映像2016.09.28

あの頃はバナナだった何もかも

とりとめないわ 第13話
とりとめないわ 門田陽

バナナがいっぽんありました あおいみなみのそらのした こどもがふたりでとりやっこ バナナはツルンととんでった バナナはどこへいったかな バナナンバナナンバナナ

子どもの頃、僕はこの「とんでったバナナ(作詞片岡輝、作曲桜井順)」という曲が大好きでよく歌っていました。当時一緒に住んでいた祖母に「バナナはどこ行ったの?」と聞いたら「たぶん台湾」と言われ、しばらくの間「台湾に行きたい、絶対連れてって、連れてって~」とムチャを言う孫の僕に「簡単にはムリ」と悲しそうにこたえる祖母。昭和40年代の思い出です。

それにしてもバナナほどいじり甲斐のあるフルーツは他にはないと思います。由緒正しい日本のギャグのひとつ「そんなバナナ」を始め、個人的名曲うしろゆびさされ組の「バナナの涙」(あ~、ゆうゆは今頃どうしているのだろうか?)、早口言葉「バナナの謎はまだ謎なのだぞ」、あとはマジカルバナナってゲームも流行りましたよね(あれ?解答者に蓮舫がいたような気がするな)。いずれもバナナがキーワード!大活躍のバナナマンもおそらくバナナだからうまくいったのだと思います。リンゴマンでもスイカマンでもないのが良かった。栗マンだともはや饅頭の域だし。やはりバナナマンはバナナマンです。

そして何よりバナナといえば、バナナの皮で滑って転ぶ古典的芸能を見逃すわけにはいきません。これについてはさすがに多くの人が興味を持つようで、テレビのバラエティでも実験していた気がしますし、2010年には「バナナの皮はなぜすべるのか?」という書物(黒木夏美著)が出ています。さらに北里大学の馬渕名誉教授がバナナの皮の摩擦係数を測定して実際に滑りやすいことを証明したことで2014年のイグノーベル賞を受賞しています。 で、そもそもバナナの皮で滑る元ネタ(?)は誰が最初だったのでしょうか。これは諸説あるようですが、カタチとして残っているのは1915年のチャップリンの作品「アルコール先生海水浴の巻」です。DVDを取り寄せて見ましたがしっかり滑ってます。しかもチャップリンらしく繰り返ししつこく何度も滑ってます。このネタ、かなり気に入ったようで(そりゃそうですよね、100年後も使われるネタですから!)その後もチャップリンは自分の映画「偽牧師(1923年)」でまたバナナの皮で滑っています。実生活でバナナの皮が落ちている場面に遭遇したことはありませんが、シンプルな笑いは不滅です。100年笑えるネタなんて他に知りません。

さてこの夏、ちょっとの間でしたが仕事で台湾に行きました。初めての台湾。行きの飛行機の中で突然冒頭の歌が頭をよぎりました。 バナナンバナナンバ~ナナ♫

ところが現地に着くとそれほどバナナを見かけません。イメージ的にはバナナの国のはずだったのですが、調べたところなんと今では台湾のバナナの生産量は世界で38位です(国際連合食糧農業機関2013年調べ)。街の果物屋さんでもメインの場所にはマンゴーやパイナップルが置かれていて、バナナは申し訳なさげに傍らにいました。でも、それでも、本場で買った台湾バナナを食べながら昔の祖母の顔や姿や声を思うことができました。バナナに素直に感謝です。

ところで、台湾で仲良くなったドライバーのリョーさんから聞いた台湾の新しい格言「台湾では一つの村に一つのセブンイレブンがあると言われている」の意味についてはまたの機会に。

Profile of 門田 陽(かどた あきら)

門田陽

電通第5CRプランニング局
クリエーティヴ・ディレクター/コピーライター
1963年福岡市生まれ。
福岡大学人文学部卒業後、(株)西鉄エージェンシー、(株)仲畑広告制作所、(株)電通九州を経て現在に至る。
TCC新人賞、TCC審査委委員長賞、FCC最高賞、ACC金賞、広告電通賞他多数受賞。2015年より福岡大学広報戦略アドバイザーも務める。
趣味は、落語鑑賞と相撲観戦。チャームポイントは、くっきりとしたほうれい線。

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