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さて、今回は、「商標権」についての入門です。
前々回(第10回)で取り上げた「他人の作ったキャラクターの使用」の問題とも関係してきます。この連載では「権利」という言葉とそれが指すもの意味について、誤解しやすいポイントを再三取り上げてきました。
今回の「商標権」は、著作権と同様か、ひょっとしたらそれ以上に誤解されやすい「権利」です。そのため、前回までの記事をよく読んでいただいた上でなければ、なかなか理解しにくいかと思います。今回初めてお読みいただく方はもちろん、連載を毎回読んでいただいている方も、もう一度、復習する機会と捉えて、第1回から読み直していただければ幸いです。

商標とは

「商標」とは、大雑把に言えば、商用の品物やサービスを他のものと識別する記号です。そう聞けばわかった気になりますが、やや難しいのは「ネーミング」です。ネーミングは、ひとかたまりのネーミング自体を他のものと識別する記号と考えることも可能ですが、「いくつかの文字の配列」と捉えることもできるためです。たとえば「あいうえお」というネーミングは、「"あいうえお"のひとかたまり」と考えられますが、「ひらがなの"あ""い""う""え""お"を、一文字ずつその順番に配列したもの」と捉えることもできます。特に後者の場合だと、それが縦書きか横書きか、あるいはジグザグかといったことが問題になるわけです。

ここまで読んで法律家らしい屁理屈を弄しているように聞こえた方は正常な感覚の持ち主だと思います。実際に商標をめぐるトラブルが法廷まで持ち込まれたケースでも、「仮に当方が使っている商標が"あいうえお"だとしたら確かに貴方の商標を侵害することになる。だが、当方は"あいうえお"ではなくて、"あい"と"うえお"を並べているだけだ。だから商標侵害でない」という類の理屈を優秀な法律家が主張したことによって、裁判の形勢が一発逆転したこともあるのです。もちろん、一般的には、そこまで考える必要はないと思います。ただ、商標問題でのトラブルが意外に多いのは、こうした言葉の捉え方の問題があるからだということはご理解ください。

商標権

さて、本筋に戻りましょう。
一定の商標は、特許庁を通じて国に登録することで、「商標法」による特別の保護を受けることが出来ます(もっとも、登録をしていなくても、不正なコピー品等に対しては、「不正競争防止法」や民法の規定で保護されることもあります)。
このように様々な手段がありますが、最も重要なことは、「どんな保護を求めるにしても、自分が自分の物だと思う商標を守るには、たとえ特許庁に登録済みの商標であっても基本的にはすべて自分でアクションを起こさなければならない」ということです。例外中の例外、例えばコピー品が暴力団の資金源になっているというような特別な事情がない限り、国が自分の代わりに自分の商標が他人に使われていないか監視してくれるわけではありません。
「マルTM」マークをご覧になったことがあるかと思います。これは、「まだ国に登録完了していないけれど商標です」というマークですが、言い方を変えると、「もし他人が侵害してくればそれなりにコストを支払って排除するつもりだぞ」という威嚇であり、「侵害されないか監視しているよ」という注意書きでもあるわけです。
つまり、「商標を守る」というのは、どんな方法をとるにしても、それなりにコストがかかるのです。

ではそのコストの見返りに何が得られるのか?リスクの低減です。特に、いったん特許庁の審査を通って国に登録された商標(これを登録商標といい、「マルR」マークで示します)であれば、「他人の商標を侵害していない」という一種の認定がもらえます。
その他副次的なメリットとして、他人に商標を侵害されたときにクレームを入れやすくなるという利点がありますが、これは1つ前の段落でお話しした通り、結局その監視のコストは自分で負担しなければならないわけです。

「権利化」の誤解

以前にもお話ししましたが、クリエイターの方から、「キャラクターを作って商標登録してお金にならないか?」という質問を受けることがあります。こうした質問をされる方がよく口にする単語に「権利化」があります。ここでいう「権利化」には、「商標登録=権利化=それを売ったりライセンスしたりできる」という発想があります。これは間違った使い方ではないですが、それはあまりに一面的で甘い見方です。
なぜなら、その「権利」を経済的に意味のあるものにするためには、様々なコストと切り離すことができないからです。例えば「権利として活用するための、商品開発や営業のコスト」とか「商標が他人に侵害されていないか、常に監視するコスト」があります。こうしたコストを負担できる見込みがなければ、法律的には「権利」であっても、経済的に意味のある権利ではないわけです。

こうした「権利」についての誤解は、「肖像権」にも言えます。有名人の肖像であれば経済的な意味がありますが、一般人の肖像であればあまり経済的な意味はありません。もちろん法律的に「権利」として、何らかの形で保護される場合があります(例えば本人にとって不名誉な姿を写した写真など)が、それは経済的な意味での保護を狙ったものではないのです。法律的にはかなり内容の違う権利ですが、商標権と肖像権を並べてみることで、「権利」について理解しやすくなるのではないかと思います。

つまり、商標についても肖像権についても、「他人がそれを侵害してきたら、それによって生じた損害を賠償させる」という法律的な手順を踏んで、潜在的に金銭になる場合はありえます。が、実際にその賠償を得るための法律的な手順には、かなりのコスト負担(多くの場合、精神的・肉体的な負担も含めて)があり、経済的合理性があるといえる場合はほとんどないのです。

自分が(知らなかったか知っていたかは別にして)他人の商標や肖像権を侵害したとしても、それによって大きな利益を上げたり、世間の注目を集めたりしなければ、その他人から賠償請求される可能性は低いです(相手が意地になれば別ですが)。逆に言うと、ちゃんと登録していない商標や、肖像権に配慮しなかったときは、せっかく事業を軌道にのせたと思ったらそこでトラブル、という可能性が発生するわけです。そしてそのトラブルは事業がさらに成功し続ければし続けるほど傷口が広がってしまう恐れがあります。そのために、せっかくうまくいきかけた事業の勢いを止めてしまいかねないとなると、多くの潜在的な利益を失うことになりかねません。そのために、コストを負担して商標を登録したり、肖像権の処理をきちんとしておく意味があるのです。

「権利」のイメージ

このように「権利」は実体のあるものではなく、左手に「メリット=強制力」が、右手に「リスク=コスト」が乗っている天秤のような不安定で流動的なものであり、左右のバランスは状況に応じてゆれ続けます。ついでながら「契約」とは、こうした「権利」の揺れを少なくするための知恵なのです。

日本人には「権利」という概念はまだ馴染みが薄いために、「権利化」というだけでプラスの財産が生まれたように錯覚して舞い上がってしまうのは仕方ないところがあります。が、実際はそうではありません。当たり前のことですが、「すでに人気のある有力なキャラクターが商標登録され、ライセンス料で稼いでいる」ということと、「最近考えた新たなキャラクターを商標登録して、稼ぎたい」ということは、法律的には同じですが、全く別のことです。


Profile of 作田知樹(東京都行政書士会会員)

東京芸大卒。芸術家・クリエイターの知的財産管理やアートビジネスを専門とした法律コンサルタント。2000年より、アートスクールで講師/キャリアカウンセラーとして活躍したのち、2004年に日本初のボランティア法律家による芸術支援活動団体であるArts and Lawを設立、代表をつとめる。

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