
モニターに向かい、黙々とキーボードを打つ。朝から晩までゲームとプログラムのことを考え、身だしなみや食事なんて二の次。いわゆるひとつのオタク的傾向――ゲームプログラマーと呼ばれる人々には、そんなイメージがつきまとう。そこで、(もちろんそれだけが目的ではないのだけど)今回は、そういう一般的イメージとはまったく対極にいるタイプのゲームプログラマーの方をご紹介します。仕事漬けの生活なんてNO!家族を大切にし、プライベートを重要視し、ついでに夜の繁華街でおねえさまたちと仲良くすることも大好き。ちょっと不真面目に映るけど、実は、それでいて、プログラミングの腕は超一流。フリーランスの制作者としては、かなりかっこいいゾーンにいる川口英世さんです。

たった今は、どんな仕事に取り組んでいるのですか?
(株)フェローズのマネジメントで、(株)ソニー・コンピュータエンターテインメントのPS3開発プロジェクトと契約しています。開発テーマは、ミドルウェア。OSからコンテンツにまで関わる、3次元のプログラムに取り組んでいます。と、内容に関して言えるのは、この辺が限界なんですが。
次世代機の中身にまつわることですから、仕方ないですね。ハード開発は、コンテンツ開発に比べて大変だったりしますか?
いえ、僕にとってはなんの変わりもないです。よく「得意分野は?」という質問をされますが、正直、僕にはそういうものはないんです。便宜上、3D関連とか物理シミュレーションとか異機種間ネットワーク構築とかを得意分野としてあげていますが、仕事として目の前に現れたものは、どんなジャンルであってもこなす自信があります。
なるほど、開発を依頼する側としては、こんなに心強いスタッフはいない。
参加したチームが何をしようとしているのかを読み取って、理解して、「よしやってやろう」と思う。そういうプロセス自体が好きなんですね。そういう意味では、ほんと、ただ好きなことをやっているだけとも言えます。
プログラマーとお話する機会ってあまりないんで、個人的興味をぶつけさせてください。物理シミュレーションって、なんですか?
たとえばPS3では、剛体処理というものができるようになりました。これまでは、「コップが割れる」という現象は、実は「割れたように見せる」「割れたことにする」という記号的な処理でしか表現できなかった。ところがPS3では、ある形をしたコップのあるポイントに石を当て、それを原因に実際に割ることができます。それが剛体処理であり、物理シミュレーションです。石が当たったポイントの中心に、石が当たったことによって生じるトルクなどを意味する式を伝え、それに従って、ちゃんとコップが割れる。
なるほど。自然現象としての「割れる」をリアルに再現できるということですね。
そうですね。これまでの「割れたように見せていた」とは、根本的にまったく違う処理です。
この世界に入ったきっかけは?
ゲームが好きだったから。中学生の時に買ってもらったパソコンで、成り行き的にプログラムなんかもするようになり、進路を決める時にゲームプログラマーを目指すことにしました。
専門学校で勉強して、ゲーム開発会社に入社した。
経歴書だけを追うとそうなります。でも、入社はそんなにスムーズではなかった。何しろ僕が学校を卒業した16年前は、今とは違って、コンピュータ専門学校にゲーム開発会社から求人票なんてまわってきませんでしたから。
そうなんですか。で、どうやって就職活動をした?
自分が持っていたゲームソフトのパッケージを調べて、メーカーの電話番号があったら片っ端から電話した(笑)。
ワイルドだなあ(笑)。たった16年前なのに、就職環境がそんな実態だったということにも驚きますが、川口さんの行動力にも敬服する。
なりたいものになるためには、それくらいの挑戦は必要でしょう。真剣に考えれば、思いつきますよ。
で、無事入社した会社で開発の現場を学んでいく。
最初はアルバイト扱い。「君の実力は、ようわからんから」ということで。実際、現場に出てみると、学校で学んだことは一切役立たなかった(笑)。会社の判断は正しかったし、僕は、そこから本当のゲームプログラミングを一から学んでいきました。たしか最初に取り組んだのは、Z80というCPUだったなあ。なんか、懐かしいです。
最初に入った会社と次の会社は、関西ですね。東京に拠点を移したのはいつ?
1994年に、あるゲームディレクターから誘われた時。大手メーカーの中にさらにプロジェクト推進目的の制作会社を設立するので、参加しないかということでした。なんといってもギャラが倍以上になる条件だったので、ほぼ躊躇なくOKしました(笑)。立場は、それ以降、ずっとフリーランスです。
フリーランスという立場に不安はない?
その時の契約形態がフリー契約だったので、ひとり立ちした制作者ってそういうものなんだと納得して今に至ってます。僕にとっては、フリーであることはとても自然。だって、組織に属したら、どうしても年功序列になる。すると実力はないけど威張っていることだって、できてしまうと思う。プログラマーは常に「今何がどれくらいできるか」で勝負するものだし、だからこそ、実力さえ持っていればちゃんと評価されて、頼りにもしてもらえる。こんなやりがいのある仕事はないと思います。
キャリアは約16年。この間、ゲームプログラマーの世界でもっとも大きな事件ってなんでした?
それはもう、PS(プレイステーション)の登場でしょう。ここからパッケージゲームは、3Dの時代に突入します。雑駁に言うと、プログラマーは数学を操ることを要求されるようになった。それについていけなくなったプログラマーが、けっこういます。
それまでは、必要なかった?
なくても、できました。
3Dに必要な数学というと、たとえばsin(サイン)、cos(コサイン)なんていうやつ?
そうですね。たとえばx方向に1動いている時に、yとzは何コマ動いているべきかということを計算するためにsin、cosを使います。僕も、独学でその辺をマスターしていきました。ただ、やってみると面白かった。高校で三角関数を習った時、習う側の僕たちもそうですが、教える側だってそれがなんの役に立つか知らずに教えていたんだなあとつくづくわかった。テストで点数を獲るためではなく、仕事で必要となって学ぶ数学のなんと面白いことか!と思いました。
なるほど。好きでやっていれば、仕事に必要で学ぶのであれば、数学も楽しく頭に入る。経験者の実感値だから、説得力ありますね。
必要があれば、大概のことは身に付きますよ。
ところで、もう、オープニングのリードでもばらしちゃってるんですが、夜の街、好きみたいですね(笑)
キャバクラ、好きですねえ(笑)。若い女性と歓談するのは、ほんとわくわくする。
そういうこと口外する、というか、そういう遊びをするプログラマーっている?って感じなんですけど。
いや、僕の周りには何人もいますよ。プログラマー=オタクというイメージは、もう実態についていってないですよ。
もれ伺うところによると、ご家族も大切にされているとか。
当然ですね。休日は子供と遊ぶ、そして家庭サービスをする。人生のほとんどを仕事に費やすなんてことは、微塵も考えてないですよ。
でも、プログラマーって、不規則で、徹夜なんかも多いんでしょ?
僕は徹夜はしません。仕事はパリパリ片付けて、さっさと帰ります。家では、プログラムなんて絶対しません。僕は仕事人生をマラソンだと思っているから、意味無く序盤で飛ばして息切れする愚を犯すつもりはありません。
そうかあ、そういうプログラマーもいるんだ。そういうやり方でも、やっていけるんですね!
プライベートが充実してない奴が、どうやって人に夢を提供できる?僕は、そう考えてます。
いわゆる「業界の風土」みたいなものに対して、かなり明確な意思表示がありますね。
そうですね、この業界には変えたほうが良い、悪い慣習があると思う。まず、夜ダラダラと仕事を長引かせて、「やってる感」にとらわれがちなのが良くない。そういうやり方をしているから「燃え尽きる」人だって出る。結果的に労働時間が長くなって、実質低賃金労働をすることにもなる。それは、ひいては、ゲームプログラマーの価値が下がることにつながるし、社会的地位だって下がる。僕は、たった今現役で働いている人たちは、あとからこの世界を目指す人たちに希望を与えることにも責任を感じるべきだと思う。そういう意味で業界全体が無自覚なのが問題だと思います。
これまでのプログラマー人生を振り返っての感想は?
適職に就いた。楽しかった。あっという間だった。
これからのビジョンは?
これから――それがけっこう難しいですね。このまま、フリーランスを続けるか、会社にするか……。まあ、でもプライベートを充実させることが最優先ですね。
それだけ?
もっとネットが速くなったら、田舎住まいでもプログラマーができると思う。そうなったら山奥に住んで、毎日渓流釣りでもして、その合間にプログラムする。それが夢、みたいなものですかね。あっ、でもちょっと無理かも。夜の街は、やっぱり恋しいと思う(笑)。
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