映像2019.05.08

地方はものすごく元気だし、人々の心の機微があって豊かだと思います

vol.002
映画『僕に、会いたかった』監督
Yoshinari Nishikori
錦織 良成
拡大

© 2019「僕に、会いたかった」製作委員会

拡大

© 2019「僕に、会いたかった」製作委員会

拡大

© 2019「僕に、会いたかった」製作委員会

拡大

© 2019「僕に、会いたかった」製作委員会

拡大

© 2019「僕に、会いたかった」製作委員会

拡大

© 2019「僕に、会いたかった」製作委員会

TAKAHIRO主演の映画『僕に、会いたかった』のメガホンをとった錦織良成(にしこおりよしなり)監督。「作品をつくるときに大切なのは、監督である僕自身が感じたり感動したことを伝えること」と語る彼が、これまでも幾度ともなく地元・島根を舞台にしてきた理由とは? 映画に込められた地方への思いや隠岐諸島の魅力、TAKAHIROの意外な素顔などを教えてもらいました。

 

TAKAHIRO演じる徹と彼の周りにいる島の人たちの優しさを描いた作品

 

――映画『僕に、会いたかった』は、島根県隠岐島で暮らす人々の心の機微や絆、優しさが描かれていましたね。

監督になってからずっと変わらないのですが、なんでもない人たちの生活の、ちょっとした一歩や気づき、そういう中にある温かみや大切にしなければならないものを描きたいという気持ちがあります。それは今回も変わらないのですが、実は声高に叫ぶのは少し恥ずかしくて……(笑)。音楽や絵画、絵本などは、メッセージをハッキリ提示しなくても受け取り手が想像し、感じ取ってくれますが、僕は映画も同じだと思っています。この作品を見て、それぞれが何か大切なものを感じてもらいたいです。

 

――本作は、記憶を失った徹と彼を温かく見守る島民や島に留学して来た高校生たちとの触れ合いを描く物語。監督の作品にしては珍しく、“記憶喪失”という大きなフックがあることに驚きました。

僕の作品といえば「起伏があまりない」なんて言われるんですが、今回の主人公は“記憶喪失”と大きな謎を抱えています。とはいっても通常のサスペンス作品とは違い、謎解きがテーマではありません。あくまでも主人公の徹と彼の周りにいる人たちの人生を描くことが大事で。特別な人生を歩んでいるように見える彼が、我々となんら変わらずに一生懸命生きているということを伝えたいと思いこの設定になりました。“記憶喪失”であるからこそ、絆や愛情がより伝わりやすくなったのでは? 実際、完成した作品を見ると、彼を見守る島の人々の温かさがより表現できていたと思います。

 

――島の人々の優しさ……。それは実際に隠岐島で撮影していた監督も感じられたことですか?

隠岐、島前にある県立隠岐島前高等学校には、実際に島留学という日本全国・世界各国からの生徒を募集している制度があり、国会で取り上げられるなど大成功を収めています。僕は取材をしていて、もちろんカリキュラムや先生方の信念も素晴らしいとは思いましたが、それだけではなく、島の人たちのオープンマインドな精神が大きなカギを握っているのではと思ったんです。みなさん真っすぐで、今、流行りの忖度なんてありません(笑)。心で感じたまま行動をしています。それが、子どもたちの成長にとってすごく大事なことになっているんだと思いました。作品をつくるときに大切なのは、監督である僕自身が感じたり感動したことを伝えることだと考えているので、そのときの取材で感じた想いを形にしようと決めました。

 

理屈でなく感じたことを表現するTAKAHIROの表情の変化に注目

© 2019「僕に、会いたかった」製作委員会

 

――記憶喪失という難しい役を演じたTAKAHIROさんの演技は、監督の目にどのように映りました?

素晴らしかったですね。表情がバツグンにいいんですよ。秘密が分かったときやエンディングのあの何とも言えない表情はそう簡単には出せません。TAKAHIROくん自身、ものすごく気持ちが豊かなため、リハーサルから泣きっぱなしだったんですよ。でも今回はあまり泣いてもらいたくなかったので、リハーサルで思いっ切り泣いてもらって、本番では涙を枯らしてもらいました。現場で“泣き待ち”というのはよく聞きますが、まさかの“泣きやみ待ち”(笑)。それだけ感受性が強いんだと思いますね。

 

――TAKAHIROさんが演じた徹の母親役を演じた松坂慶子さんの演技も素晴らしかったです。

台本を書いていたときから、松坂さんをイメージしていました。あの包み込むような優しさは松坂さんならでは。ちなみに松坂さんとTAKAHIROくん、役になりきるという共通点がありましたね。理屈ではないんですよ。感じたことを表現しているというか……。物語の本質や人々の心の機微、島の空気などを感じたことが役になって出てきている。とくにわかりやすいのが、後半のTAKAHIROくんの表情。どんどん顔が変わっていくので注目してください。

地方の映画=観光誘致というイメージを打ち破りたい

――監督といえば出身地・島根県を舞台にした作品が多いですが、地元を舞台にする映画をなぜ撮り続けているのですか?

地方が舞台の映画といえば、観光誘致というイメージがつきものですが、それをどうしても打ち破りたいんです。世界を見渡すと、ローカルで撮る映画と都心で撮る映画を分けて考えているのは日本くらい。海外ではローカル映画なんて珍しくもないのです。でも、日本で地方を舞台にする作品を撮ると、元気がない地方に注目を集めたいという思いがあるのか?とよく聞かれます。でもそれは逆で、地方はものすごく元気だし人々の心の機微があって豊かだし、映画を撮るうえで素材は多いです。それを作品を通じて伝えられたらと思っています。

 

――そのように感じ始めたのは2002年に公開されてヒットを記録した『白い船』からですか?

あの作品は大きなきっかけでしたね。『白い船』は、島根県を舞台にした小学生と大人たちの交流を描いた作品で、主役は当時オーディションで選ばれた濱田岳くんなんですが、宣伝もすべて手作業だったんですよ。最初は20館くらいで公開したのですがあれよあれよと人気になり、小さい漁村にロケ地めぐりといって何万もの人が訪れたりして……。そういう現象を目の当たりにして、映画の力に驚きましたし、観客が本当に見たい作品には流行なんて関係ないんだと感じました。2010年に公開した『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』でも、舞台となった島根だけではなく、岐阜県やほかの地方の方々が、「これは私たちの映画だ」と言ってくださって……。舞台こそ島根ですが、作品を通じて描いている人々の絆や温かさはどの地方も同じで、自分たちを投影しやすかったんだと思います。僕は、そういう地方の方が本当に見たい作品をつくりたいんですよ。

 

――では監督の思いと真逆の、近年のあるジャンルでヒット作が生まれるとそのジャンルの作品がたくさんつくられる映画の現状についてどう思われますか?

これは怖いですよね。先ほども言いましたが、僕の作品はよく起伏がないと言われるのですが、それを言われるたびにいかに日本の方々は起伏のある作品ばかり見ているんだ、と感じます。映画祭などでヨーロッパやイラン映画を見ると、何も起こらない作品がたくさんあるんですよ。でも日本はとにかくハッピーエンドや事件性がある作品が多くて……。僕もそういう作品は好きですが、そればっかり見ていて大丈夫なのかな?という思いはあります。そういう作品に慣れてしまうことで、ちょっとした心のひだみたいな感情の流れが分からなくなってしまうのではないかなと。本来、価値観は多様化していかないといけないのに、今は多様化しているように見えて一元化されている気がします。食べ物や衣類なども同じで、最近はどこに行っても同じものを食べて同じものを着て……というつまらなさがある。そして、映画もそうなりつつあることが怖いと思います。みんなが同じ方向ばかり見るのではなく、それぞれが色んな視点を持っているからこそバランスが良くなると思うので、もっと多様性のある社会になればいいなと思います。

 

クリエイターは自分に正直で、最後までブレずにいることが大事

 

 

――監督はデビューが遅かったんですよね?

元々演劇が好きで監督や脚本家になりたかったのですが、色々あり、30歳ごろから本格的に脚本を書いてVシネマの監督をするようになりました。劇場監督デビューは35歳のとき、映画『BUGS』でした。その後、どうしても描きたかったテーマで『守ってあげたい』を撮ることになり、自分の企画を映像化することの楽しさを知りました。今では8割方、自分で企画して脚本を書いて撮っています。ありがたいことに色んな企画に声をかけていただくのですが、自分がやりたくて進めている作品があるときは新しい企画がどれだけ魅力的でも、今手掛けている作品がおろそかになってしまいそうで断っていますね。自分が本当に撮りたいと思った気持ちを裏切らないように、今やっていることを全うするようにしています。

 

――そんな監督にとってクリエイターとして大事なものは何だと思いますか?

自分に正直であることです。最後まで自分の気持ちにブレずにいられるかというのは本当に大事。色んなことに迎合していけばいくほど、クリエイターの道は狭くなっていくんですよ。とはいえ、“頑固になれ”といっているのではなく、どこかで自分の目的をつくって、それに向かって頑張ることが大事かなと。そのためには取材をすることが大切。取材をしていると、周りから色んな意見が出てきても自分の思いを説明する術になってくれるので。自分のやりたいことの道を上手くつくっていくのが監督だと思います。僕なんて、やりたいことがまだまだたくさんあります。それが形になるようにひとつひとつ取材をして、ていねいにものづくりをしていきたいですね。

クレジット

取材日:2019年4月12日 ライター:玉置晴子 撮影:(スチール)あらいだいすけ、(ムービー)村上光廣

 

『僕に、会いたかった』

© 2019「僕に、会いたかった」製作委員会

 

監督: 錦織良成 
エグゼクティヴ・プロデューサー: EXILE HIRO  
脚本: 錦織良成、秋山真太郎 
出演:TAKAHIRO  山口まゆ 柴田杏花 板垣瑞生 浦上晟周 小野花梨
      秋山真太郎 黒川芽以 小市慢太郎 / 松坂慶子

配給:LDH PICTURES

© 2019「僕に、会いたかった」製作委員会

5月10日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー

プロフィール
映画『僕に、会いたかった』監督
錦織 良成
1962年生まれ、島根県出身。1996年『BUGS』で映画監督デビュー。1999年に婦人自衛官の成長を描いた『守ってあげたい!』を監督し、一躍注目を集める。2002年には地元・島根県を舞台にした『白い船』を手掛け、その年のミニシアター邦画作品部門の全国興行成績第1位を記録。その後も、『ミラクルバナナ』(2005年)、『うん、何?』(2008年)、『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』(2010年)、『わさお』(2011年)、『渾身』(2013年)など人との絆をていねいに描いた作品をつくり続けている。2016年には『たたら侍』(2017年)がモントリオール世界映画祭ワールド・コンペティション部門最優秀芸術賞を受賞。

日本中のクリエイターを元気にするメディアクリエイターズステーションをフォロー!

Viva! 映画をもっと見る

TOP