WEB・モバイル2022.07.13

感性と論理性のあいだの最適解を求めて。 UIデザインとともに歩んできた30年のデザイナー人生

京都
株式会社ループデザイン 代表取締役
Yasuhisa Tawa
田輪 恭久

今や私たちの生活に欠かせなくなったスマートフォンやタブレット、パソコンなどのデジタルデバイス。これらの画面を介してデジタルの世界と私たちとをつなぐ存在、それが「ユーザーインターフェイス(以下、UI)」です。
そんなUIに特化したデザインを手掛けるのが、京都に拠点を置く「株式会社ループデザイン」。UIデザインにおける経験値と品質の高さが評価され、東京や大阪など全国の企業から依頼を受けています。人生の半分以上の時間をUIデザインに捧げてきたという代表取締役の田輪恭久(たわ やすひさ)さんにお話をお伺いしました。

心がけているのは「ロジカルなデザイン」

御社はデザインの中でも専門性の高い分野を手がけていらっしゃるそうですね。

はい。私たちは、「UI」に特化したデザイン事務所です。健康管理のスマートフォンアプリやスーパーのセルフレジの画面を想像してもらうとわかりやすいかもしれません。どんなボタンやアイコンを使い、どの位置に置き、どんな動きをすればいいのか、操作性までを総合的に考えながらデザインする仕事です。

どのような方々から仕事を受けられているのでしょう?

企業の開発部門やデザイン部門の方々が多いです。「こんな機能がほしい」「こんな情報を入れたい」とご要望をいただき、デザインに落とし込んでいきます。クライアントからご意見をいただいたり、こちらから提案したりしながら何度もやりとりを重ね、より納得のいくデザインに近づけていきます。
あまり複雑なデザインにすると開発期間や予算に影響してしまいますので、効率性も考えなくてはいけません。たとえば、複数ある操作画面のレイアウトを規格化して統一すれば、開発の手間が削減できます。レイアウトに規則性があれば、新しい画面に移ってもユーザーが迷わずに操作できるというメリットも生まれます。使いやすさを保ちつつ、よりシンプルにしていくこと。それがUIデザインのポイントのひとつです。

重要なのは「ユーザー」視点での使いやすさ

UIデザインはどのようなプロセスを経て進んでいくのでしょうか。

最初は、似たようなサービスのデザインをリサーチします。スマートフォンやタッチパネルなど、それぞれのインターフェースが持つ「型」を見つけ、抽出することを意識します。
また、ユーザーが使うシチュエーションの想定も欠かせません。公共の情報端末のようにパッと見てわかるシンプルさが必要なのか、スマートフォンのアプリのように遊び心をかき立てた方がいいのかなど、使うシーンによってデザインの方向性は変わってきますから。トレンドの配色や業種のイメージカラーなども把握するようにしています。
その後は、ラフスケッチやデザインをクライアントに見ていただきながらやり取りを重ねます。デザインが完成したら、ボタンやアイコンなどのパーツごとの画像データと、パーツのサイズや配置、文字の間隔などを指定した「レイアウト指定書」もあわせて納品します。
このレイアウト指定書はグラフィックデザインの版下にあたるもので、ボタンのサイズや配置する位置、文字の間隔などを数字で細かく指定しています。これが一番大切と言っていいくらい、UIデザインにおいては欠かせないものです。昔は書類で作成していましたが、今はAdobe XDで代用することも多くなりました。

ウェブサイトの制作と似ていますね。

パーツを作って配置するなどの点では似ていますね。しかし、見た目の美しさを重視するウェブデザインに対して、UIデザインは使いやすさを高めていくことが目的です。また、僕たちの仕事はUIデザインを納品するところまでなので、その後の開発には基本的には関わりません。納品したデザインはその後、プログラマーの方々によってソフトウェアに仕上げられます。

完成には立ち会わないケースが多いのでしょうか。

そうですね。納品したデザインに変更が加えられていることもあります。でも、それも当然のこと。私たちが担っているのは、あくまで開発工程の一端ですから。自己表現するアーティストではなく、クライアントの希望をかたちにする「職人」だと思っています。

デザインをするうえで心がけていることはありますか。

常に心がけているのは、ロジカルにデザインすることです。なぜこの色にしたのか、なぜボタンをこの場所に置いたのか。クライアントにはその理由をきちんと言葉にして説明し、納得してもらわなくてはいけません。見た目がかっこいいだけでは通用しないのがUIデザインなんです。
もちろん、デザインを洗練させるにはデザイナーとしての個性を出すことも必要です。グラフィックデザインに求められる感性と、プロダクトデザインに求められる論理性。そのちょうど中間に位置するUIデザインは、双方のバランスをいかに両立させていくかが難しく、面白いところでもあります。

ドットで図を描くアルバイト時代に、黎明時代のUIデザインと出会う

UIデザインの仕事を志したきっかけは何ですか。

興味を持ったのは30年以上も前、大学に入ってからです。当時の花形は車などのプロダクトデザイン。インターネットはもちろんパソコンすら普及しておらず、「UIデザイン」という概念が認知され始めていたくらいでした。いわば黎明期ですね。
私はデザイナーに憧れて京都工芸繊維大学に入学し、デザイン事務所でアルバイトを始めました。その時、当時は珍しかったUIデザインの部署に配属されたんです。

そこではどんなお仕事をされていたのでしょうか?

主に手掛けていたのはコピー機の操作パネルのデザインです。当時はコピー機が最先端のデジタル機器で、各社が競って新しいモデルを開発していました。パソコンもまだモノクロで、ドットで図を描いていました。
経験を積めば積むほど、UIデザインへの興味はどんどん深まっていきました。大学院に進んでからもデザイン事務所でアルバイトを続け、卒業後に正社員に。そこからはずっとUIデザインを専門に仕事をしています。

「独立したい」という意思はお持ちだったのでしょうか。

「絶対にしたい」とは思っていませんでしたが、「いつかは独立するのかな」という漠然とした考えはありました。デザイン事務所に勤めていた先輩も、多くの方がある程度の年齢になると独立されていたので。独立後もプロジェクトによっては協力して一緒に仕事をすることもあり、いい関係ができていました。いつかは自分も独立する、今はそのための修業期間だ、と思って仕事をしていました。
長い間そんな気持ちで働いていたものの、機会は突然に訪れました。所属していた会社との方針の違いが明確になった出来事があり、独立を決意。そこから会社が立ち上がるまでにかかった時間はたった3ヶ月でした。

それはずいぶんと大きな決断でしたね。

思い立ったら早かったですね。専門家に事務的な手続きをすべてお任せしたこともあり、「会社ってこんなに簡単に作れるんだな」と思ったのを覚えています。
会社名「ループデザイン」は、みんなで輪になって一緒にやる、という意味も込めているのですが、実はシンプルに私の名前である田輪の「輪」からきているんです。何しろ3ヶ月でバタバタと会社を作ったので、考える時間がなくて。友人に「実績を上げていればどんな社名でもやがてブランドになる」と言われ、エイヤッと名付けました。
起業後は前の会社のクライアントを一部引き継げたので、最初から安定して仕事ができました。むやみにクライアントの数を増やすのではなく、ご縁のあったクライアントと長くお付き合いをさせていただくスタイルをとっています。

長いお付き合いが続くのは、信頼関係があるからこそでしょう。

我々はUIデザインの専門家としてクライアントの要望を最大限かたちにしますが、そこでイエスマンになってはいけません。いつも同意するのでは信用してもらえず、相談すらしてもらえなくなってしまいます。良いものを作るためには自分もしっかりと考えて提案し、時にはちょっと衝突するくらいでないと。真剣にクライアントと向き合い、信頼関係を築いていくことが大切です。

30年経っても変わらない姿勢は「クライアントの想いをかたちに」

30年以上UIデザインに関わってきたからこそ思うことはありますか?

UIデザインには、時代の変化による波が何度もありました。最初の波はパソコンの登場、その後に携帯電話やインターネットの普及。そして近年での大きな波はもちろん、スマートフォンの登場です。新しいデバイスの登場によってUIデザインの環境は刻々と変わってきました。きっとこれからも変化は止まらないでしょう。
しかし、私たちがしているのは、クライアントが開発に込めた想いをかたちにしてユーザーに届けること。たとえデバイスが変わったとしても、その姿勢はこれからも変わりません。ロジカルなデザインにしたりカッコいいデザインにしたりするのも、すべてはクライアントやその先にいるユーザーの方々に喜んでもらいたいから。「使いやすいデザイン」こそが、自分の表現であり個性なのだと思っています。

理想は“個性の集合体”
それぞれがデザイナーとして自立し、魅力を発揮する

働いているスタッフに対して思うことはありますか?

立ち上げ時には前の会社の同僚と2人で始めたこの会社も、今では9人のデザイナーが在籍するまでになりました。今は代表である自分のカラーが濃く出ていますが、今後はそれぞれの個性を出していってほしいと思っています。会社が、それぞれの魅力が活きる“個性の集合体”になったらいいなと。この会社に参加してくれているスタッフには、ひとりのデザイナーとして自立してほしいです。

デザイナーとしての「自立」とはいったい何でしょう。

自分なりの価値観を持ち、仕事に責任感を持って自発的に取り組むこと。たとえ独立しても、一人でやっていけるくらいの力を身につけてほしいと思っています。
スタッフは30代から40代が多く、私は皆よりだいぶ年上です。だから、思ったことは遠慮なく伝えるようにしています。自分を棚に上げて言うこともありますよ(笑)。でもそれは、私自身がやらなかったことを後悔しているから。皆より多く経験している者の務めとして、やっておけばよかったと思うことはできるだけ伝えていきたいと思っています。

それぞれの自主性を大切にされているのですね。

そうですね。会社設立から7年が経ち、プレイヤーからマネジメント側へ意識が変わってきているのを感じています。自分からそれぞれのスタッフへ少しずつ重心を移していく、今がちょうど転換期なのかもしれません。
ただ、私はまだまだUIデザインでやってみたいことがありますし、30年やっていてもまったく飽きない。他の分野のデザインをやろうとは少しも思いません。
私にとっては自己表現より、クライアントに喜んでもらえることが一番の糧。クライアントやユーザーの方々がいて喜んでもらえるうちは、ここで力を尽くしていたいと思います。

取材日:2022年5月27日 ライター:土谷 真咲

株式会社ループデザイン

  • 代表者名:田輪 恭久
  • 設立年月:2015年3月
  • 資本金:100万円
  • 事業内容:ユーザーインターフェイスデザイン
  • 所在地:〒600-8441 京都市下京区四条町349 京都友禅ビル5F
  • URL:http://www.loopd.jp/
  • お問い合わせ先:http://www.loopd.jp/mail.html

※掲載の社名、商品名、サービス名ほか各種名称は、各社の商標または登録商標です。

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