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消費者の感情に訴えかける「リテイルテック」で、日本の小売業を元気にしたい

東京
株式会社フェズ 代表取締役 伊丹 順平氏
デジタルな手法と現場の知見を融合し、人と商品の新たな出会いを作る。株式会社フェズが展開する「リテイルテック」は、他社にない発想で小売業界の可能性を広げています。代表取締役の伊丹順平さんは、P&Gで流通の現場を、Googleでウェブマーケティングの最前線をそれぞれ経験し起業。高校時代までは野球に打ち込み、地元の強豪校に所属して春の甲子園センバツ大会に出場した異色の経歴の持ち主でもあります。そのキャリアから生まれた事業と会社、そして小売業界の未来へ向けた熱い思いについて、お話をうかがいました。

店内を素通りしようとするお客さんの「感情」を変える

貴社が展開する「リテイルテック」とは、どのような技術を指すのでしょうか。

店内のサイネージやウェブ広告などを活用し、消費者が持つ情緒的な部分にクリエイティブの力で訴えかけていく方法を「リテイルテック」と呼んでいます。商品を手にしたお客さんがどのような感情で物を買うのかということを突き詰めて考え、購買に結びつけることで小売業に貢献していくという考え方です。

消費者が持つ情緒的な部分?

はい。例えば、ドラッグストアに行ったときのことをイメージしてみてください。日頃から「ダイエットしたいな」と思っていても、店に入った目的が「洗剤を買うこと」だったら、ダイエットにまつわる商品には目が行きませんよね。店舗側からすると、そうした機会損失は非常にもったいない。しかしサイネージを使えば、素通りしようとするお客さんに「目の前にある商品がダイエットに役立つ」ことを伝えることができます。「売れ筋ランキング」など店内に表示する情報を工夫して何を買えばいいのかを示唆し、お客さんの感情を変えるということにも取り組んでいます。さらにその前段階では、ウェブ広告などによる集客とも連動させています。

確かにドラッグストアへ行くときには、「何を買うか」という目的が明確になっていることが多いですね。店内にはさまざまな商品があるので、ふと別の目的を思い出しても、何を買えばいいのかすぐには分からないこともあります。

とは言え、「面白い」と感じるだけでは購買までつながりません。「痩せたい」「肌をきれいにしたい」といった潜在的に持っている悩みを結び付けなければいけない。単純にシャンプーの CM映像を店内で見ただけで「買いたい」とはなりませんよね。「消費者の潜在的な悩みに訴えかけるメッセージをクリエイティブによって表現する」ことが重要です。

地域経済の活性化から世界展開までをサポート

こうした新しい手法を展開する必要があると考えるようになった背景は?

率直に言って日本の小売業は弱体化し続けています。人口が減少し競争過多になっていく中で、新しい投資もできずに苦しんでいる企業が多い。海外ではメジャーになってきた無人店舗などの開発も日本は遅れていますよね。こうした状況を、従来の広告やクリエイティブだけで解決するのは難しいと思っています。

無人店舗でも、消費者の感情を動かして購買行動に変えるような技術が必要だということですか?

いえ、実は僕はそこまで考えていなくて。日本の小売業の役割として、最も重要なのは「地域の活性化」だと思うんです。お客さんと店員さんが話をしてコミュニケーションを図る。そうした地域密着型のビジネスであることに小売業の意味があります。日本の小売業にある程度、無人店舗が広がっていったとしても、主力となるのはやはり、人を雇ってビジネスを展開していくスタイルでしょう。特に地方は、小売業から人が消えると経済が成り立ちません。雇用を創出して、より多くの商品を買ってもらえる状態にし、地域経済を回してコミュニケーションを活性化する。そうした世界を、デジタルを軸にして実現したいと考えています。

独自開発されているアプリ「SCAPPY」も印象的ですね。バーコードをスキャンするだけで、日本語で書かれた商品説明を翻訳できるとうかがいました。

日本の商品は、インバウンドを含め海外の方に非常に興味を持たれています。しかし商品説明が日本語のみであることが多く、「どんな商品で、どんな用途に使えるのか」がなかなか伝わりません。SCAPPYを使えば、アプリをダウンロードしバーコードを読み取るだけで、その人の言語に合わせて商品説明が表示されます。この機能によって日本の商品をさらに広め、リピート購入にもつなげていきたいと考えています。

小売業が海外展開を図る上でも心強い武器となりそうです。

海外の店舗では、商品説明をするスタッフが現地の人であるケースも多いです。お客さんだけでなくスタッフにも、SCAPPYを使うことで商品理解を深めてもらえると思います。現在はタイ語のみに対応していますが、将来的にはより幅広くアップデートしていけるでしょう。

P&Gで得た「現場の知見」と、Googleで知った「ITの可能性」

起業に至るまでの伊丹さんのキャリアについても教えてください。遡ると、高校時代は甲子園に出場した経験もあるそうですね。

はい。小学校4年生のときに、後の母校が春のセンバツでベスト4になったんです。それを見て感動し、「自分もこのチームに入って甲子園へ行きたい」と思うようになったのですが、その高校は県内でも有数の進学校。「野球をするため」に必死で勉強しました。入学後は1学年で約40人の部員がいるという環境の中で、レギュラーになるために猛練習。そうした「努力をして結果を得る」という過程を経験したことは、今のビジネスにも大いに生かされています。

その後は東京理科大学を経て、新卒でP&Gに入社されています。

P&Gでは営業職として、さまざまな小売店の現場を回りました。自社商品の販促企画を考えたり、ときには店員さんと一緒に売り場へ出たりと、泥臭い営業をしていましたね。そうこうするうちに、入社4年目でGoogleからヘッドハンティングされて。

ちなみに当時、すでにITの知見もお持ちだったのですか?

いえ、まったくありませんでした。GoogleでITの未来や可能性を知ったんです。「自分も新しい世界を作れるかもしれない」と感じて、起業への思いを持つきっかけとなりましたね。Google では主にメーカーさんのマーケティングサポートを担当し、P&G時代に得た小売業の現場での知見をかけ合わせて、現在につながる事業のアイデアを形にしていきました。

世界的大手の2社で、リアルな現場とITによる課題解決を経験してきた強みは大きいですよね。

そうですね。ITに詳しくても、小売業の「各論」まで分かっている人はそんなにはいないと思います。マーケティングや広告のやり方を探るために、例えば大手コンビニのトップだって、たまには自分でレジ打ちをするわけですよ。でも「オムニチャネルがどうだ」とか言っている IT系の経営者で、小売りの現場に入ったことがある人はほとんどいない。フェズでは僕も含めて、とにかくみんな現場に行くし、売り場で起きていることをしっかり観察しています。これは自分たちの強みだと思っています。

「エンジニアリング」や「マーケティング」も語れるクリエイターに

組織作りにおいては、どのようなことを工夫していますか?

メンバーそれぞれに、「5年後、10年後に自分が何をしたいか」を語ってもらい、そこに対して会社がどんなポジションを提供できるかを考えています。今はやりたいことが見つからないという人にも、ふわっとでもいいから、夢や目標を掲げてもらう。例えば「将来は中国で居酒屋を経営したい」と話すメンバーもいます。思いを明確にして走ったほうが良い結果を出せるし、そこに向けた軌道修正もしやすくなりますから。

そのためにはコミュニケーションを密にして会話を続けていく必要がありますよね。マネジメント上の負担は決して小さくはないと思いますが。

フェズという会社を形作るためには必要なことですし、この規模ならまだまだできます。さらに組織が大きくなっていたときにも続けていけるかどうかは、これからの課題ですね。ちなみに、こうした風土を大切にしてきた結果、うちは創業からこれまで離職者ゼロなんです。せっかくリスクを取ってベンチャーに入社しているんだから、みんなには遠い将来の理想を常にイメージしてもらいたいし、それを一緒に実現していけるような会社であり続けたいと思っています。

今後の事業拡大に向けては、どんな人材が欲しいと考えていますか?

「ディレクションができる人」ですね。クリエイティブの面でも、マネジメントの面でも。「お客さんの感情を動かすために新しいフォーマットを作ろう」とか、「マーケティングの考え方をもとにして新たな提案を形にしよう」といったことを考え、人を巻き込んで実践できる人材が欲しいです。ただ、最初からすべての要素を求める必要はないと思っています。例えばデザイナーの知見があれば、マーケティングの知識は後からいくらでも身につけることができる。デザインの知識が6だとすれば、エンジニアリングを1くらいかじって、さらにマーケティングの考え方を3身につけて、10にしていくイメージです。

「技術やマーケティングのことも語れるクリエイター」になれれば強いですよね。

そうですね。エンジニアリングとマーケティングはうちで鍛えられるので、ぜひ興味を持って向かってきてほしいです。現在活躍しているインターン生も、半年間マーケティングを勉強し、それをベースにエンジニアとしての技術を身につけています。「学べる環境」であることには自信を持っています。

ありがとうございます。最後に、ぜひ今後の展望を教えてください。

今はいろいろなテストを繰り返しているフェーズです。今期中には実証実験をすべて終わらせて、来期から一気にスケール(拡大)させていきたいと思っています。事業展開はさまざまな方向へ進化していくかもしれませんが、すべてリテイルテックの考え方に紐付いたものになるはずです。2019年にはいろいろな場面でフェズの名前を轟かられるよう、頑張っていきたいと思います。

取材日:2018年3月28日 ライター:多田慎介

株式会社フェズ

  • 代表者名:代表取締役 伊丹 順平
  • 設立年月:2015年12月
  • 事業内容:リテイルテック事業、広告代理事業、メディア事業
  • 所在地:千代田区神田紺屋町グランファースト神田紺屋町3F
  • URL:http://www.fez-inc.jp/
  • 問い合わせ先:上記コーポレートサイト内「CONTACT」より
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