映像2020.08.19

未熟なふたりが創り上げた、ひと夏限りの儚い映画『ソワレ』

東京
フリーランス記者・作家
スーパーいわちゃんねる!クリ目版
岩崎
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 「ソワレ」とは主に舞台興行の夜公演を指す際に使われる言葉で、元は夕方〜日没後の時間帯を指すフランス語だそうだ。タイトル通り、この映画では夜のシーンが多く出てくるので、薄暗い映画館で見た方がより楽しめる作品だろう。

 俳優を志すも、オレオレ詐欺の片棒を担ぐなどして生活している主人公の翔太(村上虹郎)。ある夏、所属する劇団のメンバーとともに地元・和歌山の山奥にある高齢者施設(いわゆる老人ホーム)を訪れるが、そこで働く女性・タカラ(芋生悠)と出会う。祭りの日、翔太が迎えのためにタカラの家に行くと、彼女が実父に暴行されているところに遭遇。翔太が止めに入ったところで状況が一転。タカラの中で何かが変わったのか、衝動的に父を刺してしまう。翔太はタカラをかばうために手を取り、和歌山県内を逃走する。果たして2人の運命は!? ……という、聞いただけでハラハラドキドキするあらすじだ。

 翔太は俳優として培った演技力とコミュニケーション能力の使い道がズレている。詐欺の受け子として使ったり、逃避行のピンチの時は即興でアドリブしたりと、なんでそっちに行っちゃうかな〜(笑)という印象。対するタカラは純粋で素直。ただ、実父=毒親がいなければ普通の女の子でいられたんじゃないかな。翔太の登場がなければ、タカラの人生はもっと悲惨になっていただろうな、と思う。主演の村上さん・芋生さんそれぞれのキャスティングが役とベストマッチしており、自然体の芝居がとっても良い(語彙力の欠如)。

 個人的に、この作品のテーマは「未熟」だと思った。若いふたりがその幼さゆえに人生に迷い、戸惑い、悩む。その際たるものが「ヤバいことやったから逃げよう」という発想に現れてるかな、と。普通、男女がともに行動したら特別な感情が生まれてもおかしくはないが、このふたりに限ってはなかなかそのようにならない。それが愛おしく思える。多分、私は親戚のおばちゃんみたいな気分で見ていたと思う。

 和歌山の大人たちはそんな2人を静かに見守っている。大人たちもまた未熟な頃があり、ふたりとかつての自分の姿が重なって見えているのかも知れない。人間的成熟には若い頃にやんちゃすることが付きもの? と思ったり。できれば何事もなく穏やかに暮らしたいけど(笑)

 逃避行という緊張感漂う状況の中、「どことなく息苦しさを感じていたそれぞれの生活からの開放感」や「遅れてやってきた青春のキラキラ感」がスパイスとなっている。できれば警察から逃げまくるという経験は一生したくないけど、ちょっとだけ憧れる世界がそこにある。

 登場人物一人ひとりの人間臭さが(良い面も悪い面も)丁寧に描かれているのも、この作品の見どころ。個人的に気になるのは「タカラのお父さん、警察に見つかった時も尻出てたのかな……」ということ。しょーもない理由で情けない姿を晒さないといけない時があるのも人生かな、とちょっと思ったり。

 ラストシーン、舞台の終演のようなじんわりとした感動が胸に押し寄せた。ふたりのその後が気になる。これが運命ってヤツか……!!

 豊原功補氏や小泉今日子氏、外山文治監督らが立ち上げた「新世界合同会社」第1回プロデュース作品ということで、次回作も楽しみである。

『ソワレ』

キャスト:
村上虹郎 芋生 悠
岡部たかし 康 すおん 塚原大助 花王おさむ 田川可奈美 
江口のりこ 石橋けい 山本浩司

監督・脚本:外山文治
配給・宣伝:東京テアトル PG12+  

© 2020ソワレフィルムパートナーズ soiree-movie.jp

8月28日(金)より
テアトル新宿、テアトル梅田、シネ・リーブル神戸ほか全国公開

プロフィール
フリーランス記者・作家
岩崎
フリーランス記者・作家。メディア関係の仕事を経て、書いて撮って編集・デザインして発信できる「平面系マルチクリエイター」を目指す平成元年生まれ。巳年・蠍座の女。本家ブログは「スーパーいわちゃんねる!」で検索。宮城県出身、東京都在住。和歌山といえば梅干し。紀州産南高梅を使ったはちみつ梅は、皮が柔らかく優しい甘味がたまらないので緑茶と一緒にいただくのがオススメ。

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