ルビ組版を考える(下) ~連載「組版夜話」第7話~

連載「組版夜話」第7話
組版者
MAEDA, Toshiaki
前田 年昭

〔承前〕前回書いたとおり、ルビは脇役として本文の伝達と表現を助ける役目を負っている。単線の本文がルビの部分だけ複線になるわけで、それを異和感なく読めるように組むのは一筋縄ではいかない。ルビ組版は、数字表記や欧字混植とともに実に悩ましい難題のひとつである。大切なことは、親文字列とルビ文字列とを〈併走するひと組〉としてあらわすこと、これにつきる。

読みにくいルビは、伝達も表現も台無しにしてしまう。具体例の検討から始めよう。

例1は、ルビと対象語句(被ルビ文字)との対応が分かりにくい例である。(a)親文字35字に対してルビ12字、(b)親文字12字に対してルビ5字――ともにルビ文字数が極端に少なく、ルビがどの語句に対応しているのか、ひと目では分からない。衒学的、ひけらかしにさえ見える。(a)のように複数行にわたる場合、割ルビ(対象語句の後に括弧内で2行に分けてルビを付けるやり方)など他の方法を検討する必要がある。

例2、例3、例4は、ルビがどの行(の語句)に対応するのかが分かりにくい例。ルビの位置は、対象行よりもむしろ隣接行に近い。ひと目でルビが対象語句と〈ひと組〉と分かるよう、余裕のある行間設定が必要である。とくに例3は、樟(ケヤキ/クスノキ)ように左右両側にルビが付くから、行間は最小限二分四分(75%)は要る。また例4、傍線が引かれた云(いひ)の外側に置かれたルビは、右の行に付いているように見える。傍線もルビも対象行に寄り添わなければ〈併走するひと組〉に見えない。

例5は、親文字同士の字間が、ルビかけの犠牲になってしまった例だ。昌平黌は教学機関の名前であり、地の文なら字間は空けない。それがルビの都合で、昌と平とが四分アキで「昌/平黌」と分かたれ、もはや「昌平黌」というひとつの単語に読めない。この場合、ルビ「し」を親文字直前の「の」の下半分に、ルビ「よう」を親文字「昌」に、それぞれかければ、親文字3文字はベタ組みを維持できる。

例6も、親文字前後に二分アキが入って、本文のベタ組みが壊されている。同じ本の別の箇所では例7のようにルビかけしており、一冊を通したルールが存在していないのも問題だ。

例8、例9は、ルビ文字列の中黒が記号の大きい黒ベタ丸になってしまっている。これは、明らかな誤字である。インデザインなら「OpenTypeのルビ字形を使用」にチェックが入っているためで、チェックを外せば通常の中黒になる。

以上にみた具体例からは、次のようなルビの組み方の要点を導き出すことができる。

  • モノルビかつ肩付きを基本にし、親文字のベタ組みの維持および被ルビ文字列の文字間の均等をできるかぎり追求する。
  • 必要な行間を確保する。
  • グループルビでは頭末揃えとする。
  • ルビかけは、被ルビ文字の隣接が別の用字系の場合はルビかけルビ全角、同じ用字系の場合はルビかけルビ半角(区切りを要する場合はルビかけ無し)とし、肩付きでは直後にかけたあと直前にかける。
  • さらにルビ文字数が多い場合は、ルビ文字長から親文字長を引いた長さを1:2:2:……:2:1に分配し、ルビ文字数が少なく親文字数の2倍未満の場合は、親文字長からルビ文字長を引いた長さを1:2:2:……:2:1に分配(jis方式)。極端に少ない場合は割ルビなど他の方法を検討する。

とはいえ、ルビ組版は、ただ一つのマニュアルがあれば済むものではない。場合ごとに組んでは考え直し、組み直す作業が必要となる。的確な答えは必ずしもひとつではない。

ひとつの例について、皆さんとともに考えてみたい。「類聚名義抄」という固有名詞(古辞書名)に「るいじゆ(う)みようぎしよう」とルビを振る。
試しにすべてルビかけ無しでモノルビを1字ずつに付けてみると、①のようにバラバラな文字間となって問題点が浮かび上がる(各行末に列記した数字は、親文字5文字の字間4か所のアキ量=親文字比)。この事例の特徴は、親文字とルビとの対応をとることと、親文字列の単語としてのまとまりを維持することと、その両立の困難さにある。

今野真二『振仮名の歴史』集英社新書、2009では、本文の目次も②のように組まれている。文字間が大きく(聚と名との字間は全角アキ!)空いてしまっているため、類聚名義抄という単語が塊に見えない。
③は、先の②のルビ中の括弧を半角取りにして親文字同士の字間を縮めたひとつの改善案である。
私ならさらに横括弧縦中横で④のように組む。

⑤は全部をグループルビとした例で、見やすくはなるが、親文字とルビ文字との対応が明確でなくなる欠点がある。

皆さんは、どのやり方を選ぶだろうか。たったひとつのルビにこれだけの選択肢があり、これだけのことを考えさせられるのが組版なのである。ここに組版の難しさとともに面白さがある。「読めればいい、細かいことはどうでもいい」という考えが、組版と出版をダメにしてきた。たかがルビ、されどルビである。

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例1 マイク・デイヴィス『増補新版 要塞都市LA』青土社、2008、印刷 シナノ、製本 小泉製本、装幀 戸田ツトム

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例2 深井晃子監修『増補新装[カラー版]世界服飾史』美術出版社、2010、印刷製本 大日本印刷

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例3 杉本つとむ『文字史の構想』萱原書房、1992

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例4 小松英雄『日本語を動的にとらえる』笠間書院、2014、印刷製本 シナノ

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例5 飯田賢一『一語の辞典 技術』三省堂、1995、印刷 中央印刷

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例6 酒井直樹『過去の声』以文社、2002、印刷 中央精版、製本 中條製本工場

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例7 酒井直樹『過去の声』以文社、2002、印刷 中央精版、製本 中條製本工場

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例8 マイク・デイヴィス『増補新版 要塞都市LA』青土社、2008、印刷 シナノ、製本 小泉製本、装幀 戸田ツトム

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例9 フリードリヒ・キットラー『グラモフォン・フィルム・タイプライター(下)』ちくま学芸文庫、筑摩書房、2006、印刷 明和印刷、製本 積信堂

プロフィール
組版者
前田 年昭

1954年、大阪生まれ。新聞好きの少年だったが、中国の文化大革命での壁新聞の力に感銘を受け、以来、活版―電算写植―DTPと組版一筋に歩んできた。

1992-1993 みえ吉友の会世話人、1996-1998 日本語の文字と組版を考える会世話人、1996-1999 日本規格協会電子文書処理システム標準化調査研究委員会WG2委員。現在、神戸芸術工科大学で組版講義を担当。

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