職種その他2017.07.19

ライフエンディングサービスに新たな視点の価値を創出

札幌
株式会社メモリアルむらもと 代表取締役社長 村本 隆雄 氏
葬祭業からスタートし、現在では葬儀に関わる様々な事業への横展開を積極的に進めている株式会社メモリアルむらもと。誰しも必ず訪れる別れの時間。それが心安らかなものになるよう会社を挙げて心がけていることや、寺院と葬祭関連の販促プロモーションに特化した新事業の確立、業界全体の課題など、代表取締役の村本隆雄(むらもとたかお)さんにお話をお聞きしました。

北海道No.1を目指して、将来ゆくゆくは全国へ

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事業内容を教えていただけますか

葬儀施行を中心に、飲食や仏壇販売など葬儀に関連する様々な事業を展開しています。 かねてよりあるメモリアル香華殿という葬祭場が札幌市とその近郊で3軒、また家族葬に特化したウィズハウスという斎場が8軒あります。
本社がある恵庭(えにわ)市には「いちえ」という釜めし専門店があり、ここでは当社の葬儀や法要のお食事も作っていますし、生花とスイーツの「イチエフラワー&スイーツ」、供養に関する情報発信の店として「仏壇・仏具専門店 供養ギャラリー リ・ノイ」、など、全て葬儀に関わる分野での事業展開を進めています。さらに現在は、寺社・葬祭関連に特化した総合広告代理店「テラスデザイン」を立ち上げました。

村本社長は3代目とお聞きしましたが、初めから事業を継がれるおつもりでしたか?

そうですね。葬儀屋の息子として生まれ、ずっと葬儀を見て育ちましたから。学校卒業後、一度、切り花の市場に就職して一年半ほど働いたのち当社に入社しました。花と仏壇の店を新しく出すというタイミングで「戻ってきて手伝え」という事になったのです。
入社後はまず生花部門で5~6年、その後葬儀の現場に入り、総務・企画を経て2010年に社長となりました。

特に社長に就任された2010年以降、斎場や店舗も一気に増えて積極的に事業拡大されているように思えます。

単純に北海道で一番の専門葬儀社になりたいと思ってやってきました。当時も地元である恵庭市ではある程度のシェアを頂いていましたが、北海道においてはやはり札幌でトップを取らないと!と思ったのです。
社長就任前からことあるごとに「北海道で1番を目指す!」と言って回っていました。
当時は誰も真にも受けていませんでしたし、「片田舎の葬儀屋のせがれが何を言ってるんだ」という視線をひしひしと感じていましたが(笑)。
そんな気持ちで取り組み続け、現在ではおかげさまでホールも増え、北海道での葬儀施行件数1番になることができました。

葬祭業はマニュアルのない究極のサービス業

御社の「WITH HOUSE(ウィズハウス)」で提案している“家族葬"という言葉、最近よく耳にします。

「家族葬」とは家族や親せきのみで執り行う小規模な葬儀のことを指していますが、実は明確な定義や決まりがあるわけではありません。当社で考える「家族葬」は、故人と家族が向き合える時間を何よりも尊重する葬儀のことです。
葬儀の喪主や施主などの遺族はとても忙しいです。悲しみの中にありながら、葬儀会社はどこに頼むのか、日程はいつにするのか、内容はどうするのかとどんどん物事が進みます。葬儀中も進行や弔問客の対応で息着く暇もありません。火葬が終わって自宅に戻り、やっと冷静な自分に戻った時、疲れ果てた自分と目の前には親の遺影と小さな骨箱。そこでふと「これでよかったのだろうか?自分の親をちゃんと送ってあげることができたのだろうか?」と心にぽっかり穴が開いてしまったりするのです。

葬儀はあっという間に進むので、後から「もっとこうしておけば……」と思う方が多いと。

葬儀会社の存在意義とは、残された家族の日常のリスタートのお手伝いだと思うのです。亡くなった方との別れは悲しいけれど、葬儀の中で心の葛藤を一つ一つ整理して、「よし、これからも頑張ろう!」と日常に戻っていくお手伝いができるような葬儀を作りたい、“個人と家族が最後に一緒に過ごす理想の時間”を提供したいという思いで作ったのが「WITH HOUSE(ウィズハウス)」なのです。

「WITH HOUSE」は“自分の家"と言う意味なのですね。

施設内の設備一つ一つにもそのような思いがたくさんこめられています。例えば自宅と同じようにリビングやキッチンもあり、自由に飲み物も飲めますがスタッフのサービス範囲はあえて絞っています。スタッフはドリンクサービスやキッチンの洗い物はしません。
考えてみてください。故人のために遠くから自宅へ足を運んでくれた方々へは、葬儀会社のスタッフではなく自分でお茶を出して迎えるのが本来の姿です。そうした時に「実はあなたのお父さんにはすっかりお世話になってさ。」なんて話を初めて聞かせてもらって、自分の知らなかった親の背中が見えてくるものです。儀式ではない、自宅での家族の時間だからこそそれを通して家族や親せきの距離が縮まり、これからもそのつながりを大切にしていこうと再認識することができるのです。

クリエイティブの強化で「価値を伝える」媒体を目指す

現在制作中のテラスデザインのWebサイト。

Webサイトや、販促ツールなどのグラフィックデザインにもかなり力を入れているように見受けられます。

葬儀関係のWebサイトは商品サービスの中身ではなくてプライスがどんと前面に出ているものがほとんどです。今の時代、葬儀規模は縮小傾向にあって、訴求内容も「うちなら19万円でできる」「じゃあこっちは15万円だ」とダンピングのようになっています。 葬儀費用をコスト感覚で少しでも安く済ませたいというお客様がいるのは事実ですし、それ自体が悪いという訳ではありあませんが、私たちの考える「WITH HOUSE」のお客様はそうではないと思っています。大切な家族を今できる精一杯のことで送ってあげたいという気持ちは、今も昔も変わりません。その気持ちに寄り添い、価格ではなく、我々であれば何ができるのかがしっかりと伝わるものでなくてはいけないと思っています。
ブライダル業界と葬儀業界は似ている部分がありますが、ブライダル業界にはゼクシイという強力な媒体があります。ゼクシイでは価格よりもまずはどんな結婚式をすることができるのかといったベネフィットの部分を強く訴求しています。 我々の業界には残念ながらそういった媒体はないので、そこは自前で訴求していかなくてはいけません。ただキレイな、格好良いWebサイトを作りたいのではなく、我々自身が媒体となって私たちのそういった想いをきちんと伝えていかなければいけないのです。そのための手段としてクリエイティブには力を入れている自負がありますし、これからもさらに重要になってくると思います。

定期的に発行している会報誌も自社で制作されてるとか。かなりボリュームのある冊子ですね。

葬儀を含めライフエンディングサービスに関わる情報を会員の方へご紹介しています。この冊子やWebサイトのブラッシュアップもこれからさらに必要だと考えていて、そのためにクリエイティブチームの強化にも取り組んできました。
最初は社内のクリエイティブチームはたった2人だったのですが、フェローズさんからもグラフィックデザイナーをご紹介してもらい、今では7 名ほどのチームになり、さらには広報・広告活動、プロモーションを専門に取り組むための新事業「テラスデザイン」として独立分社しました。

葬儀の広告や訴求は難しい印象があります。

葬儀は事前の段取りやリサーチはし辛いものです。しかし、だからと言って我々もそこに対して何もしないと言うわけにはいきません。
今まで葬儀会社は人が亡くなって葬儀を受注するところだけを重要視していました。でもそれではあまりにも狭すぎますし、業界としてもそれだけでは立ち行かなくなってきています。葬儀受注前のプロモーションや、その後のフォローについても考えていかなくてはいけません。そういったことを片手間ではなく、専従のスタッフをおいてしっかりと取り組むために立ち上げたのが前述の「テラスデザイン」です。

業界の枠にとらわれない、新たな取り組みと訴求

テラスデザインとはどのような事業なのですか。

テラスデザインの業態は「寺社・葬祭関連に特化した総合広告代理店」です。
Webサイトや会報誌、チラシなどの販促物の自社制作はもちろん、プロモーション活動の一環として、葬儀後に出てくる仏壇や墓石、相続などの法的問題の解決や、生前の部分でお客様が不便に思っていること、改善できたらいいなと思っていることを掘り起こしていきたいと思っています。
テラスデザインのメイン事業として考えていることの一つに、地域のお寺とのアライアンス構築があります。現在、檀家離れに困っているお寺は非常に多いです。この檀家離れを食い止めつつ、地域の人たちにもメリットがあり、更に当社の潜在的な顧客になって頂けるような仕組みを考えています。

具体的にはどのようなことを考えているのですか?

例えば、お寺の敷地内に明るいイメージの樹木葬霊園を作れば、天気が良いから、散歩のついでにお参りに行こう。と、お寺に行く回数は増えると思いませんか。また、お寺にお友達と通えるようなカルチャークラブを作れば、お寺が毎日通えるコミュニティの場になります。
そうするとお寺の住職や奥さんともつながりができて、日常生活のちょっとした相談などもできるようになります。本来お寺と檀家はそういった日常的な関わりがあってこそ、葬儀もお願いしましょうかとなるものです。まずは檀家さんに身近に感じてもらえるお寺に変わっていかなくてはいけません。テラスデザインではそのためのサポートやプロモーションをして行きたいと思っています。そしてその取り組みは当社にとっても潜在的な顧客を増やすことに繋がっていくと思います。
「テラス」とはリビングと庭を結ぶ空間のことです。テラスデザインもお客様とお寺を、地域とコミュニティを、企業とサービスを、全てのものを未来へ繋ぐ架け橋になりたいと思っています。

会社が大きくなるとその分ご苦労も多いと思いますが、大変なことはありますか?

マーケットの中で戦っていくためにはある程度の規模が必要ですが、会社規模が大きくなればその分小回りが利かなくなり自分の目も届き辛くなります。ですのでフットワーク軽くそれぞれの業態を深堀りできるように、業種ごとに分社化をしてそれぞれの社長に任せるようにしています。それぞれの会社でグループの統一理念である「感動創造」をしっかり意識してさえしてくれれば、私の役割はグループ全体がどうあるかの舵取りだけでいいと思っています。 会社が大きくなることによる苦労は色々ありましたが、その結果として感じたのは、自由度を奪うような組織は監視する方もされる方もお互いに辛いという事です。
「感動創造」という事での議論さえできていれば、その後のことはそれぞれのスタッフが自分たちで考えて取り組んでいってくれます。本当の感動と言うのはマニュアルからではなく人と人との心の触れ合いの中から生まれるものです。スタッフ一人一人が自分で考え、感性を磨き、お客様の想いを形にしていける会社でありたいと思います。

取材日:2017年6月28日 ライター:小山佐知子

株式会社メモリアルむらもと

  • 代表取締役 村本 隆雄(むらもと たかお)
  • 設立年月:1960年7月
  • 事業内容:葬祭業、飲食業、サービス業、広告代理業
  • 所在地:〒161-1417 恵庭市駒場町6丁目4番6号
  • 電話番号:0123-33-1116
  • URL:http://www.memokai.jp
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