職種その他2017.05.24

精度の高い3Dデータ化技術で多分野の需要を開拓し躍進

福岡
株式会社アシスト 常務取締役(shrink店長) 田中 俊輔 氏
3Dスキャナーと3Dプリンターを用い、西日本で初めて人物フィギュア制作専門店をスタートさせた株式会社アシスト。新機軸の事業を展開するなかで幅広いニーズに対応しながら事業を拡げています。常務取締役であり店舗の代表を務める田中俊輔(たなか しゅんすけ)さんに、起業にいたる経緯、事業の特徴、今後の展望についてお話を伺いました。

印刷事業を経て3Dプリンターの性能を活かすビジネスを創出

西日本初という人物フィギュア制作専門店を始めるきっかけはどのようなものでしたか?

私は、もともと、代表が経営していた長崎の印刷会社に勤めていました。業界的には市場の先細りが予想されていて、何か柱になる新たなサービスを始めなければという危機感がありました。代表も私も、模型作り、機械いじりが好きでしたので、印刷の知識と立体物を組み合わせたサービスができないかと模索していました。そんな矢先、3Dプリンターの開発特許が切れて一気に価格が下がり始めて、代表も私も「これだ!」ということになり、この事業を始めることになりました。

それで現在の会社を立ち上げたわけですね。

厳密に言うと、3年ほどはもとの印刷事業と並行して準備を進めていました。新機軸のサービスを展開するなら情報を発信しやすい土地がいいだろうということで、福岡に拠点を移すことにし、3Dプリンターの技術を広く知ってもらうのに実店舗が必要だと考え、物件を探しました。そして、2013年の6月、福岡市中央区赤坂に「shrink」をオープンしたのが、実質的なスタートです。

新しいサービスを始める苦労もあったのではないかと思いますが。

3Dスキャナーと3Dプリンターで何ができるかを、世間に知ってもらうところから始めなければなりませんでしたから、その点が最初の難関だったかもしれません。私たち自身も、いったいどういうサービスが求められているのか、見えていない部分がありましたので、手探り状態ではありました。そこで、まずは「町の写真館の3D版」をやってみようと。つまり、結婚とか還暦祝いとかそういう節目の記念の品として、お客様そっくりのフィギュアを制作するサービスを始めたのです。スタート当初は認知度がないため、積極的に営業活動を行っていました。地域の人たちになじみのある博多山笠のフィギュアを作って民芸館に飾ってもらったり、人の集まる動物園や水族館に動物、魚類のフィギュアを置いてもらったり。

事業の進展に伴って潜在的なニーズを次々に発掘

ホームページでも写真や動画で事業内容をわかりやすく紹介していますよね。

そうですね。うちのホームページを見て、問い合わせをしてくださるお客様は多いです。「こういうことはできないか?」とお問い合わせをいただくうちに、私たちも気づかなかったニーズが徐々に顕在化してきました。車の好きな方から「生産中止になった車のパーツを再現してほしい」とか、製造業を営む会社から「部材の図面を作りたいので、スキャンして3Dデータを作ってほしい」とか。研究機関から「プランクトンの模型を作ってほしい」というリクエストをいただいたこともあって、そのときにはプレパラートに入れられた顕微鏡写真から3Dデータを作成したのですが、個体の側面の画像はあっても正面がなかったため、さらに文献資料を探すのに苦労しました。

御社の強みは?

二点あります。一つは、実店舗を有していること。実際に制作物を見たり触ったりしてもらえると、当社のサービスに対するお客様の理解度がぐんとアップしますから。場合によっては、3Dプリンターでの立体物制作工程をお見せすることもあります。もう一つは、幅広い対応力。物を持って来られて「3Dデータを作ってほしい」という要望があった場合、どの程度の精度を求められているのかを判断する必要があります。スマホで画像を見せるのが目的なら、一瞬の見た目が一番大事なので、複雑で重いデータにする必要はない。また、模型を作る際も、求められる強度や予算に合わせて最適なプリンターを選び取らねばなりません。今は、プリンターもマルチマテリアルで、アルミなどの金属、アクリル樹脂、陶器のような質感をもつ材質といった具合に多様化が進んでいますから。高水準の技術力と独自のノウハウの蓄積があるから、さまざまなご要望に迅速かつ正確に対応できるんです。

各自の能力と個性を存分に発揮できる環境が発展をもたらす

スタッフ個々の技術力が高くないといけませんね。

当社は、前職がフィギュア原型制作、機械設計、芸術方面など、さまざまな専門性をもつ人材が集まったエキスパート集団。データ作成、立体物制作に関して、それぞれが得意分野の強みを活かして活躍しています。デジタル技術とはいえ、一枚のイラストから3Dデータを起こすケースなどでは、担当者のイメージ力やセンスに負う面もある業務ですから、大手企業にいて自分のやりたいことがなかなかできずにいたという人が大いに個性と能力を発揮できるわけです。仕事のやりがいは自慢できる会社だと思います。

今後の事業展開は?

医療分野と文化財保護目的のサービスが、事業の新たな柱になってくるものと考えています。医療分野で言うと、中国を始めとしてアジア圏が日本の医療サービスのクオリティの高さに注目し利用が増加中です。市場は今後も拡大するものと見ていいでしょう。一種類の大量生産ではなくさまざまな一点モノをスピーディーに制作するのに適している3Dプリンターは、患者さんの体格に合わせた人工乳房やコルセットなどを作る際にその特性を発揮できます。また、地域の行政組織からの要請で文化財の3Dデータ化にも取り組んでいるところです。修復の際の手がかりとして、後世に遺す資料として、文化財の3Dデータ化はますます必要性が高まるでしょう。今後を視野に入れつつ、店舗展開とスタッフ体制の拡充を図っていくつもりです。

クリエイターへ向けて、メッセージをお願いします。

クリエイターの方たちは、試作品を作る、プレゼンを行うといった場面を経験されていると思いますが、「百聞は一見にしかず」と言いますか、モノを実際に目で見て触れると、言葉で説明するより何倍も訴える力があります。3Dプリンターを使うことにより誰もが簡単に短い時間で試作品を作れる時代になりました。2016年は「VR元年」、「AR元年」と位置づけられた年となりましたが、技術革新のスピードが速い現在、おそらく遠くない将来、スマホに3Dスキャナー機能が加わる日が来るのではないかと考えております。あらゆるクリエイティブシーンで活用できる技術をいち早く取り入れる必要があるクリエイターのものづくりに、必要とされる存在になりたいと思います。

取材日: 2017年5月1日 ライター:堀 雅俊

株式会社アシスト(店舗名 shrink)

  • 代表者名:常務取締役(shrink店長) 田中俊輔(たなか しゅんすけ)
  • 設立年月:2013年6月
  • 事業内容:3Dデータ作成と3Dデータをもとにした立体物制作
  • 所在地:福岡県福岡市中央区赤坂2-2-45 赤坂シャトー松風101
  • URL:http://shrink-3d.com
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