良い競争相手がいてくれたほうが デジタルステージの活動の活力は大きくなる

東京
株式会社デジタルステージ 代表取締役社長 平野友康氏
 
市場にニーズがあるものを作り、売る。経済活動の基本中の基本だと思う。ところが、探せば、あるのだ。「自分たちがほしいと思えるようなものを、作る。それを貫けば売れるものになる」と言ってのける会社が、経営者が!映像と音を操り楽しむためのソフト『モーションダイブ』、デジタルカメラの写真を映画のように楽しむソフト『ライフ・ウィズ・フォトシネマ』、ホームページ制作ソフト『アイディー・フォー・ウェブライフ』などを世に送り出しているデジタルステージという会社。そしてその代表取締役である平野友康さんは、「デジタルステージの次回作を待ってくれているファンのみんなのために」PCソフトを開発している。そして、その開発手法は「自分たちがほしくなるようものを作る」なのである。

自分たちがほしいものを作り、売る

もともとはそこから出発したのですが、3年前に受注仕事からは一切手を引きました。現在は、自社企画・開発に特化した活動をしています。年に1本、デジタルステージのファンのみんなのために新作をリリースすることが私たちのミッションだと考えています。

ファンのために作るということは、市場動向とは無縁という意味ですか?

既存のマーケティングとは無縁という意味で、Yesです。PCの習得度に関係なく、普段ソフトウェアを買わない人たちが僕たちの製品を買ってくださっている。だから僕たちは、従来の市場でのシェアを上げるのではなく、その外に購買層を作り上げていくという考え方で活動しています。

それで、“ファン”という考え方になるわけですね。

そうですね。僕たちにはプレミアユーザーと呼ばれるメールマガジン登録者が数万人いて、常に彼らとコミュニケーションしています。こちらからは製品情報や開発状況の情報を発信し、登録者からは感想やアドバイスが返ってきます。デジタルステージのファンのみなさんが今何を求めているのかとか、新しいソフトをどれくらい楽しんでくれているのかといったことを日々考え、追求しています。

そして、そのファンの期待を裏切らない製品作りの着想の基本が「自分たちがほしくなるようなものを作る」?

そういうことです。デジタルステージがソフトウェア開発を手がけるきっかけとなった『モーションダイブ』は、僕がVJをやってみたくて作ったもの。『ライフ・ウィズ・フォトシネマ』も『アイディー・フォー・ウェブ』も、『こんなものあったら楽しいよね』という着想で生まれてます。もちろん当初は確信なんてありませんでした。が、実際にやってみると、楽しい、面白いと評価してくれて、デジタルステージの次回作を心待ちにしてくださる方々が形成されていったんです。

普通のソフトウェア・プロバイダーとは何かが違いますね。

そうですね、ゲームの世界に似ているように思います。ファンは心強いサポーターであると同時に、厳しい評価の眼を持った評論家でもあります。だからいつも真剣勝負ですよ。ちょっとでも手を抜いたら、すぐに見抜かれますし。

■8月6日、渋谷WOMBにて行われた『motion dive .tokyo console』のショーケースの模様

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開発スタッフは全員フリーランス

開発体制は?

常時動いている小規模開発のチームは4~5人体制で数チーム。“大作”と呼んでいる、年1回の新作開発のためには、30人前後のスタッフを集めています。すべてのプロジェクトで僕がリーダーを務めます。開発スタッフは、ほぼ全員がフリーランスです。

外部のスタッフで新製品開発とは……。機密漏洩などに心配はないのですか?

少なくともこれまで、トラブルは起こってません。大体、開発のアイデアは常時公開してる。いやむしろ、言いふらしている会社ですから(笑)。企業秘密の要であるはずの開発製品の仕様書だって、年に一度開く今度のイベントで展示しちゃいますしね。

スタッフはプロジェクトごとに集散するのですか?

基本はそうですが、古参もいます。見方を変えると、単に雇用形態がプロジェクト単位だというだけで、実際の現場では社員に負けないモチベーションやメンタリティを持っていますし。会社に縛られると能力を上手く発揮できないというタイプの人材が集まっているという言い方もできますね。

企画・開発だけでなく、販売戦略まで同じチームで手がけるのだそうですね。

そうです。実際の販売だってやります。スタッフには原価計算や利益率計算のノウハウも教えてますし、とにかく製品の頭から足先まで全部にかかわってもらっています。それがデジタルステージ流のやり方です。

新しい人材はどう確保しているのですか?

それが一番難しい問題ですね。現状は、結局、知人からの紹介などに頼っています。会社のホームページで常時募集していますから、クリエイターズステーション読者の方も、興味があったらぜひコンタクトしてほしいと思います。

■パッケージの画像(ID for WebLiFE)

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次回作はプレゼンテーションソフト

次回作は?

プレゼンテーションソフトです。

ビジネスソフト?意外ですね。

うん、そうかもしれない。これまでは日常生活を楽しくするものだったので、そろそろお仕事の役に立つものもいいんじゃない?ということです。これまでのテーマは“身近な人と幸せになろう”で、今度は“お仕事で幸せになろう”。ほぼ、僕たち開発スタッフの年齢の加算に歩みを合わせています(笑)。もう少しすると子供が生まれたりしますから、その時はエデュケーションソフトを手がけることになるでしょうね。

デジタルステージ作のビジネスソフトですかあ。インパクトありそうですね。

かなりヘンチョコリンなものが出るはずですよ(笑)。期待していてください。今は開発に向けてスタッフ全員が読書にいそしんでいるところです。

読書?

読書です。歴史や文化についてのものが多いです。毎日明け方ごろに、『そもそも仕事って何?』というテーマで、読書の感想を語り合うミーティングをしています。

正直、どんなソフトができあがるのか、まったくイメージできません。

そうでしょう。僕だってまだわかりません(笑)。僕たちの開発って、いつもそんな感じなんです。

『モーションダイブ』や『ライフ・ウィズ・フォトシネマ』を購入してくれた層と次回のプレゼンテーションソフトを購入する層は、まったく一致するんでしょうか?

まったく一緒ということはないでしょうね。これまでもそうでしたが、前回作の購入層の半分くらいは残りますが、半分はまったく入れ替わると思います。それが、ある意味の活性化につながっているのだと思います

■パッケージの画像(LiFE)

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一緒に市場を育てる競争相手がほしい

今後のビジョンは?

今切実に感じているのは、うちのような会社が増えてほしいということです。数万人のファンを大切にして、数十万人に増やす努力はするけど数百万人の顧客は望まない。ジャンルにもこだわらずに、使ってみて楽しいもの、使って幸せになれるようなソフトを作る会社がもっとあってもいいと思います。

それは、ファンを奪い合う競合を望むことになりませんか?

いや、むしろ市場を一緒に広げられると思います。『モーションダイブ』が出たころはVJソフトというジャンル自体がなくて、販売店では置き場をどうしたらいいのかまったくわからない状況でした。それが、『モーションダイブ』のフォローアー的なソフトが出現することによって、マーケット自体が確立し、育ちました。『モーションダイブ』の売上げも、それに呼応するように伸びたんです。良い競争相手がいてくれたほうが、デジタルステージの活動の活力は大きくなると思います。日本は本来欧米よりもソフトウェアのようなミニマルなデザインが得意な土台があるはずなので、それを今のITベンチャーとは違う形で生かす人がもっとたくさん出てきてもいいと思います。

いまや、老いも若きも、日に6時間はパソコンのモニターを見つめている。平野さんは、「その割には、OSもインターフェースも、すごく良くない。もっと良くできるはずだと思うんです」と語る。シンプルで、強力な行動原理だと思う。会社を“秘密基地”と位置付け、事実、厨房付、常時寝泊り可能なオフィスにしたて、志を一にするクリエイターたちが賑やかに出入りする会社になっている。“ITベンチャー”などという用語とはまったくの対極にいる平野さんやその仲間たちが着想し、作り上げ、楽しく販売するソフトウェアは、これからも私たちの日常と非日常を意外な形で楽しく、幸せにしてくれること間違いなし、と思うのである。

株式会社デジタルステージ

    • 代表取締役社長:平野友康
    • 業務内容:
      • パソコン用の企画・開発・販売
      • デジタルコンテンツの企画・制作
      • オリジナルグッズ等の企画・制作・販売
      • インターネットラジオの発信
      • イベントの企画・制作・運営
      • プログラム・映像・音楽・デザインの制作
      • デジタルクリエイターのマネージメント
  
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