WEB・モバイル2021.02.03

全国200団体が活用する国産オープンソースソフトウェア“ユーザーの声が改良のヒントに”

徳島
株式会社ウェブチップス 代表取締役社長 CEO
Naokazu Nohara
野原 直一

全国各地の自治体や官公庁、大学など200団体に活用されているオープンソースソフトウェア「シラサギ」を開発提供する徳島県の株式会社ウェブチップス。

「シラサギ」はWebサイトの構築や運用、グループウェアによる組織内の円滑なコミュニケーション作りなどに役立てられていますが、事業の背景にはどのような思いがあるのか。代表取締役社長 CEOを務める野原直一(のはら なおかず)さんにお話を伺いました。

自社サイト上の「デモサイト」が営業してくれる

会社設立は2013年。立ち上げまでの経歴をお聞かせください。

まず、AIなど知能情報工学を専攻していた徳島大学大学院を卒業後、地元・徳島県の“第3セクター”で2年間にわたり営業職で働いていました。その後、27歳の頃に知人から「会社を立ち上げようと思う」と聞き、退職して自分も参加し、eコマースサイトなどWebサイト制作、Webシステム開発に関わっていき、徳島県庁のウェブサイトリニューアルをきっかけに、自治体や官公庁をクライアントにした業務を担当していくことになりました。

結果として、13年ほど勤務していましたが、そこを退職する直前に関わっていたのが現在の弊社にも通じる“オープンソースソフトウェア”に関わる業務でした。

当時、徳島県と開発した自治体向けのオープンソースソフトウェア「Joruri(ジョールリ)」に関わっていましたが、自分なりの方法でビジネスを展開していきたい思いが強くなり、現在の会社を立ち上げました。

そこからどのようにして、事業を拡大したのですか?

オープンソースソフトウェアを活用してもらうビジネスモデルを徳島県のみで展開するのは厳しいので、全国展開を視野に入れていました。仮にですが、連携して取り組める会社が47都道府県に1拠点ずつあれば大丈夫だろうと考えていました。

そして、実際に営業してくれるのは私たちのサイト上で公開している「シラサギ」の“デモサイト”です。コンテンツの運用管理や職場の情報共有支援などがどのようにできるのかじかにユーザーの方々に確認してもらい、問い合わせを頂いたら、弊社から見積もりを出して発注につなげています。

現時点では、各都道府県の139社の協業ベンダー(提案業者)の方々と協力しながら展開しています。

地方での機能改良が重なり東京でも戦えるようになった

御社が開発する「シラサギ」の内容を教えてください。

中規模から大規模の団体に向けたオープンソースソフトウェアで、会社設立から約1年、2014年5月にローンチしました。Webサイトを運用管理するためのCMS(コンテンツマネジメントシステム)、部署内の情報を共有するためのグループウェア、いつどこでもメールを確認できるWebメールが三位一体で利用できます。

団体向けのためBtoBで提供しているのも特徴で、全国の自治体や官公庁、大学など約200団体で活用していただいています。

自社開発のオープンソースソフトウェアをどのように広めていったのでしょうか?

最初は当然ながら知名度もなく、自治体などに活用してもらいたいとはいえ実績を作る必要がありました。ちょうど公開を決めた頃に、県内のある大学が徳島県内市町村のWebサイトをリニューアルされると聞いたので、弊社から「お手伝いします」と提案しました。

ただ当初は機能が充実していませんでした。自社開発したオープンソースソフトウェアは、導入時に開発した機能によってバージョンアップをしていくといった特徴もあり、実績を上げるにつれて少しずつ機能が充実してきました。これは面白いところでもありますが、地方の各種団体からの要望に応えてきたからこそ、現在では首都圏でも十分に活用していただけるようになりました。

オープンソースソフトウェア「シラサギ」自体は無償で、サーバにインストールすれば誰でも利用できます。どのように収益を上げられているのでしょうか?

インターネット上に公開されているので、見知らぬ誰かが利用するだけでは確かに収益にはつながりません。ただ、使っていくうちにクライアント側にも要望が生まれ、不具合にも気付くようになるため、問い合わせをしてくる場合も多々あります。その際に、カスタマイズを依頼される、導入支援をお手伝いする、有償サポート契約を結べば弊社がすみやかに対応するなど、「シラサギ」周辺でのビジネスを幅広く展開しています。

また、クライアントからの声は、弊社としても自分たちが気づかなかった要求、知りえなかった運用を学ぶきっかけにもなります。それらの情報を各都道府県で連携しているベンダーの方々に共有することで、自治体や大学などへ提案するときのサポートに繋がりますし、要望に応じた機能開発を自社で手掛ける参考にもなります。

高いビジョンを持ち自主的に課題へ取り組める人が理想

ウェブチップスの由来は「WebサイトやWebシステムにおいて洗練された技術知識(tips)を持つ人が集まる会社」とホームページにありましたが、立ち上げ当初から組織の拡大を視野に入れていたのでしょうか?

現在は私を含めて11人(役員含む)が働いていますが、多くても15人ほどが最適だと考えています。オープンソースソフトウェアを取り扱っているとはいえ、ひたすら拡大していくのは難しく、それよりも関わっているスタッフが満足して仕事ができる環境が大切だと思っています。

15人を目安としているのは、「クライアントとじかに向き合うクリエイター」「機能開発などシステム周辺に取り組む開発エンジニア」「バックエンドでサーバ運用などを担うネットワーク・サーバエンジニア」この3種類の人材を1ラインとし、3ラインあれば不測の事態が発生しても社内で対応できると想定しているためです。

会社をマネジメントするうえで、何を重視されているでしょうか?

時期によって異なってきました。設立から「シラサギ」を普及させるまでは、全員で一丸となり一生懸命に取り組むような空気でしたが、社会的にワークライフバランスの必要性が叫ばれるとともに仕事とプライベートの割合が変化してきました。後は社員のモチベーションを維持するために、例えば知識やスキルを向上させるための技術書購入費、社外勉強会への参加、社内交流会などの経費は全て会社側が負担するようにしています。

また、現在では毎週水曜の15時にスタッフ同士がコミュニケーションを図れる「おやつタイム」の機会を作り、お菓子をつまみながらみんなで雑談をしています。

正直、直接のコミュニケーションに頼らず、メールやチャットで必要最低限のことだけを伝えれば業務は進められるという感覚もあります。ただ、相手のことを深く分かっていれば、メールやチャットをするときも「この人にはもう少し言葉を足しておこう」など、さりげない気配りもできるはずなので、互いをじかに知るというのはやはり必要だと考えています。

御社にとっての課題は何ですか?

Webサイト制作など、クライアントから目に見えるフロント業務を担う人材が不足しています。

徳島県という地域性も理由で、プログラマーやエンジニアは県外からも来るのですが、サイト構築などを手掛ける人材はやはり、東京や大阪などの都市圏と比べるとなかなか出会えません。自分がフロント業務へ回る機会もあるので、人材をどう確保するかは常に課題となっています。

どういった方々と一緒に働きたいですか?

自分で課題を作れる人です。言われたことは完璧にこなすものの、目の前の問題に気付けないようではよくないと考えています。課題を見つけるためにはその人なりの高いビジョンが必要ですし、常に目標を掲げて取り組んでいる人と一緒に働きたいです。

また、ささいな問題に気が付けるのも大切で、例えば、クライアントからデザインの要望を受けたときに「色彩学からみるとそのとおりにはしない方がいいです」と、杓子定規に対応するのではなく、代案というべき提案ができることが重要です。日頃から自分で考えながら相手にとっての最適な答えを出せる人、出そうと考えられる人を望みます。

取材日:2020年12月25日 ライター:カネコシュウヘイ

株式会社ウェブチップス

  • 代表者名:代表取締役社長 CEO 野原直一
  • 設立年月:2013年9月
  • 資本金:1,000万円
  • 事業内容:オープンソースソフトウェア「シラサギ」開発事業、「シラサギ」を用いた受託開発事業・サポートサービス事業・クラウドサービス事業
  • 所在地:〒770-0865 徳島県徳島市南末広町4番53号 エコービル4階
  • URL:https://www.web-tips.co.jp/
  • お問い合わせ先:上記サイト「お問い合わせ」より

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