グラフィック2020.03.11

2019社内報アワード3部門受賞! 会社と社員の「リアル」を伝える社内デザイナーの仕事は課題設定から

Vol.175
株式会社マクロミル
コミュニケーションデザイン本部
大石真史氏、 田代正和氏、松坂龍健氏、松本麻友美
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2020年にリニューアルした社内報「ミルコミ」

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Vision Book

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Values 浸透グッズ

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「社内報アワード2019」(ウィズワークス株式会社主催)授賞式

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ボーダーレス化が急速に進み、一人一人の価値観も多様化する中で、企業のビジョンやミッションを社内に浸透させ、社員のエンゲージメントを高めるインターナルコミュニケーションの重要性が、改めて注目されています。そこで今回は、「社内報アワード2019」(ウィズワークス株式会社主催)の「社内報部門(紙)/特集・単発企画7貢以下」でグランプリを受賞し、さらに「Web社内報部門」、「動画社内部門」でもブロンズ賞を受賞した株式会社マクロミルを訪問! 社内メディアを担当するコミュニケーションデザイン本部ブランド・マネジメントユニットの皆さんに、インターナルコミュニケーションの必要性や各メディアのコンセプト、制作体制などについて、お聞きしました。また、クリエイターの働き方のひとつとして注目されている、社内デザイナーならではの魅力についても、大いに語っていただきました!

デザインも編集も社内で制作し、紙、Web、動画の3部門すべて受賞!


ブランド・マネジメントユニット長 大石真史さん

「社内報アワード2019」の受賞、おめでとうございます! 紙、Web、動画のすべての部門で受賞されたのは、マクロミル社だけだったそうですね。すべて高い評価を受けていますが、それぞれの役割やコンセプトについて教えてください。

大石真史さん:

Web社内報『NOW』は、速報性を重視したメディアで、ニュース感覚で見てもらえるように1日に複数回更新しています。
次に、紙の冊子『ミルコミ』は3カ月に1回の発行で、インナーブランディング寄りの編集方針です。紙媒体だからこその役割は2つあると思っていて、1つは、紙ならではの手触りや質感などを生かして、流し読みではなく、じっくり読んでもらうこと。もう1つは、会社の歴史を残すこと。もちろんWeb媒体でも過去の出来事を遡ることはできますが、ひとつひとつの特集テーマごとに俯瞰して物事を整理し、裏側のストーリーに迫るような企画・編集をしっかりと行っている紙媒体の記事のほうが5年後、10年後に振り返りたいときに過去の出来事をより深く追うことができると考えています。
最後に動画は、全社会議や社員表彰のときに制作して流しています。動画は臨場感があり、その場にいる全員を引きつけるパワーがあります。感情を鼓舞したり、ときには笑いを交えたりもしやすく、会場の一体感を高めるために活用しています。

どんな体制で制作されているのですか?

大石さん:

私たちが所属するコミュニケーションデザイン本部は2つのユニットがあります。ひとつは広報ユニットで、主にメディアや外部ステークホルダー向けのコミュニケーションを担当しています。もうひとつは、私たちが所属するブランド・マネジメントユニットで、インターナルコミュニケーションと企業ブランディングの役割を担っています。ブランド・マネジメントユニットでは、ディレクションや編集を担当するグループと、主にデザイナーが所属しデザインやクリエイティブを担当する2つのグループが日々連携しながら業務を進めています。デザイナーは現在3名で、紙やWeb、動画の社内メディアのクリエイティブ面をすべて担当しています。その他にも、CI(コーポレート・アイデンティティ)やVI(ビジュアル・アイデンティティ)、コーポレートサイトの運用管理、ミッション・ビジョン・バリューを社内に浸透させるためのグッズ制作、写真撮影に至るまで、多くのクリエイティブ業務を内製で対応しています。

田代さん:

インハウスデザイナー3人は、特に決まった担当はなく、その都度話し合って分担しています。企画を決めるときも、全体的なデザインのトーンを決めるときも、デザイナーと編集担当が集まってユニット全体で話し合いますね。良い意味で民主的に制作していると思います。

社内メディアを通し、社員のエンゲージメントを高め、組織力を上げる


ブランド・マネジメントユニット クリエイティブ・デザイングループ 
松坂龍健さん(写真左)、田代正和さん(写真右)

紙、Web、動画と、どれもクリエイティブのクオリティーが非常に高いですよね。なぜ、ここまでインターナルコミュニケーションに力を入れるようになったのでしょうか?

田代さん:

クリエイティブに関しては、創業者がものすごくこだわりの強い人でした。私は2004年入社で、当初はコーポレートサイトなど外部向けのWebを担当していたのですが、行間や文字間まで指示が入りましたからね(笑)。そのカルチャーが今も引き継がれています。

大石さん:

インターナルコミュニケーションについても、創業者がこだわりを持って早い段階から社内報を発行したりしていました。より力を入れるようになったのは、国内外の企業とのM&Aなど、会社として急拡大し始めた2013年頃だと思います。ロゴなどのVIを刷新し、2016年にはグループ全体のミッション・ビジョン・バリューなどCIも全面刷新しました。グローバル展開にドライブをかけていく時期で、社員の数も増え続け、社歴の浅い社員の比率が高まっていく状況にありました。その中で、社員のエンゲージメントを高め、組織としての実行力を上げていくために、インターナルコミュニケーションに特に注力し、社内メディアにもより一層注力するようになりました。

グランプリを受賞した社内報『ミルコミ』は、季刊とはいえ40ページの立派な冊子です。マクロミルはデジタルリサーチの会社なので、紙の社内報に力を入れていることが、少し意外でした。

松本さん:

先ほど、紙媒体には「じっくり読んでもらう」「歴史を残す」メリットがあるという話が出ましたが、実は2020年から『ミルコミ』をリニューアルすることになり、このタイミングで改めて「本当に紙媒体を作る必要があるのか?」をユニット内でディスカッションしました。そして再度、紙媒体を残すことを決めたのですが、ひとつ方針を変えたのは、これまで社外秘だったものを2020年からは社外にも公開することにしました。

大石さん:

例えば、受付に『ミルコミ』を置いて待ち時間に手にとってもらう、社員が自宅に持ち帰って家族と一緒に読んでもらうことなどを想定しています。あるいは学生や求職者、そしてクライアントにも、マクロミルという会社にはどんな社員がいて、どんな雰囲気の会社なのかといったことを『ミルコミ』から感じてほしいですね。

経営のチェックを通さずに発行、マクロミルの“リアル”を伝える


ブランド・マネジメントユニット クリエイティブ・デザイングループ 
松本麻友美さん

『ミルコミ』のクリエイティブは、どんな方針で作っていますか?

大石さん:

メインターゲットは中途、新卒の両方を含めた入社3年未満の社員です。実は社員全体の5割近くを占めるボリュームゾーンなのですが、この時期はまだ社内ネットワークが広がっていません。そんな時期に、『ミルコミ』に載っている社員の話を読んで共感したり、つながりを感じたりして、コミュニケーションのきっかけになれば良いな、と思っています。
また、コンセプトは「リアルを伝える」です。良いことばかりではなく、失敗談も辛かった体験も記事にしています。また、社員の仕事以外の表情を伝えることも意識していて、社外活動の様子を紹介したりもしています。
『ミルコミ』も含めてすべての社内メディアは、経営陣のチェックを通さずに発行しています。経営のメッセ―ジや思いを伝えることはインターナルコミュニケーションの重要な役割のひとつです。しかし一方で、経営にとって都合の良いメッセージに終始したり、不都合な面を隠そうとするのでは“メディア”とは言えないと考えています。そんな編集部メンバーの気概も込めて、マクロミルの“リアルを伝える”ことをコンセプトとしています。

『ミルコミ』は、デザインも洗練されていますね。とても読みやすいです。

松坂さん:市販の雑誌をベンチマークとして編集部内でイメージを共有しています。以前は主に「BRUTUS」のデザインテイストや余白の使い方を、現在は「POPEYE」のイラスト使いや柔らかい雰囲気などを参考にしたりしています。
田代さん:

企画ごとに分担してデザインしていますが、最後は見開きページの紙をすべて並べて、全体のトーン&マナーをチェックして合わせています。

社員からの感想や要望は?

松本さん:

毎回アンケートを取っているんですよ。たくさん答えてもらえるように、プレゼントも用意しています。毎回、どんなプレゼントなら答えてくれるか、悩むんですよね(笑)。アンケートで寄せられた声も参考にして、作っています。

大石さん:

社員は取材にも協力的です。『ミルコミ』が出来上がったら、本社ビル内の社員には手渡しで配布するようにしています。1,000人近くいるので重労働ではありますが、その場で直接感想を聞けることもありますし、ぜひ読んでもらいたいのでひと声かけながら渡すようにしています。

スキルの幅が広がり、枠を超えた仕事ができるのが、社内デザイナーの魅力

「社内報アワード」には、いつからチャレンジしていますか?

大石さん:

『ミルコミ』を大幅にリニューアルした翌年の2017年頃から応募しています。マクロミルの会社の規模を考えると、これだけのパワーをかけて社内報を充実させ、インターナルコミュニケーションに力を入れている企業は珍しいと思っています。だからこそ、社外からの客観的な評価を受けることで、「社内コミュニケーションに力を入れている会社」としてマクロミルの働く場所としての魅力やブランド価値を高めたいと考えました。

2019年度は狙い通り高い評価を受けましたが、社内の反応は?

大石さん:

他社の社内報と比較する機会はありませんから、社員も今までは「これが当たり前」として受け取っていたかもしれないのですが、受賞してからは「ウチの社内報はスゴイらしい」と認識してくれるようになりました。会社としても、IR資料やインタビューでインターナルコミュニケーションに力を入れていることにも触れられるようにもなり、存在価値が高まっているように感じます。また、当社のクライアントは、当社とは比べ物にならないような大企業も多いのですが、ありがたいことにクライアントの社内報担当部署から「マクロミルの社内報の編集部の人に話を聞きたい」といったお話をいただく機会も増えました。

紙の『ミルコミ』と、Web『NOW』、そして動画と、これだけの社内メディアを3人のインハウスデザイナーで担っているというのは、本当に業務範囲が広いですね。最後に改めてお聞きしますが、社内デザイナーという仕事の魅力は?

松坂さん:

幅広い業務を担当できることは、インハウスデザイナーのメリットだと思います。私も前職はWebデザイナーとして制作会社でクライアント業務をしていたのですが、マクロミルに入社してからは紙の社内報だけでなく、ロゴや名刺などのデザインも担当し、守備範囲が広がったと感じています。例えば、Webはスピード重視なので細部にこだわり過ぎずアップデートの速さを求められる場面が多かったですが、紙は逆にミクロ単位の変化で驚くほど洗練されることもありますよね(笑)。何となくわかっている状態と、経験値として体感できている状態では、スキルの深さが全然違うと思います。

田代さん:

クライアントワークでは、自分がどんなに良いものができたと思っても、クライアントに「ダメ」と言われればダメです。ですが、自分も含めたチームのために一緒に作り上げるものは、「ダメ」なときはその理由が自分自身で納得できます。だから、もう一度作り直そうと前向きに捉えられる。ポジティブに仕事に向かうことができるのは、インハウスデザイナーの良いところだと思います。

松本さん:

私も前職まではクライアントワークをしてきましたし、今も個人事業主として仕事を受けています。受注業務は、「この媒体で、こういうコンテンツを作って」というように、すでに制作物のアウトプットを指定されていますが、社内の仕事はまず課題から始まります。例えば、漠然とした「社内でのキャリア形成のあり方を伝えたい」のような課題があったとして、それを「果たして社内報で伝える必要があるのか? そもそも作らなくてもいいのでは?」というところから検討することができます。「これは作る必要がありません」とクライアントワークで突っぱねるなんて、ありえませんよね(笑)。
デザイナーは、しばしば「企画もできるようにならなくては」「コンセプトワークから入らなくては」などといわれますが、私たちの仕事はそれ以前の段階から関わることができます。デザイナーの範疇を超えた仕事ができることが、インハウスデザイナーの魅力です。

取材日:2019年12月10日 ライター:植松 織江

株式会社マクロミル(英文社名:Macromill, Inc.)

  • 設立年月:2000年1月
  • 資本金:9億7100万円(2019年6月時点)
  • 所在地:〒108-0075 東京都港区港南2-16-1 品川イーストワンタワー 11F
  • URL:https://www.macromill.com/
  • お問い合わせ先:(代)TEL:03-6716-0700 FAX:03-6716-0701

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