職種その他2022.01.17

『魔女図鑑』に見る、魔女に対するイメージの断片

福岡
ライター
kousaka
香坂

皆様は「魔女」と聞くと、どのような人物を思い浮かべるだろうか?

 

今年は諸事情によりお正月らしいことができず、仕方なしに実家の整理などをしていたら、懐かしい絵本の存在を思い出した。

あれはたしか小学生のころ、同級生たちと図書館で競うように順番待ちをしていた本だ。

その名も『魔女図鑑』。

魔女図鑑 魔女になるための11のレッスン(金の星社YA絵本)

イギリスの作家であるマルカム・バード氏の著作を岡部史氏が翻訳したこちらの作品は、ほぼ正方形の重厚なハードカバーが特徴的である。

内容は、次の11のテーマごとに魔女の生態を細やかに紹介する、といった具合だ。

 

魔女になるための11のレッスン

 
  1. 魔女が選ぶべき住まい
  2. 魔女の台所
  3. 庭の手入れのやり方
  4. 占いの手法
  5. 魔法について
  6. 魔女間で共有されている古くからの言い伝え
  7. 美容の秘訣
  8. 魔女のファッション
  9. 魔女の趣味
  10. 魔女のお祭り
  11. 現代の魔女がどう暮らしているか

 

何より印象的なのは、ファンタジックな中にも「毒」が潜んでいるところ。

料理にハエの死がいやホコリ、足の爪、毒キノコなどが使われていたり、インテリアとしてわざと壊した家具を置いたり、アイシャドーを節約するために徹夜して目の下にクマを作る方法がおすすめされていたり……と、なかなかエキセントリックな魔女の生活ぶりが窺える。(一般向けと言わんばかりに代用食材まで紹介されており、その親切さが逆に“本物”をより強く連想させるあたりも巧みだと思う)

ビジュアル面に関しても、この本ではつとめて不気味に表現されている。

近年、フィクション世界における魔女は外見が人間と変わらない(何であれば特別美しい場合もある)ふうに描写されることも多いが、『魔女図鑑』の魔女たちは基本的におとぎ話に登場する老婆を想起させる風貌で、人間とは異なる生きものなのだと強調されているようだ。

そして、彼女たちはある程度仲間内の規律を守っている以外はひたすらにマイペースで、かつ自由である。そういう点が、当時子どもであった私たちの心にも魅力的に映ったのだろう。(何となく信ぴょう性のありそうな占いが載っている、というのも大きな要因ではあったけれども)

自ら住まいを整え、お菓子を作ったり占いをしたり、薬草を煎じたり。困った時には魔法も駆使しながら、猫にかえる、コウモリなどの仲間と気ままに過ごす。

作品によって外見や設定に違いはあるにしろ、こうして書き出すとフィクション世界における魔女のイメージはそれなりに一貫しているのだと気付かされる。

私もこの『魔女図鑑』やその他の作品に幼少期から触れ、魔女に対してすっかりメルヘンなイメージを抱いていた。

 

絵本とは異なる、歴史に刻まれた”魔女”のすがた

ただ、数年前地元福岡でも開催された『魔女の秘密展』に足を運んださいには、そんな自由を謳歌できなかった“魔女”たちの姿もありありと映し出されていて、衝撃を受けたことを覚えている。

『魔女の秘密展』”魔女”とは誰だったのか?(福岡市博物館)※会期終了

中世の魔女裁判等に関する知識は人並みにあったが、実際に用いられたとされる拷問器具や処刑道具を目の当たりにすると言い知れぬ感情が湧いてくるものだ。彼女、あるいは彼らがファンタジー世界に描かれるような“魔女”だったなら、きっとするりと逃げ延びることができただろうに。

(もちろん、展覧会としては決してショッキングな部分ばかりではなく、歴史や絵画、現代のアニメーション作品なども交えつつ、多角的に魔女を知ることができるとても興味深いものだった)

 

こういった異なるイメージを見比べて理解したのは、“魔女”には様々な意味があるということ。

 

人里を離れ、静かに、けれど悠々自適に日々の生活を楽しむ魔女。

時には人々が住む場所まで降りてきて、気まぐれにその存在を知らしめる魔女。

人々から異質なものと見なされ、理不尽とも言えるさだめを与えられた魔女。

 

人々の心のなかに、もしくは歴史のなかに。

それぞれが思い描く魔女の姿があり、多種多様に交わりあいながら今日のイメージに繋がっているのだ、と考えさせられる。

『魔女図鑑』もそのひとつとして、たくさんの子どもたちの胸に作者ならではの“魔女像”を残したに違いない。

プロフィール
ライター
香坂
オリジナル会葬礼状のライター業を経て、現在はWEB系のフリーライターとして活動中。漢字とひらがなのバランスに悩むのが好き。仕事におけるモットーは「わかりやすく、きれいに」。趣味はお酒・アイドル・展覧会鑑賞・化粧品・創作。

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