映像2021.01.29

西川美和監督キャリア初の原作モノ!映画「すばらしき世界」レビュー。役所広司×西川美和念願のタッグ

東京
編集者
クリエイターズステーション編集部S
クリエイターズステーション編集部S

 

はじめまして!

クリエイターズステーション編集部Sと申します。

先日、映画「すばらしき世界」の試写会に招待されたので一足お先に鑑賞してきました!

現代の日本で起こっている社会問題を鋭くえぐった本作。

この社会に生きづらさを感じている人も、そうでない人にもおすすめの映画なので、今回、ご紹介させていただきます!

 

【映画「すばらしき世界」のストーリー】

下町の片隅で暮らす、短期だがまっすぐで優しい男、三上。

しかし彼は、人生の大半を刑務所で過ごした元殺人犯だった。

そんな三上に若手カメラマンがすり寄るが…。


©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

 

東京の下町の片隅で暮らす三上正夫(役所広司)は、見た目は強面でかっと頭に血がのぼりやすい性格だが、まっすぐなくらい優しく、困っている人を放っておけない男。しかし彼は、人生の大半を刑務所で過ごしてきた元殺人犯だった。

社会のレールから外れながらも、何とかまっとうに生きようと悪戦苦闘する三上に、若手テレビマンの津乃田(仲野太賀)と吉澤(長澤まさみ)が番組のネタにしようとすり寄ってくる。

やがて三上の壮絶な過去と人懐こくて気が置けない今の姿を追ううちに、津乃田は思いもよらないものを目撃していく……。

 

 

【監督・西川美和について】

監督デビュー作『蛇イチゴ』(2002)以降、国内外で数多くの映画賞を受賞するなど確実に評価を高め、今や日本映画業界で最も新作が待ち望まれるフィルムメーカーのひとりとなった西川美和監督。

今回、長編映画としては自身のキャリア初の“原作もの”に挑んだ。

 

©分福

1974年生まれ広島県出身。オリジナル脚本・監督デビュー作『蛇イチゴ』(02)で第58回毎日映画コンクール脚本賞受賞。長編第二作『ゆれる』(06)は第59回カンヌ国際映画祭監督週間に正式出品され国内で9か月のロングラン上映に。続く『ディアドクター』(09)で第83回キネマ旬報ベスト・テン日本映画第1位を獲得。その後『夢売るふたり』(12)、『永い言い訳』(16)とつづけてトロント国際映画祭に参加するなど海外へも進出。一方で小説やエッセイも多数執筆しており、『ディア・ドクター』のための僻地医療取材をもとにした小説「きのうの神さま」、映画製作に先行して書いた同名小説「永い言い訳」がそれぞれ直木賞候補となるなど高い評価を受けている。本作の製作過程を綴った『ストーリーが待っている(STORY BOX/小学館)』のエッセイを連載中。

パンフレットより

 

【原作本は直木賞作家・佐木隆三「身分帳」】

そんな日本にとどまらず海外でも注目されている西川美和監督×豪華キャストでお送りする映画「すばらしき世界」は、作家 佐木隆三(さき りゅうぞう)が1990年に刊行した小説「身分帳」を原案にして描かれた。

「身分帳」

『復讐するは我にあり』で直木賞を受賞した作家・佐木隆三が、実在の人物をモデルに、刑務所から満期で出所した身寄りのない男の再出発を書いた小説である。

 

あらすじ

モデルである田村明義が、自分のことを小説にしてほしいと、1986年に自身の身分帳を作者に送付したことから書かれた作品です。文庫には小説の主人公である山川一のその後が書かれた「行路病死人」も収録されています。  

発売されたのは1990年6月ですが、物語は1986年2月、極寒の旭川刑務所から主人公が出所したところから始まります。

山川は、1973年4月、東京葛飾区でキャバレーの店長をしていました。ホステスの引き抜きトラブルから喧嘩に発展し、20代の男性を殺害。罪に問われ、1974年から懲役10年の刑を言い渡されました。 

それから刑務所内での違反やトラブルを重ねて刑期が延び、旭川刑務所に移送されてから8年。ようやく刑期満了のため、出所を迎えることになりました。

しかし山川は天涯孤独の身の上。妻とも逮捕された時に別れ、身寄りはありません。東京の弁護士が身元引受人となったことで、新生活を送るため上京します。 

タイトルにもある「身分帳」とは、収容者の家族関係や経歴、入所時の態度や行動が記載されている書類のことです。特に問題行動が無ければ薄いようですが、山川のようにトラブルが多い収容者となると、厚みが膨大になってしまうのだとか。人生のほとんどを刑務所で過ごしてきた山川にとっては、自分の歴史に等しい書類です。 

本作は社会生活を送るようになった山川と、身分帳や手紙から過去の山川とをリンクさせて描いていきます。

また、2021年、西川美和監督により映画化されることが発表されました。約30年前の内容を現代に沿って再検証し、主人公がもし今の日本に出所したら、という仮定で仕上げるそう。このアレンジは、作品をどう変化させるのでしょうか?

「小説『身分帳』に見る、ある人間の生き方。映画化原作が面白い!ネタバレ注意」

https://honcierge.jp/articles/shelf_story/8431より

 

【編集部Sの感想・見どころ】

人生の大半を刑務所で過ごしてきた元殺人犯が味わうこの世界はあまりにも冷たくて残酷でした。

「明日からカタギだ」と彼が望んでいた「普通の生活」はこんなにも遠く、難しいものなのか。とことんえぐられます。

三上は凶悪な犯罪を犯しましたが、まっすぐなくらい優しく、困っている人を放っておけない男。

そんな男にこの世界は生きづらいと痛感させられ、涙が出ました。

ただ、そんな息苦しいこの世界でも、人と人とのつながりで生まれる支援や希望が心に残る、映画でした。

こんなに素晴らしい映画を、西川美和さん、本当にありがとうございます。


©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

 

長澤まさみ演じる吉澤が放つ「社会のレールの上にしっかりと乗っていても幸せじゃない。そんな世の中だ。だからレールから外れている人をとことん排除したくなるのだ」この言葉が観終えた後もずっと頭のなかを駆け巡っていました。

逃げることは「勇気あってこその撤退」なのか。

三上が老人ホームで働いている最中にいじめを発見してしまうシーンは、心が苦しかった。

残酷な世界がスクリーンにリアルに写されていました。


©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

 

見どころ

この映画の見どころはたくさんあるのですが、編集部Sの個人的なイチオシ見どころを説明させていただきます!

(ちなみにこの見どころは映画「すばらしき世界」のパンフレットに記載されております。他にも見どころがたくさん載っているので上演前にパンフレットを購入すると、倍楽しめること間違いなしです!)

 

①エキストラ

三上がアパート脇の空き地でゴリライモと喧嘩するシーン。夜間の撮影ということもあり、マンションのオーナーや周囲に住む方には許可をいただいていたとのことですが、いざ撮影が始まると「何事だ?」とご近所さんが集まってきたそう。それを西川美和監督が「エキストラとして参加してもらえないかな」と仰り、参加してもらったそう。

ハプニングさえも映画に取り込んだこのシーンは、野次馬感がリアルで面白いポイントなので是非見逃さずご覧ください!

②衣装

三上が九州の暴力団の親分とご飯を食べるシーン。

三上の衣装がなんとあのANJELO GARBASUSに変わっているのです!

私が学生のころもたまに見かけるヤンキーは皆ANJELO GARBASUSを着ていたので(笑)、とても懐かしくなった反面、リアルなこだわりに胸が熱くなるのでここも要チェックです。

 

そして何と言っても豪華俳優陣の演技が一番の見どころです!

役所広司さんの背中や指先で語る演技は、流石としかいえません。

作品に役所広司はどこにもいなく、いるのは強面でかっと頭に血がのぼりやすい性格だが、まっすぐなくらい優しく、困っている人を放っておけない男、三上正夫そのもの。

役所広司さんの演技は日本にとどまらず、世界でも注目されること間違いありません。

しかも台詞があんなにも多いのにNGがほとんどないというのだから驚きです。

`圧巻’という言葉がこんなにも似合う役者さんはそういないでしょう。

 

役所さんについては、映画「パラサイト 半地下の家族」監督のポンジュノさんからも絶賛の声があがっておりました。

 

常に人間の心の奥底までレンズを向ける西川美和監督と、
長年にわたって数多くの異なる魂を表現してきた名優・役所広司の出会いは、
それだけですでに観る者の心をときめかせる。

果たして、
映画が始まってものの数分で、

私たちは役所広司という俳優ではない、
不遇な生い立ちを背負った一匹狼の元やくざ、三上という生々しい生き物を目にすることになる。

表情や目つき、わずかな手の動きや仕草で
主人公の人生の履歴を余すところなく表現してしまう
役所広司の驚くべき説得力にあらためて感服した。

映画『すばらしき世界』オフィシャルサイト

https://wwws.warnerbros.co.jp/subarashikisekai/news/?id=8 より

また、そんな役所さんにも負けない仲野太賀さんのリアルな演技には涙が止まりません。

このシーンが…というと話がおわりませんので、ぜひ劇場へ足をお運びいただければと思います。

 

【まとめ】

自身のキャリア初の原作ものですが、さすがの西川美和監督。

俳優・役所広司さんも「西川さんはデビュー作以来、ずっと佐木隆三さんの匂いがする作品を手掛けられている」と仰っていましたが、佐木隆三さんと西川美和監督、そして役所広司さんのタッグは傑作でしかありませんでした!

笑えるシーンもあり、泣けるシーンもありのエンタメ映画であり、現代の問題を描く社会は作品でもある映画「すばらしき世界」は2021年2月11日(木・祝)全国公開。

 

一度レールを外れても、懸命にやり直そうとする。実在の男を通して「社会」と「人間」の今をえぐる。

13年ぶりに出所した三上が見る新たな世界とは―。


©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

 

人間がまっとうに生きることとは、社会のルールとは何なのか、私たちが生きる今の時代は‘すばらしき世界’なのか、といった幾多の根源的なテーマを本作は我々に問いかけてくる。

日常の小さなきっかけで意図せず社会から排除されてしまうことは、誰の身にも起こりうる。

そんな今の社会の問題点を鋭くえぐり、観客それぞれの胸に突きつけてくるのだ。

 

コロナウイルスの影響で今までの生活が一変してしまった今だからこそ観てほしい、老若男女問わずおすすめしたい、そんな映画です。


©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

 


2021年2月11日(木・祝)全国公開

 


出演

役所広司

仲野太賀  六角精児  北村有起哉  白竜  キムラ緑子

長澤まさみ  安田成美  /  梶芽衣子  橋爪功

あらすじ

下町の片隅で暮らす短気ですぐカッとなる三上(役所広司)は、強面の見た目に反して、

優しく真っ直ぐすぎて困っている人を放っておけない男。

しかし彼は、人生の大半を刑務所で過ごした元殺人犯だった。

一度社会のレールを外れるも何とか再生しようと悪戦苦闘する三上に、

若手テレビマンの津乃田(仲野太賀)と吉澤(長澤まさみ)がすり寄りネタにしようと目論むが…。

三上の過去と今を追ううちに、逆に思いもよらないものを目撃していく――。

作品概要

脚本・監督:西川美和

原案:佐木隆三著「身分帳」(講談社文庫刊)

配給:ワーナー・ブラザース映画

©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

映画「すばらしき世界」HP

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