映像2021.06.02

由紀さおり映画初主演!地方創生ムービー『ブルーヘブンを君に』。秦建日子監督が語る「僕が地方のよさを描きたい理由」

Vol.027
映画『ブルーヘブンを君に』監督
Takehiko Hata
秦 建日子
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岐阜県の雄大な空と大地を舞台に、夢を諦めない人生の素晴らしさを描く秦建日子(はた たけひこ)監督作『ブルーヘブンを君に』。映画を通じて地域の良さを再発見してもらう「地方創生ムービー」の第3弾である本作は、岐阜県生まれの“青いバラ”や、スカイスポーツ“ハングライダー”など岐阜県の西濃地域の魅力が、たっぷりと詰まっています。

物語の主人公は世界初の青いバラ「ブルーヘブン」の生みの親・鷺坂冬子(さぎさか ふゆこ)。由紀さおりさんが演じる彼女は、孫や家族に囲まれて暮らす普通のおばあちゃんでした。ただがんが再発し余命半年と知った冬子は、孫を巻き込みながら「人生のやり残したことをする」ために走り出すのです。

今回は秦監督に、地方創生ムービーを作り続ける意味、映画初主演となる由紀さんについて、映画作りで大事にしていることなど語ってもらいました。

 

空と川とバラの3つの青でエンターテイメント作品を

地方創生ムービー第3弾である本作。岐阜県の西濃地域を舞台にするきっかけはあったのですか?

僕の監督デビュー作が同じく地方創生ムービーで三重県の桑名市を舞台にした「クハナ!」(’16年)という作品で、地元の有志や市民の方々と一緒に作り上げました。

桑名市は岐阜県との県境だったこともあり、そのときに参加してくださっていた方に岐阜県の方がいらっしゃって「ぜひ岐阜県でも」とお声がけいただき、その方の地元である西濃地域を訪ねたり、映画についての講演をしているうちに岐阜でも仲間が増えていった感じです。

まず舞台が最初に決まったんですね。

そうですね。最初にお声がけしてくださった方が、スカイスポーツのお仕事をされていました。岐阜県にある濃尾平野を見下ろす池田山が、国際大会を開くくらい日本のスカイスポーツのメッカだと教えていただき、岐阜の空を飛ぶのもいいなと思ったんです。

しかしスカイスポーツだけでは話の広がりが自分の中で計算できなかったので、そこからは多くの方とお話しをして、題材を見つけていきました。例えば岐阜県の知事とはかなり初期の段階でお会いし、そのときに「岐阜県には木曽三川という雄大な3つの川が並行して通っている。日本でも有数の風光明媚な場所」とおっしゃっていたのが印象的で、川を描くのもいいなと思いました。

ちなみにその木曽三川が最後に合流して海に流れ込むのが桑名市なんですよ。僕的には、桑名市でも一本撮っているのでその上流を描くこともロマンがあるなって思って(笑)。

こうして2つの題材が決まりました。ただ私の中で軸は3つあった方がいいと思い探していたら、世界で初めての“青いバラ”が岐阜県で誕生していたと。空と川とバラ、“3つの青”を描くエンターテインメント作品を作ろうと思いました。

今回もオールロケで撮影ですよね。岐阜の雄大な自然を思いっきり堪能できました。

冬子のモデルとなった、青いバラを作った河本純子さんのご協力の下、バラ農園や家も実際のものを使わせていただきました。

オールロケーションでやらせていただくと、場所を貸してくださった方たちの気持ちもひとつ映画に乗ってくると思うので、僕はこだわりたいと常々思っています。由紀さおりさん演じる冬子が空から見た西濃地域。

細かいところでは毎日の散歩コースである川沿いなど、あの場所で撮影するから成立して、なおかつ説得力がある画(え)になるんです。これ以上のリアリティはないですよ。

映画をより身近に感じてもらえるとうれしいです

そもそもの話ですが、監督は東京都出身ですよね。なぜ地方を描こうと思ったのですか?

僕はいわゆるお盆や正月に帰省する故郷がなかったので、帰る場所がある人に憧れていました、というのは理由になりますかね?そして、「夢を掴みたければとりあえず東京へ!」という考えにも納得がいっていなかったんですよ。

東京一極集中なんて何かおかしい、本当に東京だけ見ていて人としての幸せを追求できるのか、と感じていたので、地方に目を向けるきっかけを作りたいと思いました。正直、圧倒的に地方の方が豊かだと心から思うんですよ。

空気もいいし、景色も素晴らしい、食べるものも美味しいし、住環境もどう考えても地方の方が人間らしい暮らしができます。最近だとオンラインが発達してリモートで働けるようになっているのにもかかわらず、東京の方が優位というのがよくわからなくて……。

地方にいる「東京に行ったほうが幸せになれる気がしている」若者に対して、一石を投じられたらと思い、始めました。

地方創生と映画はどのように結びついていったのですか?

そもそも友人が結婚相手の仕事の都合で、東京から三重県桑名市に引っ越しをしたんですよ。そこで地元の友だちを作りたいと、町おこしの企画などを行うサークルに参加し、“映画で町おこし”というアイディアが誕生したことから始まります。

その人が地方に興味を持っている僕のことを紹介してくれ、皆さんと交流を持ち始めてから具体的に動き出しました。

ちなみにサークルの中に桑名市役所の方がいて、映画ってどう作るのか、費用は、町おこしになるのか……などざっくばらんに話していたら、一度遊びに来ませんか? という話になって。行かせていただいたら地道に映画制作のご縁が広がっていった感じです。

地方の協力の下での映画作りは、費用の面など大変なことは多そうですが……。

とくに1本目の「クハナ!」のときはひどかったですね(笑)。とてもじゃないですが、商業監督が手を出すようなものではないと思いました。

地元の方もいくらお金を集められるか分からないし、制作までこじつけても赤字になったりお蔵入りになる可能性もある。最終的なリスクを誰が受け入れるのかが焦点になり、何度も話し合いを行いました。結果的に全国公開をされたので表面上はビジネスが成立している映画と何ら変わらなく見えますが、結果が出るまでは大変リスキーな自主映画でした(笑)。

今でも覚えているのが、地元の方々を集めて「皆さんが汗をかいたことが無駄になる可能性もありますが、後でもっとお金を払えみたいなことは一切言いません。最悪、僕がマンションを売って赤字を埋めますんで、ポジティブな気持ちでやりましょう」と宣言したことですね。これを言わないと企画そのものを諦めるしかないという状態で。

でも、それが楽しいところもあったんですよ。『ブルーヘブンを君に』はそのときに比べたらやり方も分かっていたので、そこまで大変ではなかったです。

岐阜の方もたくさん出演されていましたね。

地元でもオーディションをして、1000人以上の方が参加してくださいました。とはいってもこれも地方創生ムービーならではです。いわゆるよくあるオーディションとは違い、カメラが回っている前で何かをする楽しさを体感してもらい、それを面白いと感じたら撮影に来てもらうみたいな「映画を身近に感じてもらう体験」の一環として行いました。

どうしても映画は一般の人からは縁遠くて「地元でロケを撮影していても、よそから勝手にやってきてパッと終えて帰っていく」という。自分たちとはあまり関係のないものと捉えている方も多かった。

だから出たいと思う人が出られる映画にしようと。その方が映画を身近に感じ興味を持ってもらえるはずだと考えました。

撮影地がテロップで記載されていたのも、その効果を狙っていたのですね。

映画だけのリアリティだと、テロップが入っているのはおかしいことなんですよ。物語を見ていて、えっ?と思う人もいたでしょう。ただ、逆にあれが入ることで、地元が応援している作品なんだと多くの人に分かってもらえる。その方がプラスだと思うんです。

あと「故郷のいい思い出」として記憶に残るというか。これは地方創生ムービーならではかもしれないですね。

 

由紀さんはクスリと笑わせる最高のコメディエンヌ

“青いバラ”の生みの親である河本純子さんをモデルとした冬子を演じたのは由紀さおりさん。由紀さんの優しい雰囲気がピッタリでした。

私が昔からお仕事をご一緒したいと思っていた由紀さんにアタックしたら、快くOKをいただいて本当にうれしかったです。

この作品は、気持ちが明るくなり、前向きに人生と向き合える話にしたいと思っていたので、どんな悲しいことも補ってあまりあるポジティブなエネルギーに満ちた由紀さんがピッタリだったんですよ。「8時だョ!全員集合」(TBS系)を見て育った僕にとって、由紀さんはこの世代ナンバーワンのコメディエンヌですから。

映像を見たら、由紀さんらしいクスリと笑えて元気を与えてくれる冬子さんになっていてすごく幸せでした。もちろん大和田獏さんや寺脇康文さん、おかやまはじめさんら大人のキャストたちは、皆さん味のある方ばかりで本当に心強かったです。

そんな冬子を支える孫2人をBOYS AND MENの小林豊さんと本田剛文さんが好演していました。

BOYS AND MENは東海地区を中心に活動しているアイドルで、以前からライブなどに足を運んでいたんですよ。なんとなくメンバーのキャラクターを分かっていたので、今回はこの2人に出てもらいました。

彼らも地方を盛り上げようと活動しているので、僕らと気持ちが同じ。やはりこういう作品だからこそ、同じ気持ちでいる人と一緒にがんばりたいという思いはありました。

監督のお気に入りのシーンを教えてください。

たくさんありますね。あえて言えば、パラグライダーで飛んだ冬子さんをキャッチするために、着陸予定地に集合した川越(大和田獏)や夏芽の父(寺脇康文)、冬子さんの息子(おかやまはじめ)がケンカするシーンは好きです。

だだっ広い河川敷で皆さんが思いっきり楽しんで演じておられて。いくつになっても変わらない、大人のかわいらしさが出ているシーンになったと思います。

あとやっぱり主題歌。僕はどうしてもベット・ミドラーの「ローズ」のカバーで、由紀さんが歌う「愛は花、君はその種子」を使用したかったんですよ。タイトルを始め、すべてがこの作品にマッチしていて、これ以外はないと。

それが叶ったときはうれしかったですね。ちなみに、この着陸地での撮影の時は、ずっと「愛は花、君はその種子」を流しながら撮影していました。いい思い出です。

 

おべっかを使わず常に自分の気持ちに正直に

秦監督ご自身についてもお聞きします。そもそもなぜこの業界に入られたのですか?

会社員時代に、つかこうへいさんと会って「つかさんみたいになりたい」と思い、この仕事を選びました。

つまり映画が好きだったとか舞台が好きだったのではなく、“つかこうへいの真似をしたい”というのが僕の原点です。とはいっても演劇で食べていけるとは思えなかった。

やりたい気持ちはあるけど無理だと思い、テレビドラマの脚本を書きながら演劇をやっていましたね。

ドラマ、演劇、映画での脚本や監督、小説家など多彩な経歴ですよね。

次第に小説も書いたりして、今のように監督もするようになっていったのですが、正直、僕はあまり肩書きを気にしていなくて……。

今回は監督とシナリオのどちらも担当していますが、ひとつの作品を作るのは一人ではできないので、何をするかより誰と組むかの方が大事だと思います。僕が逆立ちしても書けないような面白い脚本があってそれを監督できるならやりたいですし、僕にない引き出しを持っている監督の下、脚本を書けるチャンスがあるならそれをやってみたい。どんな化学反応が起こるかを考えてやることを選んでいる感じです。

ゆくゆくは、若い脚本家や監督のステップアップを応援するような、プロデュース業もやってみたいと思っています。

あえてひとつに絞らないのが秦流なんですね。

これは僕なりのバランスの取り方で……。脚本は役者や演出家、制作スタッフがいてひとつの作品になるので、リレーでいうところの第二走者。企画の立ち上げにも最後の仕上げにもなかなかいられないのを少し歯がゆく思っていました。

あと作品づくりは“かけ算”なので、全員が面白いと想像の何倍も面白くなりますが、一人でもダメな人がいると作品は面白さを失ってしまいます。そのストレスも少し感じていたんですよ。その点、小説は最初から最後までほぼ一人。つまらなかったら100%自分のせい。そのスッキリしているとこが面白いと感じ、シナリオの世界でストレスが溜まると小説を書きました。一人でするのに飽きてきたらシナリオを手掛けました。

こんな感じで行ったりきたりしていたんです。監督も同じで、デビュー作は先ほども言ったように赤字覚悟、家がなくなってしまう可能性もある中で始めたのですが、それがまたワクワクして面白かったんですよ。

脚本家時代など、人生に退屈していたところに、また燃えるような毎日があるって(笑)。改めて僕はリスクがあることが好きなんだと感じました。そしていろいろやるのが僕の性に合っていたんだと思います。

いろんなことに興味の目を向けるための努力などされていますか?

とくにしていないです。見たくもない映画を見る、なんてことはあまり意味がないと思っていて。そのときに興味があることをやるのが一番。今は供給過多なので、「思い切って見ない、やらない」ことにも意味がある気がします。

あとよく充電のために仕事をストップする方もいらっしゃいますが、僕にはできなくて……。ずっと仕事をしていないと筋力が衰えてしまう気がして、常にアウトプットしておきたいんですよ。

ですから僕は常に、「いつまでに形にしないと何百人に迷惑をかけてしまう」という状態に自分を置いて、それをやり続けているのが向いています。まぁやり方は人それぞれでしょうけど。

監督がクリエイターにとって大事だと思うことはなんですか?

自分に正直でいることです。アマチュアのときは自分の好みで好き勝手な意見を言うじゃないですか。でもいざプロになったら急に正直さが影を潜めて、つまらないものを見ても「いつかあそこと仕事をするかも知れない」なんて思って面白いと言い出すんですよ。

それは止めた方がいい。実際に、僕は素直すぎて数多くの現場をクビになりましたが(笑)、それでも正直で面白いと思ってくれる人たちと仕事を続けていけています。

自身にウソをついてたら、何が本当で何がウソか自分も分からなくなってしまう。そしてそんなウソをつく人の作品なんて、お客さんはきっと気付くし、どう見ればいいか分からなくなると思うんです。ですから自分の気持ちにウソをつかないよう気をつけてください。

あと「面白くない」とはっきり言えることは武器になるはずです。同じ感性の人が集まったり、それを楽しんでくれる人がいるはずなので。僕が業界で生き残っているのですから、間違いないです。

取材日:2021年3月30日 ライター:玉置 晴子 ムービー撮影・編集:村上 光廣

『ブルーヘブンを君に』

ⓒ2020「ブルーヘブンを君に」製作委員会

2021年6月11日(金)全国ロードショー

由紀さおり、小林豊(BOYS AND MEN)、柳ゆり菜、本田剛文(BOYS AND MEN)、おかやまはじめ、岩橋道子、柊瑠美、鈴木信二、関口アナン、松嶋亮太、中田圭祐、小池里奈、田村侑久(BOYS AND MEN)(友情出演)、寺泉憲、和田獏、寺脇康文
監督:秦建日子 脚本:秦建日子、小林昌 配給:ブロードメディア
©2020「ブルーヘブンを君に」製作委員会

 

ストーリー

鷺坂冬子(由紀さおり)、63歳。誰にも作れないと言われた、世界初の青いバラ「ブルー・ヘブン」の生みの親として、園芸家としてはちょっとだけ有名だけれど、今は孫や家族に囲まれて暮らす普通のおばあちゃん。そんな冬子には、家族に言えない秘密があった。がんが再発して現在余命半年のステージ4と診断されたのだ。「治療に専念して余命を延ばそう。まだまだやり残したことがあるだろう!」それは、ハンググライダーで空を飛ぶことだった。病気のことは内緒にしたまま、冬子は蒼汰(小林豊)と正樹(本田剛文)の二人の孫とその友人で溶接工の夏芽(柳ゆり菜)を巻き込み、不可能と言われた夢にチャレンジしていく…。

プロフィール
映画『ブルーヘブンを君に』監督
秦 建日子
1968年生まれ、東京都出身。金融会社の社員として働くかたわら、劇作家・つかこうへいに師事。戯曲家・演出家として活動。1997年より専業の作家活動に入り、「HERO」(01年)「天体観測」(02年)など手がける。2003年から「演劇ワークショップTAKE1」を主宰。2004年に「推理小説」にて小説家デビュー。同作は篠原涼子主演で「アンフェア」としてドラマ化され話題に。その後も、シナリオライター、小説家、劇作家、演出家として幅広く活動。2016年に三重県桑名を舞台にした『クハナ!』で映画監督デビュー。2018年には栃木県宇都宮を舞台にしたラブロマンス『キスできる餃子』を監督。

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