グラフィック2018.10.17

今までにないものを世の中に残す デザインの領域を飛び越えた「ものづくり」に挑戦

札幌
合同会社タジマコウコクシャ 代表社員 田嶋英明氏
事業内容、デザイン制作、印刷物制作、サイン製作、家具製作……?! 札幌のデザイン会社である合同会社タジマコウコクシャには、デザインの領域を飛び越えて様々な「ちょっと変わったものづくり」の仕事が集まり、時には同業であるデザイナーからの依頼もあると言います。今回は代表の田嶋英明(たじまひであき)さんに、ご自身のキャリアや独立のきっかけ、同社へ集まる「ものづくり」への想いなどをお聞きました。

写真台紙制作会社、印刷会社でものづくりとデザインに触れ、デザイナーを志す

ご自身のキャリアを教えてください

22歳で、写真台紙を作る会社に就職しました。写真館などで記念撮影をすると立派な台紙に入って出来上がってきますよね、その台紙です。写真台紙の制作は製本の基本であると同時に箔押しや型抜きといった手作業でのものづくりでもあります。また、たまたま描いた会社案内の挿絵を見て社長が「Macもやってみろ」と言ってくれて、初めてMacにも触れました。ここでものづくりの仕事の魅力や創造性を豊かにすることなどを学びました。元々絵をかくことが好きでデザインについても興味があったので、最終的に出来上がった「モノ」が残るデザインの仕事って良いな、と思うようになりました。

元々デザイナー志望というわけではなかったのですね

その会社でデザインとものづくりに触れてデザイナーを志し、印刷会社に転職しました。でもその時すでに29歳で、当時は年齢を理由に制作部ではなく営業部への配属となりました。がっかりしなかったと言えば嘘になりますね。ただ、デザインというものは何も制作サイドだけで作るものではないと思っています。特に商業デザインに関しては営業がクライアントからニーズをヒアリングしたりデザイナーに指示を出したりとハンドリングを行いますので、印刷営業の仕事にも割とすんなり溶け込むことができました。また、私は前職で制作サイドにいましたし、実際にMacでデータ制作の経験もあったので、データについて理解している営業としてクライアントからも社内からも重宝されました。その後インテリア会社への転職を経て、2010年に広告制作会社として独立、5年後の2015年に合同会社として法人化しました。

41歳でクリエイターとして独立
意外な需要があった「サイン製作」

【サリーズカップケーキ】ファザードテント製作
デザイン・製作:合同会社タジマコウコクシャ

独立のきっかけは何だったのでしょうか?

もっと企画とデザインを中心とした仕事をしたいと思ってインテリア会社の販促企画へ転職し、本格的にデザイン業務を行っていたのですが、ほどなくして会社が倒産してしまったのです。それを機会に独立しました。その時点でもう40歳を超えていましたし、転職してまた一から仕事を始めるよりは、今まで印刷会社で制作を中から見ていた経験とインテリア会社で外に向けて広告を扱った経験を活かして自分でやっていこうと自然と思いました。

独立も一からの出発のように感じますが……

もちろんドキドキはしましたよ。印刷会社を辞めてから時間が経っていたのでお客さんもゼロでしたし。でもインテリア会社に勤めている時に、仕事を作るためのクライアントとのコミュニケーションの取り方についてしっかり学んでいたので不安は少なかったですね。今どき、一昔前の「御用聞き営業スタイル」はうるさいだけです。情報をもらいたいならこちらも情報を提供しなくてはいけません。お互いにとって有益なコミュニケーションをとりながらクライアントの「情報」を得て、見込みを作っていくことが大切なのです。そうやって丁寧にコミュニケーションをとっていけば仕事は作れるだろうと思っていました。

現在はどのような仕事が中心ですか?

現在は印刷物のグラフィックデザイン、Webサイト制作、サイン製作の3つが中心です。
サインとは店舗の看板のことです。独立時はサイン製作については考えていなかったのですが、意外と需要があるものだなという感想です。独立後の初仕事で飲食店オープン時の制作関係を依頼されてチラシ、DM、ロゴなどを作ったのですが、そのロゴをとても気に入っていただいて、同じイメージで看板も作ってもらえないかと頼まれたのがサイン製作を行うようになったきっかけです。看板業者さんに頼むと時間がかかるということで私に声がかかったのですが、デザインはしたことがあっても、実際に実物を製作するとなるとなかなか大変です。サインの種類や素材について勉強したり、外注先を探したり……。最初はアクリル板などで手作りできるレベルのサイン製作から始めましたが、とにかく依頼された仕事を必死にやる→さらに大きなサインの依頼が来る→外注先を探して対応する→できることが増える→仕事の依頼が増える、そんな流れでサインの仕事が増えてきました。もちろん、デザインからできますし、それをわかりやすい形で提案できたことも仕事が増えた理由だと思っています。

「ちょっと変わったものづくり」の仕事が集まる
新しいものを世に残そうとしているデザイナーを応援したい

白石合同庁舎【元気カフェ】家具製作
設計:株式会社ノーザンクロス 酒井秀治 アトリエオンド一級建築士事務所 大島 亘
デザイン:伊藤千織デザイン事務所 伊藤千織
製作:合同会社タジマコウコクシャ

サインに限らず、様々な「モノ」を製作されているとお聞きしました

実は、私が元請けとなってデザイナーや設計士から仕事を依頼されることも多いのです。デザイナーの私にどうしてデザイナーから発注が来るのか、印刷会社やサイン業者がある中でどうして私に印刷物やサイン製作の仕事が集まるのかというと、企画やデザインはしたものの仕様が複雑なのか通常の業者には断られてしまって「なんとかして実現できないか?」と相談をいただくケースが多いのです。私は断れない性格で、まずは「何とかしたい、何とかできないか?」と思ってしまうんです。基本的にイラストレーターでデザインできるものは何でも対応したいと思っています。そうこうしていると今までやったこともない変わった仕事が次々と舞い込んできます。きっとデザイナー自身も自分でデザインしながら「これは普通の業者には断られるだろうな」と思っているようなもの(笑)。でもそうやって今までにない新しいものを世の中に出そうとしている人達に対して「やったことがないからできません」なんて簡単には言いたくありません。

ちょっと変わった仕事が多いとのことですが、印象に残っている仕事はありますか?

すすきののスペインバルから、「お店の入り口を、闘牛士の赤いマントの中に入るイメージにしたい」という依頼を受けました。これも大変でした。まず外に設置できる適切な素材がありません。10社以上断られてやっと素材を見つけたと思ったら今度は縫製会社に断られます。皆、今までやったことがないことは何かあったら困るので慎重になりますよね。でもお店のオーナーも設計士も絶対にやりたいということで、何社も断られた後、最後はカーテンの縫製工場へ飛び込んでお願いしました。今でもすすきののお店にかかっていますよ。
また、最近は地元の子どもたちが作ったタイルアートを使った店舗サイン製作も行いました。他社が作った支柱へタイルアートを取り付けるので、こちらも何かあっては困ると業者さんからは断られてしまっていた案件です。支柱の強度がわからないなら調べればいいじゃないですか。私が実際にスコップで地面を掘り基礎を調べ、強度を確認してからサイン製作を行いました。他にも家具やテント、ドックランの製作など、広告制作業と言いながら「ものづくり」まで含む仕事が本当に多いです。

トータルデザインでストーリーを紡ぐ それがデザイナーの本来あるべき姿

【ひこま豚食堂&精肉店 Boodeli】サイン製作
デザイン:ありまデザイン
製作:合同会社タジマコウコクシャ

幅広い仕事をされていますが、最初から今の形を目指されていたのでしょうか

自分で思っていた形とは良い意味でかなり離れたところに来ていると思っています。最近では「田島さんは何をやっている人?」と聞かれたらデザイナーではなく「広告制作業」と答えているくらいですから。でもデザイナーとは本来そういう立ち位置であるべきだと思っています。クライアントの一番近くに立って、クライアントの伝えたいことを形にする。伝える方法は何百通りとあります。かっこいいデザインを作れるだけじゃダメですし、紙が得意とかWebが得意とかそういことでもありません。目的を達成するためのデザインでストーリーを紡ぎ、そのデザインの根拠をクライアントや消費者に対してきちんと伝えなければいけません。今後デザイナーとして多くの企業に求められ、残っていくのはそういったことを丁寧にできるデザイナーだと思います。

今後の展望について教えてください

昔は色々ビジョンもありましたが、実は今はあまり考えていません。先ほども言った通り、自分のビジョンを超えたところに来てしまっている感もありますし。今まで依頼されたことを何とか形にしようと一生懸命やってきましたが、今も同じでとにかく目の前の仕事に一生懸命に、自分にできることは何でもやってみようという気持ちで取り組んでいます。納期と予算さえ合えば実現できないことは何もないと思っていますよ。次はどんな新しいものづくりに出会えるのだろうと毎日ワクワクしています。

【株式会社カムズコンストラクション】内照式ファザードサイン製作
デザイン・製作:合同会社タジマコウコクシャ

 

取材日:2018年9月21日 ライター:小山佐知子

 

合同会社タジマコウコクシャ

  • 代表者名:代表社員 田嶋英明
  • 設立年:2015年
  • 事業内容:デザイン全般、サイン、印刷全般、Webサイト制作、店舗設計、販売企画、販売促進サポートなど
  • 所在地:北海道札幌市北区新琴似3条12丁目
  • TEL:011-577-0049
  • URL:http://www.tazimakoukokusya.com/
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