職種その他2020.11.27

アニメーション映画『Away』〜ラトビアからの言葉なき美しき映像世界

東京
編集ライター
海外暮らしと帰国してから
Joshy

自分が暮らした北ヨーロッパは、1年の約半分が冬である。暗くて長い冬は、人を家にこもらせ、時間の流れを止め、自分の内へと向かわせる。アニメーション映画『Away』を観た時、そんな北ヨーロッパ特有の内向性を感じた。

 Awayの監督ギンツ・ジルバロディスは、北ヨーロッパ・バルト3国のひとつラトビアで生まれ育った。8歳の頃からアニメーション制作を始め、これまでにショートアニメなど7本の作品を生み出してきたという。
 そんな彼が、3年半の歳月を費やして作り上げた長編デビュー作品がAwayだ。2019年の完成時、弱冠25歳だった青年が資金集めから監督・編集・音楽まで、全ての工程をひとりで行ったというから驚きだ。

 物語は、飛行機事故でたったひとり生きのびた主人公の小年が木にぶら下がっているところから始まる。謎の巨大な影が現れ、少年を飲み下そうとする。黒い影から逃れ、少年は飛べない小鳥とともに、森で見つけた地図を頼りにオートバイで島を疾走する……。

 Awayにはセリフが一切なく、美しい映像と音楽、効果音で物語が綴られていく。この手法は、時間の流れに静謐感を与え、うつし鏡の湖やメルヘンを思わせる不思議な泉など、少年が足を踏み入れる4つの世界は、どこにもない場所であるのに懐かしい、そんな独特の世界観を生み出すのに成功している。
 火山で有名なランサローテ島やアイスランドの自然、宮崎駿の『未来少年コナン』や高畑勲監督の『母をたずねて三千里』といった日本のアニメーション。ジルバロディス監督が実際に訪れ感銘を受けた場所、影響を受けたアニメーションや映画、ゲームなど多様な素材がAwayのインスピレーション源になっているという。

 ストーリーについて、ジルバロディス監督は「一人で島を旅している少年の物語は、ある意味で私にとって非常に個人的なもの。物語が、映画を作っている時の私の心の状態と非常に似ていることに気付きました。“黒い影”は、映画を作ることによる私の不安と恐怖とストレスです」と語っている。
 確かに、追い立てられながら前進する孤独な少年は、たったひとりで作品の制作と闘い続けたジルバロディス自身の姿と重なる部分がある。

 

作品を通して自分自身に出会う

 一方、少年を取り巻く黒い影、飛べない小鳥、ネコ、カメ、ゾウなどのキャラクターは、言葉で説明されることがない分、メタファー(比喩)のような役割を果たしている。
 各キャラクターが何を意味するか、少年が最後にたどり着く場所はどこなのかなど、Awayの中の多くは、受け手がどう感じるかに委ねられている。

 映像を追いながら、“黒い影”をどんなことをしていても心の片隅から離れない原稿の締め切りに投影している自分に気がついた(笑)。
 キャラクターやストーリーの設定が自由な分、観客はAwayを観ながら様々なことに思いを巡らせることができる。「自分とは何か?」「人はなんのために生きるのか」という問いかけを作品を通して発する、北ヨーロッパのアートが持つ内向性がAwayの根底にもあるように思える。プロットがはっきりしたアニメーションに慣れている頭を開放すれば、何も語られることがない映像の中で呟いている内なる声が聞こえるかもしれない。

 

 

 アヌシー国際映画祭グランプリをはじめ、海外で数々の賞を受賞したAwayは、12月11日から全国の映画館で公開される。
 創作することと日々向き合うクリエイターにこそ触れてみてほしい感性の世界だ。

 

プロフィール
編集ライター
Joshy
ヨーロッパに20年間滞在し、日本のメディアに情報を発信してきました。海外生活で経験したこと、帰国して感じたことを綴っています。

日本中のクリエイターを応援するメディアクリエイターズステーションをフォロー!

TOP