が用いられている。
  • 【名称】 ワキテン、 ゴマ点、 傍点と呼ばれる。
  • 【用法】 アンダーライン、 ワキセンと同じく、 強調強化、 注意を引くのに用いる。 〔以下用例略〕

具体例を見よう。 ここに示した組版事例を見ていただきたい。 左 (仮名ツメ) の組版では、 ゴマ点が、 酒に酔ってよろめきながら歩いているような千鳥足状態で並んでおり、 読みにくい。 第4話 「ベタ組みは和文組版の基礎リズムである」 で書いたとおり、 和文組版には基本リズムがあり、 「強調強化、 注意を引く」 装飾は、 あくまでこの基礎リズムの土台のうえに成立する。 その他の約物も、 あくまでリズムとしてのベタ組みの上で拵えられた意匠である。 この基礎リズムと異なる仮名ツメ、 プロポーショナル組みの上では、 ベタ組み本文の上に成り立ってきた様々な符号記号は用をなさなくなり、 無惨なありさまとなる。 ここに挙げた例は、 その一例にすぎない。

かつて府川充男は 「一律一歯詰め組版を排す」 〔『組版原論』 太田出版1996〕 で、 二倍約物 「…… (三点リーダー2字) 」 を例に引き、 一律一歯詰めでは6つの点の間隔が等間隔にならぬ愚を対処策とともに指摘した。 文字のデザインはベタ組みを前提にしたものであり、 前提が変われば論理としての組版も変わることを求められる。 土台が変われば、 その上に成り立つ様々な事物は、 そのままでは成り立たなくなるのである。 同書での府川の次のような指摘は、 土台のリズムとしてのベタ組みの決定的重要性を示したものとして読まれるべきであろう。

書籍にせよ雑誌にせよ、 組版フォーマットの設計という事柄が難しく、 またそれゆえに面白いのは、 一つ一つのルールの設定がシステム全体に及ぼす影響について類推的に判断していく必要があるからだ。 逆に言えば、 組版ルールの智識や論理的類推の能力が欠如した素人がフォーマットをいじっては断じてならぬのである。 しかし、 昭和四十年代後半から “雑誌のヴィジュアル化” の掛け声と共に物を知らぬデザイナーの組版指定が大手を振って跋扈し始めた。 その正系の末裔というより最初のマンマ進歩せずに今日に持ち越されてきたのが、 実は雑誌の一律一歯詰め組版に外ならないのである。 〔同書356ページ〕

組版の美しさは読みやすさと一体のものであり、 体系としての論理に裏打ちされずして、 美しい組版は成立しない。

 連載 「組版夜話」 もくじ

プロフィール
組版者
前田 年昭

1954年、大阪生まれ。新聞好きの少年だったが、中国の文化大革命での壁新聞の力に感銘を受け、以来、活版―電算写植―DTPと組版一筋に歩んできた。

1992-1993 みえ吉友の会世話人、1996-1998 日本語の文字と組版を考える会世話人、1996-1999 日本規格協会電子文書処理システム標準化調査研究委員会WG2委員。現在、神戸芸術工科大学で組版講義を担当。

  汀線社WEB https://teisensha.jimdofree.com/
  KDU組版講義 http://www.teisensha.com/KDU/
  繙蟠録 http://www.teisensha.com/han/hanhanroku.htm

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