スペース2021.02.17

土地の文化や風土を生かし、人が自然と集まる場所を作って街を再生させる

札幌
街制作室株式会社 代表取締役
Hiromasa Kokubun
国分 裕正

全国各地で数多くの街づくりや複合商業施設づくりを手掛け、企画から運営サポートまでを行う「街制作室株式会社」。地域の魅力を掘り起こし、人が自然と集まる場所の拠点「サードプレイス」を作り、街の再生を図ることに尽力し続ける代表取締役の国分裕正(こくぶん ひろまさ)さんに、これまでの取り組みや今後の目標について話を伺いました。

思い描いたものを実現するために、仲間とともに独立

立ち上げまでのキャリアを教えてください。

大学中退後、さまざまな職業を体験しようと、半年から1年サイクルで食品製造業やガソリンスタンド、商業デベロッパーなどを転々とし、27歳の頃に「街プロジェクト」という会社を立ち上げて、商業施設の調査や企画などを行っていました。

しかし、設計事務所や建築会社が間に入ると、最終的に自分が思い描いたコンセプトと違う形になってしまうケースがあることにもどかしさを感じました。そんなとき総合企画を担っていた、「北海道赤平市(あかびらし)のショッピングモール建設プロジェクト」で、現在のパートナーである代表取締役専務の岡本克己(おかもと かつみ)と出会い、意気投合して、1996年に「街制作室」を立ち上げたのです。

どのような仕事から始めたのですか?

最初は道内の商業施設の仕事が中心でしたが、2000年頃から、僕たちが手掛けた施設を評価してくださる道外のクライアントからの依頼が徐々に増え、今は国内のみならず海外の仕事もいただいております。

事業内容について教えてください。

社内には、企画マーケティング・建築設計・デザイン・開発・運営の5つのチームがあり、僕は主にコンセプト作りを担当しています。仕事の内容やクライアントの要望に応じてチームを編成し、スタッフたちと一緒に、複合商業施設やフードマーケット、住宅施設、医療・福祉施設など、さまざまな街づくりプロジェクトを手掛けています。

文化や風土を継承し、新たな「サードプレイス」を作る

ホームページに「自然なライフスタイルが実現できる街の確立が原点」とありますが、街づくりにおいて、一番大切にしていることは何ですか?

20代でヨーロッパを旅したときに、500年、1000年変わらない街の姿を見て、日本もこうあるべきだと思い、自分も「きちんと文化や風土を継承するような街づくりをしていこう」と考えが至りました。そこから生まれたコンセプトが「風土の継承」「コミュニティの創造」「自然との共生」です。 「風土の継承」は、その土地の文化や歴史、習慣を継承していくことで、「コミュニティの創造」は人が交流する場、いわゆる「サードプレイス」の必要性です。

これはアメリカの社会学者が提唱した概念で、「第1の場所=自宅」「第2の場所=職場」に加え、「第3の場所=市民が集まり、コミュニティが生まれる場」が生活を豊かにするという考え方です。「自然との共生」は、自然とともに暮らしていく場所を作ることで、この3つは「街制作室」のコンセプトであり、自分たちが仕事をするうえでのコンセプトとして大切にしています。

では「サードプレイス」作りに必要な要素は何ですか?

コミュニティの創造ですね。どんなに携帯電話やリモートでのやり取りが増えても、お互いに顔を見て話す楽しさは皆知っていますので、その気持ちを満たしてあげられるような場所、自然と足が向き、会話が生まれるような仕組みを常に考えています。

「国分さんは著者として、2019年9月に『人が集まる場所をつくる―サードプレイスと街の再生 (BYAKUYA BIZ BOOKS)』を出版しています。」

風景や歴史、人に触れ、その街を深く知る

その“街”を知るために取り組んでいることは何ですか?

まずは街並みや商業施設、史跡、風景を見て、そこに暮らす人々の話を聞きます。次に、街の歴史に関するものや、街の風土を建物のデザインに反映したり、文化や風習を自然に生かせるような仕組みを作ります。

「人口の少ないところに商業施設を作るのは難しいのではないか」と言われますが、その場合は、街の規模に合わせた施設を提案します。難しくても必ず答えはありますし、その答えを出すのが僕たちの仕事だと思っています。

ゼロから作ったり、既存のものに手を加えることもありますか?

どちらもありますよ。ただし、これからはリノベーション(改修)の時代になっていくと思います。日本はこれまで、スクラップ&ビルドを良しとしてきましたが、この先は、そこにあるものをいかにリノベーションして長く使うかという観点がなくては、いい街になっていきません。特にコロナ以降は、そうした思考が根付くのではないかと思っています。

そこに長く住んでいる方は、変化することに不安を抱かないのでしょうか。

意外に新しいものがほしいという人が多いので、不安はないと思います。でも、新しければいいわけではないということを、気付かせてあげることも大切だと思います。日本全国どこでもそうですが、自分たちの暮らす土地が持つ良さや魅力に、皆もっと目を向けるべきだと思います。

土地の良さや魅力を生かし、その場所にあった施設を作る

これまで手掛けた街づくりの、具体例を教えてください。

例えば、2015年に沖縄県豊見城市(とみぐすくし)にある瀬長島(せながじま)という無人島に、「瀬長島ウミカジテラス」という施設を作りました。「ウミカジ」というのは沖縄の言葉で海風のことで、「海風を感じるテラス」という意味で名付けました。車で渡れる無人島で、年間約300万人の観光客や地元客が訪れるスポットです。

当初は、僕たちが作った鹿児島市の「かごっまふるさと屋台村」を見た豊城市長が、「瀬長島にも同じように屋台村を作りたい」と声を掛けてくださったのです。現地を視察し、歴史なども調べた結果、「ここに必要なのは屋台村ではない」と思い、リゾートアイランドを提案しました。 海がとても美しい場所でしたので、「人と風を紡ぐ海の集落」をコンセプトにしました。島内には小さな区画の店舗約50軒とホテルが立ち並んでいて、海が一番美しく見えるように建物を階段状に設計し、後ろの店が前の店の屋上テラスを使えるようにしました。

「かごっまふるさと屋台村」についても詳しく教えてください。

2012年に鹿児島市の中央駅前に作りましたが、ここはもともと飲食店に向いている場所ではありませんでした。なぜかというと、すぐ近くに天文館(てんもんかん)という繁華街があり、人はそちらに流れていたからです。

しかし、関係者の熱意に押されて開発を進めることになり、地産地消をコンセプトに、「鹿児島の食文化の発信」「焼酎文化の発信」「鹿児島方言文化の発信」と3つの文化発信の場とすることにしました。鹿児島では、集落の先輩が後輩を教える郷中教育が江戸時代から続いています。それは屋台村の運営に生かされています。出店者には鹿児島弁でのおもてなしや、焼酎の歴史や飲み方についての講習を行いました。

店舗は3年契約で、25店舗中約10店舗が入れ替わり、残りの店舗は場所をシャッフルします。そうすることで3年ごとに新しく生まれ変われてお客さんも楽しめるからです。もともと期限が3期と決められており、2019年12月で終了しましたが、2021年の春には鹿児島駅の再開発が終わりますので、そこに一部機能を移転させます。

2020年の秋に、東京にオープンした施設も話題ですね。

2020年9月に原宿駅近くの閑静な住宅街に、食に特化した商業施設「JINGUMAE COMICHI(じんぐうまえ こみち)」をオープンさせました。ご近所の方や勤めている方のサードプレイスにしようというコンセプトで、カジュアルダウンしたミシュランの星付き店をはじめ、全国から人気の飲食店を集めました。

一店舗平均が7〜8坪と小さく、カウンター中心で、館内では小径(こみち)散策をする感覚でハシゴ酒が楽しめますので、店の人やお客さん同士、新しい出会いが生まれるとうれしいですね。すべての店舗にテラス席を設けた開放的な作りは、コロナ禍を意識したわけではありませんが、結果的に良かったと思います。こうした外気を取り入れた施設作りや街づくりは、今後も増えていくのではないでしょうか。

この先、日本の街はどのように変わっていくとお考えですか?

変化ではなく、風土や文化がより色濃く出る街になるのが望ましいと思います。今までは、どこに行っても東京のような街ばかりで、どこの駅に降り立っても同じ景色でしたが、街ごとに“らしさ”を追求してほしいです。

札幌であれば、駅前通りの歩道を拡張して緑を増やし、歩道で飲食ができるようにするのもいいと思います。札幌は「都会でありながら空が広い」ので、それを生かすために建物の高さを制限するなど、土地に合ったデザインをすることで、札幌らしいアイデンティティが生まれるのではないでしょうか。

若手は多くの経験を通して育てていく

スタッフに対してどのようなことを求めますか?

「皆で夢を共有し、どうしたら楽しくなるか」を考えてほしいと思います。嫌々仕事をしてもいいものはできませんし、自分のためにもなりませんからね。若い人たちには、「自分がどういう役割を果たし、何をするか」を考えられるようになってほしいですし、人の幸せが自分の幸せだと感じられるような仕事をしてほしいと思います。

若手を育てる秘訣を教えてください。

若手に必要なのは、「ディスカッションと経験の折り合い」だと思います。自分の目で見たり相手の話を聞かないと、企画もアイデアも生まれませんので、一緒に現場に行って学ばせることが多いですね。

緊張感を持ってさまざまな体験をさせる方が人は育ちますし、数をこなしていくうちに一人でできるようになります。そのスピードが早いほど会社にとってはいいのですが、最低でも5年はかかると思います。

今後の取り組みについて教えてください。

現在、沖縄県石垣島で3万坪、宮古島で6500坪規模のリゾート開発をしていて、2023年~24年頃に完成する予定です。さらに、札幌のすすきの地区にあった商業施設の建て替えも手掛けており、こちらも2023年に完成予定です。いずれもかなり魅力的な施設になると思いますので、楽しみにしていてください。

取材日:2020年12月8日 ライター:八幡 智子

街制作室株式会社

  • 代表者名:代表取締役 国分 裕正
  • 設立年月:1996年10月
  • 資本金:2,600万円
  • 事業内容:建築設計・管理、商業施設の企画・運営など
  • 所在地:〒060-0042 北海道札幌市中央区大通西6丁目10-11 北都ビル8F
  • URL:https://machi-seisakushitsu.amebaownd.com/
  • お問い合わせ先:上記の「CONTACT US」へ
  • 電話番号(FAX):011-200-3201(011-200-3202)

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